6. 【75歳以上】高齢になると医療費はいくら増える?支出データから実態を見る

一方で、老後の医療費を考える際、「夫婦なら医療費も二人で半分ずつ発生するだろう」と考えてしまうと、実際の家計との間にズレが生じることがあります。

実際には、医療費は夫婦のどちらか一方に集中してかかるケースも少なくありません。こうした"偏り"も想定して備えておくことが、現実的な老後資金の準備につながります。

6.1 医療費は「世帯平均」どおりには分かれない

統計では夫婦世帯全体の平均医療費が示されることが多いものの、その金額が夫婦それぞれに同じようにかかるわけではありません。

実際には、健康状態や持病の有無、生活習慣の違いなどによって医療費には大きな個人差があります。そのため、世帯全体では平均的な支出であっても、実際には一方に医療費が集中しているケースも珍しくありません。

6.2 一方に集中することで家計への影響は大きくなる

医療費が夫婦のどちらか一方に偏ると、家計への影響も平均額以上に大きく感じられることがあります。例えば、定期的な通院や継続的な服薬が必要になれば、その費用は毎月の固定的な支出として積み重なっていきます。

厚生労働省の「国民医療費の概況」を見ると、通院(外来)や薬局での薬代が医療費全体の中でも大きな割合を占めていることが分かります。

医療費の内訳2/3

医療費の内訳

出所:厚生労働省「国民医療費の概況」

医療費の主な内訳は次のような構成になっています。

  • 入院医療費:37.1%
  • 入院外(外来・通院)医療費:34.7%
  • 薬局調剤医療費(薬代):17.6%
  • 歯科診療医療費:6.9%
  • 入院時食事・生活医療費:1.5%
  • 訪問看護医療費:1.2%
  • 療養費等:1.0%

これらの費用は世帯単位ではなく、基本的に一人ひとりに発生する支出です。そのため、もう一方が健康で医療費がほとんどかからなくても、世帯全体としては継続的に医療費を負担する状況となり、生活費に占める割合も高くなりやすくなります。

また、入院や手術が重なれば、一時的にまとまった支出が発生し、家計に大きな負担を与える可能性もあります。

6.3 医療費の偏りはそのまま介護リスクにつながる

さらに注目したいのは、医療費の偏りが、将来的な介護費の発生とも結び付きやすいという点です。

慢性的な病気や身体機能の低下が続くと、そのまま要介護状態へ移行するケースも少なくありません。つまり、現在医療費が多くかかっている人が、将来的には介護費の中心的な負担対象になる可能性も高いと考えられます。

このように考えると、医療費は単独の支出として捉えるのではなく、「将来の介護費につながる入口」という視点で考えることも大切です。

6.4 「二人で分散される」という前提を見直す

老後資金を考える際、「夫婦二人ならリスクも二人で分散できる」と考えがちですが、医療費については必ずしもそうとは限りません。

むしろ、どちらか一方に医療費が集中することで、世帯全体の支出が長期間にわたって増え続けるケースも十分に考えられます。

そのため、老後資金の計画では平均額だけを見るのではなく、「どちらか一方に医療費が偏る可能性」も踏まえて準備しておくことが、より現実的な備えにつながるでしょう。

7. 【75歳以上】健康寿命が終わる前に知っておきたい 医療制度の基本と老後への影響

老後の医療制度は「75歳になってから考えればいい」と思われがちです。

しかし、厚生労働省の統計を見ると、健康上の問題なく日常生活を送れる「健康寿命」と平均寿命には約10年前後の差があります。

この期間は、通院や入院、介護サービスを利用する機会が増えやすい時期でもあります。制度を必要としてから慌てて調べるのではなく、元気なうちから仕組みを理解しておくことが、将来の家計や生活を守る第一歩になります。

7.1 健康寿命と平均寿命には約10年前後の差がある

内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、日本人の平均寿命と健康寿命は次のようになっています。

健康寿命と平均寿命の推移3/3

健康寿命と平均寿命の推移

出所:内閣府「令和7年版高齢社会白書」

平均寿命

  • 男性:約81.1歳
  • 女性:約87.1歳

健康寿命

  • 男性:約72.6歳
  • 女性:約75.5歳

平均寿命と健康寿命には、

  • 男性で約8~9年
  • 女性で約11~12年

の差があります。つまり、多くの人は平均すると約9〜12年の間、何らかの健康上の課題を抱えながら生活していることになります。

この期間は、通院回数が増えたり、薬を継続的に服用したり、場合によっては介護サービスを利用したりする可能性が高くなる時期です。

7.2 医療制度を知るタイミングは「75歳になってから」では遅いことも

75歳になると後期高齢者医療制度へ移行し、医療費の自己負担割合や高額療養費制度など、利用する制度が大きく変わります。

しかし、制度の仕組みを初めて調べるのが病気や入院をきっかけというケースは少なくありません。

実際には、住民税や所得によって自己負担割合が決まることや、高額療養費制度によって医療費には上限が設けられていることなど、知っているだけで家計への不安を軽減できる制度も数多くあります。

元気なうちに制度を理解しておけば、いざという時にも落ち着いて対応しやすくなるでしょう。

7.3 医療と介護は切り離せない時代になっている

健康寿命を過ぎると、医療費だけでなく介護費や生活支援サービスの利用も視野に入ってきます。

慢性疾患による継続的な通院が、そのまま介護サービスの利用につながるケースも珍しくありません。

そのため、老後資金を考える際には、「医療費はいくらかかるか」だけでなく、「介護も含めた支出がどのように増えていくのか」という視点を持つことが重要です。

7.4 元気なうちに制度を知ることが、将来の安心につながる

老後の医療制度は、病気になってから覚えるものではありません。

健康な今だからこそ、後期高齢者医療制度や高額療養費制度の仕組みを理解しておくことで、将来の家計設計にも余裕が生まれます。

8. まとめにかえて|75歳以降の医療費変化を踏まえた老後資金の備え方

75歳になると後期高齢者医療制度へ移行し、医療費の窓口負担は所得や世帯構成に応じて1割・2割・3割に分かれます。

また、高額療養費制度によって医療費には一定の自己負担上限が設けられていますが、制度の内容は固定されたものではありません。

2026年5月に成立した改正法に基づき、2026年8月から高額療養費制度の段階的な見直しがスタートしました。

老後のライフプランや資金計画を立てる上では、こうした最新の制度改正の動向を常に反映させていくことが極めて重要です。

少子高齢化が進むなか、公的医療保険制度は今後も見直しが続く可能性があります。

制度を正しく理解し、最新情報を確認しながら、預貯金や資産形成も含めた無理のない資金計画を立てていくことが、長い老後を安心して過ごすための備えにつながるでしょう。

9. 筆者からのコメント

熊谷 良子

統計データの世帯平均値だけを見ていると、実際の老後家計に生じる「夫婦のどちらか一方に医療費が偏る」というリアルなズレを見落としてしまいます。

さらに健康寿命と平均寿命の間に横たわる「約10年の壁」は、医療から介護へと支出がシームレスに移行し、家計への影響が固定化しやすい時期でもあります。 だからこそ、まさに今月(2026年8月)からスタートした高額療養費制度の段階的改定の動向を正しくキャッチすることが重要です。

こうした公的セーフティネットの役割と限界(差額ベッド代などの対象外費用)を元気なうちから理解しておくことは、老後家計の本当の不足分を浮き彫りにしてくれます。

その不足部分を、NISAなどを活用した現役時代からの計画的な資産形成や預貯金でカバーしていく「ハイブリッドな家計設計」こそ、現代の長寿社会を安心して生き抜くための基本となるでしょう。

参考資料