伊藤忠商事(8001)の株価が高値圏で推移しています。7月24日の終値は1,957.5円、時価総額は約15兆円に達します。総合商社は「投資の神様」ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハザウェイが投資したことでも知られます。いわゆる5大商社(三菱商事・三井物産・住友商事・丸紅・伊藤忠)のなかで、伊藤忠は最も高く評価されている一社です。なぜ株式市場は伊藤忠に一段高い評価を与えているのか。業績と株価、バリュエーションの関係から読み解きます。

1. 増収増益、次期も一段の伸びを計画

2026年3月期は、収益(売上高にあたる)が前期比0.7%増の14兆8,231億円、当期純利益が同2.3%増の9,003億円でした。会社は翌2027年3月期について、当期純利益9,500億円(前期比5.5%増)と、さらなる伸びを見込んでいます。年間配当も累進的に引き上げる方針を掲げており、増益と株主還元の両輪で成長を続けています。

2. 商社株は「(売上)収益より純利益とROE」で見る

ここで、商社株ならではの決算の見方に触れておきます。総合商社の「収益(売上高)」は、ビジネスモデルの関係上、事業規模の実感とは必ずしも一致しません。そのため、商社を評価するときは収益(売上)の額面よりも、最終的にいくら稼いだか(当期純利益)と、株主資本に対する稼ぐ効率(ROE=株主資本利益率)を重視するのが素直です。

伊藤忠のROEは約14.6%。同じ大手商社でも、三菱商事(約8.5%)、三井物産(約10.2%)、豊田通商(約12.8%)を上回り、5大商社のなかで最も高い水準にあります。伊藤忠は鉄鉱石や原油といった資源事業への依存が相対的に小さく、ファミリーマートに代表される生活消費関連や、繊維・食料など「非資源」の分野で安定的に稼ぐ収益構造が特徴です。市況に振らされにくい稼ぐ力の高さが、この高いROEに表れています。

3. PER14倍・PBR2倍——商社トップの評価をどう読むか

では、株価はこの実力をどう評価しているのでしょうか。7月24日の終値1,957.5円をもとにすると、会社予想の1株利益(予想EPS約137円)に対する予想PER(株価収益率)は約14倍、1株純資産に対するPBR(株価純資産倍率)は約2.1倍です。予想配当利回りは約2.3%となります。

ここで役立つのが、

PBR = ROE × PER

という株式の評価式です。

伊藤忠のPBRが約2.1倍と、多くの商社(かつては1倍前後で評価されることも多かった)より高いのは、分解すればROEが約14.6%と高いことが効いています。稼ぐ効率が高い会社は、同じPERでもPBRが高く評価される——伊藤忠はその教科書どおりの姿を示しています。

低PBRで放置されがちだった商社株のなかで、伊藤忠だけが評価を一段切り上げてきたのは、この資本効率の高さを市場が認めたからだといえます。

4. 累進配当という安心感と、景気敏感というリスク

投資家にとっての魅力は、株主還元の手厚さです。会社は減配せず配当を維持・増加させる「累進配当」を掲げ、自己資本比率も約39%と、事業の幅広さに見合う財務を保っています。安定した非資源収益がその原資を支えています。

一方でリスクもあります。商社は多岐にわたる事業を抱えるがゆえに、世界景気の減速や、資源市況の下落、円高による海外利益の目減りといった外部環境の影響を受けます。株価がすでに高値圏にあり、PBRも2倍を超えて評価されているだけに、これまでの高ROEが揺らげば、株価の調整につながる可能性もあります。「割安だから買う」という局面はすでに過ぎており、これからは高い評価に見合う稼ぐ力を維持できるかが問われます。

5. イズミダの視点:バフェットはなぜ商社を選び、伊藤忠は何が違うのか

バフェットが日本の総合商社に投資したとき、多くの人が意外に思ったはずです。派手なハイテク株ではなく、地味とされてきた商社。しかし彼が見ていたのは、当時PBR1倍前後と割安に放置され、配当利回りも高く、世界中の事業に分散された「安く買える優良企業」でした。まさに、私がいつも言う「株式投資はなんでも鑑定団と同じ、大事なのは値決め」の好例です。安いときに、価値あるものを買う。バフェットの商社投資は、その原則を絵に描いたようなものでした。

そのうえで伊藤忠を見ると、5大商社のなかでも「非資源で稼ぐ高ROE企業」という点で一歩抜けています。資源価格に振らされる商社が多いなか、ファミマや生活消費といった地に足のついた事業で高い資本効率を出し続けてきた。だからこそ、他社が低PBRにとどまるなかで、伊藤忠だけがPBR2倍まで評価を切り上げられたわけです。

ただ、ここまで評価が上がると、次は「割安だから」ではなく「その高ROEがこの先も続くか」で株価が動きます。非資源の稼ぐ力をどこまで伸ばし、株主還元を続けられるか——バフェットが見抜いた価値の、その先の物語を描けるかが、これからの伊藤忠株の注目ポイントです。

泉田 良輔