インバウンドで百貨店は絶好調。そんなイメージを持っている人も多いだろう。だが百貨店大手のJフロント リテイリング(3086)に関しては、そのイメージとは温度差があるようだ。2027年2月期1Qの営業利益(IFRS)は減益で始まり、株価もこの1カ月は軟調に推移した。
華やかな話の裏で数字が何を示しているのか、直近の株価と決算、そして百貨店に不動産が重なるこの会社ならではの収益構造から見ていきたい。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
1カ月で1割ほど水準を下げた株価と、先回りする警戒
直近1カ月の株価は、7月1日の3,342円を高値に、じりじりと水準を切り下げてきた。7月24日には2,938円と過去1カ月の安値を付け、7月30日の終値は2,995円と、1カ月では1割ほど下げた計算になる。株価水準に対する直近のバリュエーションは、PER(株価収益率)が25倍台、PBR(株価純資産倍率)が1倍台後半にある。
見逃せないのは、株価が業績の発表に先んじて下げてきた点だ。市場は、これまで業績を押し上げてきたインバウンド需要が一巡へ向かうという見方を、実際の減益が数字で確認される前から先回りしていた可能性がある。株価はしばしば、事実そのものより「これからどうなるか」の予想で動く。
直近の2027年2月期1Qは、売上収益1,064億円(前年同期比▲3.9%)、営業利益141億円(▲11.7%)、当期利益97億円(▲7.5%)と、そろって前年を下回った。前期の2026年2月期も営業利益490億円(▲15.8%)と減益で、会社は今期の通期についても、売上収益4,690億円(+5.4%)に対し営業利益470億円(▲4.1%)と、増収ながら小幅な営業減益を計画している。
背景として意識されるのは、インバウンド需要の勢いが一巡しつつあることだろう。円安を追い風にした訪日客の高額消費は、百貨店の売上を数年にわたり押し上げてきた。その伸びが鈍れば既存店の売上は伸びづらくなり、利益率も下がっていく。1Qの減益には、そうした追い風の減衰が背景にある可能性がある。
「百貨店」とだけ見ると採算を取り違える
もっとも、この会社を単なる百貨店として見ると、収益の実像を取り誤ってしまう。前期の営業利益率はおよそ11%で、小売業の中央値である3.8%を大きく上回る。ただしこれは、比較対象となる小売業の多くが薄利な業態であることの裏返しでもあり、単純な優劣とは解釈できない。実際、粗利率でみればおよそ48%と、小売業の中央値とほぼ同水準にとどまる。
高い営業利益率を支えているのは、百貨店に重なる不動産事業だ。前期末で1,772億円の投資不動産を抱え、都心の商業施設から得るテナント賃料が、景気に左右されにくい利益を生む。百貨店の売上が客数や単価、そしてインバウンドの波で振れても、不動産の利益がその振れをやわらげる。減益局面でも営業利益率が二桁を保つ背景には、この複合構造があるのだ。その二重構造をどう捉えるか、そして今後どうなっていくかが、この銘柄の読みどころであろう。
減益でも緩めない還元と、重い資産という宿題
利益の流れを過去5期でたどると、いまの局面がはっきりする。コロナ禍直後の2022年2月期は営業利益が94億円まで落ち込んだが、その後は都心店の復調とインバウンドの追い風で回復し、2025年2月期には営業利益582億円、ROE(自己資本利益率)10.5%まで戻した。ところが直近の2026年2月期は、営業利益490億円、ROE6.9%へと反落している。
つまり足元の減益は、単なる一時的な落ち込みというより、コロナからの回復がひとつのピークを越え、次の成長の柱を探す局面に入ったサインと読むべきだろう。インバウンドという強い追い風が弱まったあと、何で稼ぐのかが問われている。
そして、株主還元の姿勢は崩れていない。前期の年間配当は54円で、今期は56円への増配を計画する。減益のなかでも配当を保ち、むしろ積み増す構えだ。前期の配当性向はおよそ5割に達しており、利益が減れば性向は受動的に切り上がる。この水準をどこまで保つかは、今後の利益の戻り方次第という側面もある。
一方で、資本効率には課題が残る。ROEは6.9%と、小売業の中央値7.5%をやや下回る。厚い不動産を抱えるぶん総資産が大きく、「その資産が生む利益の効率」という点では伸びしろがある。保有する不動産をどれだけ効率よくキャッシュと利益へ変えられるか。ここが、市場の評価を一段引き上げる際の論点になりそうだ。
筆者コメント
同社には消費やインバウンドの波を受けて上下する百貨店があり、もう一方には、都心の不動産という波の小さいテナント賃料の事業がある。1Qの減益は前者の軟調さを、二桁の営業利益率は後者の底堅さを示していそうだ。同じ決算書のなかで、性格の違う二つの事業の効果が組み合わさっている構図だ。
なので私は、この銘柄を百貨店株としてだけ語るのは難しいと考える。百貨店の目先の売上に一喜一憂するより、都心の一等地という資産が、消費の弱含む局面で全体をどこまで支えるかを見るほうが実態に近い。そしてその厚い資産を、会社が今後どれだけ効率よく利益へ変えていけるかが、今後の肝だろう。
インバウンドという派手な物語から一歩引いて、二重構造の収益がどう噛み合うかに目を向けたい。
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石津 大希
