ビジネスパーソンが出張のために使うことを前提につくられたビジネスホテル。東京オリンピックを間近に控える中、観光客の増加などもあって、特に東京都心部のビジネスホテルの予約が取りにくくなっていることがサラリーマンの間で話題になることも多いようです。

この記事では、予約の取りにくさや宿泊料の値上がりによるビジネスパーソンの「嘆きの声」を紹介しながら、東京のビジネスホテル事情について取り上げます。

ビジネスホテルの予約、取りにくくない?

ビジネスホテルは、出張などのために使われることが多かったため、交通の便がいい場所に立地していることが多いようです。そのため、サービス・施設の充実度や雰囲気よりも「利便性」を重視する観光客の利用も増えているといいます。結果として、本来はビジネスパーソンをメイン顧客としてつくられたホテルなのですが、特に都心部では予約が取りにくくなったと感じているサラリーマンも多いようです。こうした現状について、ネット上ではこんな不満の声が上がっています。

「ビジネスホテルどこを検索しても満室だ」
「予約取りにくいと思ったら観光客がいっぱいだ」
「1か月前なのにもう満室⁉」
「ラブホテルに泊まるしかないんか」

都市部での買い物や観光、テーマパークに行く目的の宿泊などで、家族やグループの客が増えるなど、客層が変化していることもあり、当面、ビジネス客にとっては受難の時代は続きそうです。

さらに、外国人旅行者の急増も原因の一つとなっています。

政府による積極的な外国人観光客の誘致施策や東京オリンピックを控えてのさまざまな関連イベントや国際イベントなどもあって、訪日外国人観光客の数は年々増加しています。日本政府観光局の日本の観光統計データによると、2018年の訪日外国人観光客の数は約3200万人と、過去最高を記録しました。特に東アジア圏の観光客が多く、全体の約75%にあたります。東アジア圏の人々は買い物を目的とする人も多く、駅が近く、利便性のよいビジネスホテルは人気が高いようです。

「前はもっと安く泊まれていたのに……」

以前の相場は一泊一人5000円から8000円くらいが相場だったといいます。しかし、観光客が増加したこともあり、近年、ビジネスホテルの値段は高くなってるようです。たとえば、こんな声が多く上がっています。

「都内、最近はビジネスホテルも料金結構高いね…」
「ビジネスホテル1万こえててびっくりなんだけど」

スカイツリーなどの都内でも有名な観光地にあるビジネスホテルは、シングルで1泊2万円ほどの料金を取るところもあるようです。こうした状況で、出張の際のホテル代について、次のような悲痛な叫びも上がっています。

「出張規定内に収めようとしたら、足が出た分を自腹で払うかマンガ喫茶に泊まるしかない」

一般的には、出張時の宿泊費について会社に請求できる金額にも上限があるところが多く、ビジネスホテルの料金が上がると、出張規定の上限に見合ったリーズナブルなホテルは、満室になっていることが多くなります。そのため、諦めてカプセルホテルやマンガ喫茶に泊まる場合もあるといいます。こうした状況に対して、

「ビジネスホテルの朝の食堂に観光客とか家族連れがあふれてるの微妙。普通のホテルに泊まってほしい」
「アパホテルとか昔はビジネスマン御用達みたいだったところが高いのはなんか複雑な心境」

といったように、客層の変化への恨み節や、昔を懐かしむ(?)ビジネスパーソンの声も、ネット上では見られます。

ビジネスホテルの「質」は高まっている?

こうしたビジネス客の嘆きの一方で、ホテル側では客層の変化をとらえた新しい動きもあります。ビジネスホテルはこれまで、「宿泊する」という目的のみをメインとし、宿泊料金を抑えるというのが一般的でした。しかし、中には観光客の利用が増えてきたこともあり、他のホテルと差別化を図るためにサービスを充実させるホテルもみられます。

ホテルによっては、女性専用のフロアを設置したり、女性に嬉しいアメニティグッズを充実させたり、朝食だけでなく夕食も込みの料金にしたりするところもあります。ほかにも、温泉を引いたり、有機野菜の料理などを出して、ヘルシーな食事や「癒やし」をアピールするホテルなども出てきています。

あるいは、本来のビジネスホテルのウリである「低価格」を維持するために、コスト削減に工夫を凝らし、ビジネスパーソンが快適に過ごせるようにしているところもあります。

たとえば、「スーパーホテル」は、室内の電話は撤去し、冷蔵庫も中は空にし、精算をなくすことで、チェックアウトが不要になり、フロントの人員削減をしました。ほかにも、清掃コストを削減するために「ベッドの脚をなくす」といったアイデアを採用しているといいます。ビジネスホテルの滞在中は、ほとんどの時間は「寝ている」ことが多いことから、同社では、人員的なコストを削減する代わりに、安眠に関してのサービスを充実させているそうです。ベッドはゆったりサイズ、ドアは防音性を高めて、寝心地に直接関係する枕は客が自由に選べるようにするなどの施策をしているようです。

こうしたサービスの充実や運営コストにメリハリをつけることでの差別化は、ビジネスホテル自体も新規顧客とリピーターの獲得にさまざまに知恵を絞っていることの表れだといえます。こうした競争は、利用者としても大歓迎ではないでしょうか。

リピーターを獲得するための工夫が必要か

ホテル・旅館業全体で見ると、訪日外国人数の順調な増加もあって、大きな天災や急激な景気悪化などの要因がなければ、業界として当面は安泰といわれます。ただ、単に需要が増えたことに対して値段を上げているだけで、施設の更新や新しいサービスの開発といった自社での努力や工夫をあまりできていないところもあり、同じ値段でも質の差は出てきそうです。

それなりにリーズナブルな値段だったからこそ、多少の不満があっても「まぁ高いホテルじゃないし、ここは我慢しておくか」と思っていた人からすると、そこそこの値段を出さざるを得なくなっているのに、質がいまひとつだと、「足元を見られた」「努力もせずに需要にあぐらをかいている」といった思いはより強くなるはずです。次に機会があったとき、ほかに選択肢があるのであれば、そのホテルをまた利用しようとはあまり思わないでしょう。

東京オリンピックに向けてさらに増えてくる観光客。そして、ますます取りにくくなるかもしれないビジネスホテル。五輪が終わった後にも、またビジネスパーソンのリピーターがつくように、ホテル側もいま以上の創意工夫が必要となってくるのかもしれません。

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