3. 高配当株が"割安"を抜け出すとき
では、株価はこの実力をどう評価しているのでしょうか。
7月24日の終値6,461円をもとにすると、会社予想の1株利益(予想EPS約321円)に対する予想PER(株価収益率)は約20倍、1株純資産に対するPBR(株価純資産倍率)は約2.8倍です。配当利回りは約3.7%です。
かつてJTは「規制が厳しく、数量も減る斜陽産業」として、株価が長らく低迷し、利回りだけが高い"割安株"の代表でした。ところが、値上げと海外・円安効果で利益成長が続くと市場が認めた結果、株価は水準を切り上げ、高配当を受け取りながら株価上昇も期待できる銘柄へと評価が変わってきました。低PBRから抜け出しつつある今、単純な「利回りが高いから割安」という理屈だけでは語れなくなっています。
4. 高配当の裏にある「値上げと為替」への依存
JTの魅力は、景気に左右されにくいディフェンシブな収益と、手厚い配当にあります。会社予想の年間配当は242円で、生活必需品に近いたばこの安定需要が、その原資を支えています。
一方でリスクもあります。たばこ規制の強化や販売数量の一段の減少、地政学リスク(ロシアを含む海外事業への影響)、そして円高に振れた場合の海外利益の目減りです。加熱式たばこの競争も激しさを増しています。高配当という安心感の裏で、利益の源泉が値上げと海外・為替に大きく依存している点は、頭に入れておきたいところです。株価がすでに高値圏にあるだけに、これらの前提が揺らいだときの反応にも目を配る必要があります。
5. 執筆者からのまとめにかえて
以前は、JTは「政府が大株主で、規制も厳しく、数量も減る。高い配当だけが取り柄」という見られ方をされる典型的なバリュー株でした。それがいま、株価は当時とは見違える水準にあります。何が変わったのか。事業そのものというより、市場の"見立て"が変わったのだと考えると腹落ちします。
私は以前から、株式市場は「良い会社かどうか」ではなく「その良さが続くと信じられるかどうか」で動くと考えてきました。JTはまさにその好例です。数量が減るという逆風の中でも、値上げと海外展開で利益を伸ばせると市場が信じ始めた瞬間に、低かったPBRが切り上がった。トヨタのようなバリュー株が置き去りにされる局面がある一方で、JTのように"斜陽"とされた銘柄が再評価される展開もあるわけです。注目したいのは、この再評価がどこまで続くか。カギは、値上げを続けられる価格支配力と、海外事業のかじ取り、そして為替です。高配当につられて利回りだけを見るのではなく、利益の源泉が本当に持続するのかを見極めることが、これからのJT株との向き合い方になります。
泉田 良輔
著者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日