トヨタ自動車(7203)の株価は、7月29日の終値で3,224円となり、対前日比+7.18%上昇しました。半導体関連株が大きく値を下げる中、日本最大の時価総額(約47兆円)を持ち、トップを走る自動車メーカーである同社は大きく値を上げました。

一方で、予想PER(株価収益率)は約12.8倍、実績PBR(株価純資産倍率)は約1.05倍取引されています。ただし、会社は今期も大幅減益を計画しています。世界一の自動車会社がなぜこの評価にとどまるのか。業績・株価・バリュエーションの関係から読み解きます。

1. 2027年3月期は減益計画、それでも増配

2026年3月期は、売上収益が前期比5.5%増の50兆6,850億円と初めて50兆円を超え過去最高でしたが、営業利益は3兆7,662億円(前期比▲21.5%)、当期純利益は3兆8,481億円(同▲19.2%)と大幅な減益でした。そして会社が示す今2027年3月期の計画は、営業収益51兆円(前期比0.6%増)に対し、営業利益3兆円(同▲20.3%)、当期純利益3兆円(同▲22.0%)と、さらなる減益を見込んでいます。1株利益(EPS)の会社予想は251.25円です。

一方で、株主還元は強化しています。年間配当は前期の95円から100円へ増配する計画。利益が減る局面でも還元を増やす姿勢は、財務の底力の表れといえます。なお、次の関門は8月4日に予定される2027年3月期第1四半期決算で、減益計画に対する滑り出しと、後述する関税の影響が確認できる注目点になります。

2. なぜ利益が減るのか——「関税」という逆風

減益の最大の要因は、米国の関税です。トヨタは決算資料の中で、米国の関税政策による前期の営業利益への減益影響額が1兆3,800億円に達したことを明らかにしています。これに為替影響、成長投資や労務費の増加が重なり、増収でも利益が押し下げられました。

ただし、事業の稼ぐ力そのものが衰えたわけではありません。前期の営業キャッシュフローは5兆4,729億円あり、本業が生む現金は潤沢です。減益の中身は、構造的な競争力の低下ではなく、関税や為替という外部環境の逆風が大きい——ここは業績を読むうえで重要な切り分けです。

次回発表される2027年3月期第1四半期決算では、どこまでの減益となるのか、関税影響はどの程度なのか、また営業キャッシュフローはどのように推移したのかが注目ポイントとなります。

3. 予想PER12.8倍・実績PBR1.05倍——「世界一の会社」がなぜ割安なのか

では、3,224円という株価をどう評価すればよいのでしょうか。会社予想EPS251.25円をもとにすると予想PERは約12.8倍、前期末の1株純資産(実績BPS3,062.82円)に対する実績PBRは約1.05倍。予想配当利回りは約3.1%です。株価はこの1年、2月に一時4,000円前後の高値をつけたあと、米関税への警戒から6月にかけて2,700円前後まで水準を切り下げ、足元は戻り歩調にあります。

注目すべきは、実績PBRが約1.05倍と、ほぼ1倍にとどまっている点です。PBR1倍は、理論上その会社を解散したときに株主に戻る価値(解散価値)とほぼ同じ水準を意味します。世界一の自動車会社が、解散価値並みの評価にとどまっている——ここにトヨタの「万年割安」と呼ばれる特徴があります。

その理由は、PBR = ROE × PERという関係で説明できます。

トヨタのROE(株主資本利益率)は約10.1%と、決して低くはないものの飛び抜けて高いわけでもありません。加えて、自動車ローンなどの金融事業を抱えてバランスシートが巨大なこと、そして自動車産業が景気や政策(今回の関税)に業績を左右されやすいことから、市場はPERを低めに置いています。

稼ぐ効率が世界的テック企業ほど高くはなく、外部環境のリスクも大きい。その結果として、PBRがほぼ1倍にとどまっているわけです。裏を返せば、関税の逆風が和らぎ、資本効率がもう一段高まれば、この割安な評価が見直される余地がある、ということでもあります。

4. イズミダの視点:バリューの代表格トヨタを、相場の潮目の中で読む

私は以前、トヨタについて「業績が好調でも株価が低迷することは、相場の循環の中でよく起きる」と書いたことがあります。当時はグロース株が買われ、バリュー株が置き去りにされる局面でした。いまのトヨタには、そこに「関税」という固有の逆風が加わっています。世界一の自動車会社が、解散価値並みのPBR1倍、予想PER13倍弱、配当利回り3%超で買える——これは、割安を好む投資家にとっては魅力的に映る一方で、市場が関税と減益をそれだけ慎重に織り込んでいる、ということでもあります。

ここで、私がいつも言うことをもう一度。株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、大事なのは値決めです。トヨタが世界に冠たる優良企業であることに疑いはありません。しかし、「良い会社」であることと「いま買うべき株」であることは別の問題です。PBR1倍という数字が「割安の証」なのか、それとも「関税と減益が続くという市場の冷静な評価」なのかは、これから出てくる数字が決めます。カギは2つ。

ひとつは、8月4日の第1四半期決算で関税の影響がどこまで出るか。

もうひとつは、東京証券取引所のPBR改革という潮目の中で、トヨタが自社株買いや政策保有株の削減といった資本効率の改善をどこまで進め、ROEを押し上げられるか。世界一の会社の「万年割安」が見直される局面が来るのか——そこが、これからのトヨタ株を見るうえで一番の注目ポイントです。

参考資料

泉田 良輔