中国の不動産価格は、長引く米中貿易摩擦にもかかわらず、年初来、上昇を続けている。しかしながら、デベロッパーと住宅購入者の双方への貸出を抑えるための新たな引き締め策により、当局が価格上昇の抑制を図っている兆候が見られる。
7月、中国の経済政策立案機関である国家発展改革委員会は、オフショア債券発行の規制を強化し、デベロッパーによる新規債券発行を抑制した。具体的には、デベロッパーは今後12ヶ月間、既存の外貨建て債務の借換えのみを行うことが許される。これは国内不動産市場のオークションを落ち着かせるための措置とされる。
海外資金調達チャネルであるオフショア米ドル建社債市場における最近の引き締め措置は、もう一つの主要な資金調達先であるオンショア市場における信託による資金調達チャネルの抑制に続くものである。
当局は、減速する経済を刺激するための取り組みを損なわずに、不動産市場における信用リスクを抑えたいと考えているようだ。また、不動産価格の高騰が、経済成長のけん引役である消費支出を抑制するという懸念もある。
中国国家統計局によると、国内の70主要都市の平均住宅価格は、7月に前月比0.6%上昇し、これで51ヶ月連続の上昇を記録した。また、この統計では、全国の不動産価格が7月に前年比9.7%上昇したが、6月の10.3%から伸び率が低下し、本年の上昇率としては最も低くなったことも示している。
一方、住宅用不動産プロジェクトの全体的な販売は低迷し、デベロッパーは値下げを余儀なくされている。年初来7ヶ月間で住宅プロジェクトの販売の伸び率は0.4%低下したが、年初来6ヶ月では1%低下している。
現在のより厳しい信用環境の下で、当社では、年間を通じて販売高の伸びが引き続き鈍化すると予想する。今年は、中国全土の総床面積ベースの不動産販売の伸び率は1桁から2桁台前半に減少するという見方を当社は変えていない。
ベンチマークの改革~新しい金利指標
中国人民銀行が8月から適用を開始した金利の新しいベンチマークが、一般の住宅購入者の毎月の住宅ローン支払いに徐々に影響を与え始めると思われる。
中国人民銀行の易綱総裁によると、政府は不動産市場の安定維持を目的に、住宅ローンのコストの安定化を図っている。具体的には、不動産価格をさらに上昇させることなく、借入コストを引き下げる政策を導入している。
8月17日に中国人民銀行は、金利ベンチマークの算出メカニズムを改善すると発表した。これによってローンプライムレート(最優遇貸出金利、LPR)は、法人向けローンと住宅ローンの価格設定を行う際の、銀行の基準レートになる。
毎月発表されるLPRの設定においては、指定された銀行グループが顧客に提示する金利(1年物の中期貸出ファシリティ(MLF)との金利差が反映される)を算術平均する。MLFは、商業銀行が中央銀行から借り入れるレートであり、最新の信用状況のより良い指標と見られている。
8月20日、中国人民銀行は1年物LPRを4.25%に、5年物を4.85%に設定した。これらの金利は、住宅ローンなどの長期ローンのベンチマークとして利用される。新しい1年物LPRは、以前の4.31%から0.06%低下した。 また、以前のベンチマークである1年物貸出金利は4.35%より0.1%低下している。
中国人民銀行によると、10月8日からは、初回住宅購入者の住宅ローン金利は5年物LPRより低く設定できず、2回目の住宅購入者のローンの金利は「LPR + 0.6%」 より低く設定することができなくなる。なお、既存の住宅ローンの支払いは変更されない。
新旧の貸出金利の差はわずかであるため、住宅ローン市場で今回の変更の影響が出てくるまでには時間がかかると思われる。長期的には、LPRに対するプレミアムは、各銀行の貸出意欲と信用リスクの独自評価をよりよく反映し、市場主導の価格設定メカニズムの発展を支えると見込まれる。
理論的には、LPRの導入は全体的な資金調達コストを引き下げ、金融政策の伝達メカニズムを改善し、最終的には銀行システムへのアクセスが制限されている中小企業に利益をもたらすことになる。