半導体製造装置の最大手・東京エレクトロン(8035)の株価が急伸。7月31日の終値は前日比+3,260円(+6.24%)高の55,500円。前日7月30日の引け後に発表した2027年3月期第1四半期決算を好感した買いが集まりました。7月に半導体株安の渦中で高値から大きく調整していた同社にとって、下げの流れをいったん反転させる一日となりました。

1. 第1四半期は営業利益46%増、売上高は前年同期比33%増

7月30日の引け後に発表された2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月期)の実績は、売上高が前年同期比33.3%増の7,324億円、営業利益が同46.1%増の2,114億円、経常利益が同46.3%増の2,156億円、当期純利益が同39.5%増の1,643億円でした。1株利益(EPS)は361円、自己資本比率は71.7%です。

なお、会社は半導体市況の変動が大きいことを理由に今2027年3月期の通期業績予想を開示していません。上期のみ開示。

2. 高値から3割超の下落、そして決算での急反発

過去1カ月の株価は、右肩下がりからの急反発という荒い展開でした。7月上旬には7万円台半ばの高値をつけていましたが、AI・半導体セクターからの資金流出で断続的に売られ、7月中旬に7万円を割り込み、下旬には6万円台前半まで水準を切り下げます。

下げは決算週に加速。7月29日の終値は55,920円、決算発表当日の7月30日はさらに下げて52,240円まで押し込まれ、高値からの下落率は3割超に達しています。決算を前に持ち高を軽くする売りも重なりました。

潮目が変わったのは翌7月31日です。前日引け後に出た好決算を好感し、前日比+3,260円(+6.24%)高の55,500円へ急反発。1カ月続いた下げの流れを、決算がいったん押し戻す形になりました。

3. 強気シナリオの「答え合わせ」と、下げすぎからの反発

なぜ、決算を境に株価が反転したのか。

7月の東京エレクトロン株は同社固有の悪材料ではなく、半導体・AIセクター全体からの資金流出で売られていました。AI(人工知能)向け巨額投資の回収懸念や米半導体株の急落が繰り返し波及し、月初の上場来高値圏から水準を切り下げていたのです。つまり決算前は「事業は良いはずだが、需給で売られている」状態でした。

そこに好決算が出たことで、二つの買いが重なりました。

一つは、強気の業績シナリオが実際の数字で確認できたことによる買いです。2026年3月期は営業利益が前期比▲10.4%と減益で、半導体の設備投資サイクルの端境期にありました。そこからの巻き返しで四半期の営業利益が5割近く伸び、市場が描いてきた「今期は利益が大きく回復する」というシナリオを初回の決算が裏づけました。

もう一つは、決算を警戒して持ち高を軽くしていた投資家の買い戻しです。下げすぎていた反動もあり、値動きが大きく出ました。ファンダメンタルズ(業績の中身)と需給・市場心理は本来切り分けて見るべきものですが、今回は両者が同じ方向に揃ったことで、上げ幅が膨らんだといえます。

4. 世界最大手の装置メーカー——「AI設備投資のツルハシ屋」

東京エレクトロンは、半導体をつくる工程で使う製造装置の世界的な大手です。とりわけ回路を描く前の塗布・現像を担うコータ/デベロッパでは圧倒的な世界シェアを持ち、エッチング(回路を削る)、成膜、洗浄といった前工程の主要装置を幅広く手がけます。半導体メーカーが工場を建て、生産能力を増やすほど装置が売れる構造で、生成AI向けの先端半導体や高帯域メモリ(HBM)の増産は中期的な追い風とされます。

たとえるなら、AIという「ゴールドラッシュ」で、金を掘る人たちに「ツルハシ」を売る立場です。半導体メーカー各社がAI対応の設備投資を競って積み増すほど、その恩恵が装置メーカーに回ってきます。今回の増収増益も、この追い風が数字に表れたものといえます。ただし裏を返せば、半導体の設備投資には好不況の波(サイクル)があり、投資が一巡すれば装置需要も鈍ります。前期に営業減益となったのはこのサイクルの端境期にあたっていたためで、需要の波そのものが消えたわけではない点は押さえておく必要があります。

5. 予想PER約35倍・実績PBR約12倍——好決算でも「割安」とは言い切れない

では、55,500円という株価をどう評価すればよいのでしょうか。

前述のとおり同社は通期業績予想を開示していないため、予想PERは会社予想ではなくアナリストのコンセンサス予想をもとにした参考値になります。決算前のコンセンサス(当期利益7,232億円前後、予想EPS約1,590円)で計算すると、55,500円での予想PERは約35倍。前期末の1株純資産をもとにした実績PBR(株価純資産倍率)は約12倍です。

予想PER約35倍は、半導体装置株としてはなお高い水準です。

ここで役立つのがPBR = ROE × PERという評価式です。実績PBRが約12倍と高いのは、同社のROE(株主資本利益率)が約30%と非常に高いことの裏返しですが、この高ROEには過年度の特別利益がかさ上げした面もあり、額面どおりには受け取れません。つまり現在の株価は、「今期に利益が5割前後回復し、その先もAI設備投資が拡大し続ける」という強気の前提を、すでにかなり織り込んでいます。第1四半期はその前提に沿う好スタートでしたが、通期の進捗率でみればまだ2割強を消化した段階にすぎません。好決算で株価が戻ったからこそ、「良い会社」であることと「いま買うべき値段」であることは別だ、という視点がむしろ重要になります。前述の10月の株式分割は投資単位を下げ、個人が買いやすくなる点で今後の需給を見るうえでの材料になります。

6. 元機関投資家イズミダの視点:好決算の「答え合わせ」が済んだ後こそ、値決めが効く

私はかつてテクノロジーアナリストとして半導体産業を追いかけてきましたが、今回の一連の動き——7月に需給で売られ、好決算で買い戻される——は、いまの相場の性格をよく表しています。多くの人は「AIブームの中心にいる会社なら株も強いはずだ」と考えます。

ところが実際には、AI相場の主役ほど、潮目が変わると真っ先に大きく売られ、材料が出ると大きく戻る。個々の会社の良し悪しの前に、半導体・AIというセクターへ資金がまとめて出入りするからです。プロの投資家は個別銘柄より先に「どのセクターに厚く置くか」を動かす。そのローテーションの波が来れば、優良企業でも一緒に流されます。ファンダメンタルズと需給は、必ず分けて考えなければいけません。

そのうえで、今回は好決算が強気シナリオの「答え合わせ」になりました。ここで気をつけたいのは、答え合わせが済んだ後です。市場はすでに今期5割増益を織り込み、決算でそれが確認された。だとすれば、次に株価を動かすのは「想定どおり」ではなく「想定を超えるか、下回るか」です。

私がいつも言うように、株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、大事なのは値決めです。会社があえて通期見通しを出さないほど、この業界の先行きは振れ幅が大きい。予想PER約35倍という評価は、回復が続くことをすでに前提にしています。好決算で戻った55,500円が、次のサイクルのどこを織り込んだ値段なのか。そこを冷静に見極めることが、これからの東京エレクトロン株を見るうえで一番の注目ポイントです。

泉田 良輔