6. 高齢無職世帯の貯蓄は減少へ。長寿化と物価高がもたらす「取り崩し」

二人以上世帯全体では貯蓄額が過去最高を更新していますが、実は「世帯主が65歳以上の無職世帯(高齢無職世帯)」に絞ると、別の視点が見えてきます。

6.1 世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高の推移(二人以上世帯)

  • 2020年: 2292万円
  • 2021年: 2342万円
  • 2022年: 2359万円
  • 2023年: 2504万円
  • 2024年: 2560万円
  • 2025年: 2494万円

上記の推移からも分かる通り、65歳以上の無職世帯(二人以上世帯)の2025年の貯蓄現在高は2494万円となり、ここ数年の増加傾向から一転して前年から減少に転じました。

この背景の一つとして、近年の物価高の影響が考えられるでしょう。現役世代であれば賃上げ等で収入を増やす余地がありますが、高齢無職世帯は主な収入を公的年金に頼っています。

年金額自体は引き上げられていますが「マクロ経済スライド」による給付調整もあり、物価の上昇分がすべてカバーされるわけではありません。

そのため、日々の生活費の不足分を貯蓄から取り崩す動きが表れていると考えられます。

老後は貯めるだけでなく、長寿化を見据えて計画的に資産を活用する「デキュムレーション」の視点がより求められる時代に入っていると言えるでしょう。

7. 負債保有世帯の割合は40歳代で67%のピーク→50歳代で純貯蓄プラス1013万円に好転。ライフステージで変わる「貯蓄」と「負債」のバランス

世帯主の年代による違いにも目を向けてみましょう。貯蓄額は年齢とともに増加する傾向にありますが、家計の実態を正確に把握するには、同時に「負債」の動きを見ることが不可欠です。

総務省統計局のデータから、子育てやマイホーム購入が重なる世代と、その後の世代を年代順に追っていくと、以下のような明確な推移が見えてきます。

ライフステージ別 貯蓄と負債のバランス(純貯蓄)の推移6/6

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)―2025年(令和7年)平均結果―(二人以上の世帯)」

7.1 40歳未満は「純貯蓄マイナス888万円」

貯蓄994万円 - 負債1882万円 = 純貯蓄マイナス888万円

平均貯蓄額は994万円ですが、住宅ローンなどを中心に平均1882万円の負債を抱えています。

「純貯蓄(貯蓄から負債を差し引いた額)」で見るとマイナス888万円と、大きな赤字状態からのスタートとなります。

7.2 40歳代は「純貯蓄マイナス102万円」で負債割合がピーク

貯蓄1381万円 - 負債1483万円 = 純貯蓄マイナス102万円

平均貯蓄額は1381万円まで増えますが、負債も平均1483万円と依然として高い水準にあります。

純貯蓄はマイナス102万円の赤字です。また、負債を抱えている世帯の割合は全年代で最も高い67.0%に達しており、家計の負担がピークを迎える時期なのです。

7.3 50歳代で「純貯蓄プラス1013万円」へ大きく好転

貯蓄1756万円 - 負債743万円 = 純貯蓄1013万円

住宅ローンの返済が進むことなどにより、状況が劇的に変わります。

貯蓄1756万円に対して負債が743万円まで減少し、純貯蓄はプラス1013万円と、ここで大きく黒字に転じます。

7.4 60歳代で「純貯蓄プラス2609万円」と資産が最大化

貯蓄2843万円 - 負債234万円 = 純貯蓄2609万円

貯蓄が2843万円と全年代で最も高くなる一方で、負債は234万円まで激減します。

純貯蓄はプラス2609万円となり、定年退職などを経て家計の資産形成が最も安定する時期であることが読み取れます。

このように、表面的な「貯蓄額の多寡」だけで家計の豊かさを測ることはできません。

年代特有のライフイベントに伴う「負債」とのバランス(純貯蓄)に着目することで、各家庭がどのようにお金を管理し、ライフステージに応じた資産形成を行っているかの全体像がより鮮明に見えてきます。

8. まとめ:平均値に焦らず「仕組みづくり」で家計を防衛しよう

平均貯蓄額との差に一喜一憂するのではなく、自分の家計を守るための具体的な行動を起こすことが重要です。その鍵となるのが、税制優遇制度の活用です。

手取りを増やす視点では、所得控除や非課税制度の活用が欠かせません。特に、運用益が非課税となるNISAなどを利用すれば、税負担を抑えながら効率的に資産形成を進めることが可能です。

活用を検討したい代表的な制度には、次のようなものがあります。

  • 医療費控除
  • 生命保険料控除
  • 寄付金控除(ふるさと納税もそのひとつです)
  • iDeCo(個人型確定拠出年金)
  • NISA

これらの制度は、知っていても使わなければメリットはありません。手続きの手間を惜しまず積極的に活用することで、手元に残るお金を増やし、安定した貯蓄環境を整えやすくなるでしょう。

9. 筆者のコメント

熊谷 良子

老後の生活に向けた資産づくりは、ただ漠然と貯めるだけでなく、インフレ(物価高)によるお金の価値の目減りを意識することが大切です。

物価が上がると、同じ100万円でも買えるものが減ってしまいますよね。

そこで、流動性の高い「預貯金」、インフレに強い「投資」、万が一に備える「保険」をバランスよく組み合わせたポートフォリオを組むことが、家計防衛の大きな助けになります。

筆者はフリーランスを経験したことで、収入の波に備えつつ長期目線でコツコツ資産を育てる重要性を身をもって学びました。

新NISAなどを活用しながら、ご自身が無理なく続けられるペースでインフレに負けない資産形成を進めていけるといいですね。

参考資料