会社員や公務員といった厚生年金保険の加入者が亡くなった際には、生計を維持されている家族へ遺族厚生年金が支給されます。そして2028年4月から、遺族厚生年金の制度が見直される予定です。

今回の見直しで影響を受ける人は限定的で、現在すでに受給している方や、多くの子育て世帯には影響が少ないとされています。

本記事では、2028年4月施行予定の遺族厚生年金の見直しについて、対象者や変更内容などを解説していきます。

木内 菜穂子

SNSやニュースでは「遺族年金が5年で打ち切りになる」といった情報を目にすることもあり、不安を感じている方もいるのではないでしょうか。2028年4月の見直しも、報道の見出しだけで不安になる前に、ご自身が対象になるのかを一つずつ確認していきましょう。

1. この記事の3つのポイント

  •  2028年4月、子どものいない60歳未満の配偶者は原則5年間の有期給付に統一される
  •  男性も新たに受給対象が拡大。厚労省推計で年間約1万6000人が対象に
  •  現在受給中の人・子どもがいる人・40歳以上の女性などは基本的に影響なし

2. 遺族厚生年金の制度の見直しが行われる背景

遺族厚生年金の見直しが検討される背景には、以下の二つが挙げられます。

  • 日本社会の働き方の変化
  • 家族の形の変化

現行の制度は、夫が主な働き手で妻が専業主婦という家庭が一般的だった時代に作られたものです。そのため、夫を亡くした妻への保障は手厚い一方で、妻を亡くした夫への保障は限定的とされ、男女によって受給条件に差が設けられていました。

しかし近年は共働き世帯が増加し、女性の就業率も大きく上昇しています。夫婦がともに収入を得る家庭が一般的となり、「男性が働き、女性が扶養される」という従来の前提は、現在の社会実態とは合わなくなってきました。

また、制度を考えるうえでは、亡くなった方(故人)の視点も重要です。多くの人は、自分が亡くなった後も配偶者や家族が安心して生活できることを望んでおり、遺族厚生年金はその思いを支える役割も担っています。

一方で、社会環境が変化するなかでは、性別による違いではなく、遺族が自立した生活を送りながら必要な支援を受けられる制度へ見直すことも求められるようになりました。

こうした状況を踏まえ、政府は性別による受給要件の差を解消し、男女ともに公平な制度へ見直す方針を示しています。

今回の改正は、給付期間の変更などが注目され、「給付削減」と捉えられることも少なくありません。

しかし本来の目的は、遺族の生活再建を支援するとともに、現代の働き方や家族のあり方に合わせた持続可能な年金制度へ移行することにあります。制度の変更点だけでなく、改正の背景や目的もあわせて理解することが大切です。

3. 遺族厚生年金の見直しの変更点

木内 菜穂子

「5年で打ち切り」という言葉だけが独り歩きしがちですが、実際には男女差の解消や受給額の増額など、見直しの中身は思ったより複雑です。ご自身やご家族がどのケースに当てはまるのか、次の内容で確認してみてください。

今回の遺族厚生年金制度の見直しにより、どのような変更があるのか確認していきましょう。

制度改正では「受給期間が短くなる」という点に注目が集まっていますが、一方で男女間の受給要件が統一されるなど、公平性を高める内容も含まれています。

ここでは、特に影響が大きい変更点を紹介します。

3.1 子どものいない60歳未満の配偶者は「原則5年間」の給付に

現在、夫を亡くした妻については、子ども(※)がなく30歳以上で死別した場合、終身に近い形で遺族厚生年金が支給されています。

しかし見直し後は、男女ともに「子どもがいない」「60歳未満」「配偶者を亡くした」場合、原則5年間の有期給付へ統一されます。

つまり、男女間の差が解消され、制度の目的が「一生涯の保障」から「生活再建のための支援」へ変化するイメージです。

一方で、5年間で十分に生活基盤を立て直せるとは限らず、特に長年専業主婦(主夫)だった人や、年齢的に再就職が難しい人にとっては、不安を感じる改正といえるでしょう。

そのため、今後は公的年金だけに頼るのではなく、資産形成や民間保険なども含めた老後・遺族への備えがこれまで以上に重要になると考えられます。

※子どもとは、「18歳になった年度末まで」または「障害を持っている場合は20歳未満」を指します。

3.2 男性は新たに受給できるケースが増える

今回の改正は「給付削減」の面が取り上げられる傾向がありますが、実は男性側にとってプラスとなる面もあります。

従来は、子どものいない夫が妻を亡くした場合、55歳未満で死別すると給付はなく、55歳以上で死別した場合でも、受給開始は60歳からとされていました。

しかし改正後は、「子どものいない60歳未満の男性」も原則5年間の給付対象となります。

厚生労働省の推計によると、新たに年間約1万6000人の男性が受給対象になるとされています。

今回の改正は、女性だけでなく男性も配偶者を亡くした後の生活再建を支援するという考え方を反映させたものです。

近年は、夫婦ともに働き家計を支える世帯が増えていることから、配偶者を亡くした際の経済的な影響は男女で大きな差がないケースも少なくありません。そのため、受給対象を男性にも拡大することは、現代の家族のあり方に合わせた見直しといえるでしょう。

ただし、一部の女性では受給期間が短縮されるため、「公平性」と「生活保障」のバランスをどのように考えるかについては、今後も議論が続く可能性があります。

制度の変更点を正しく理解したうえで、自分や家族にどのような影響があるのかを確認しておくことが大切です。

4. 見直しで影響を受ける人・受けない人を整理

ここで、今回の見直しにより影響を受ける人・受けない人はどういった人なのかを整理しておきましょう。

影響を受ける可能性が高い人は、子どものいない以下の人です。

  • 2028年度末時点で40歳未満の女性:原則5年間の有期給付へ統一されます(うち、新たに終身給付から有期給付へ移行するのは30代の女性です。20代の女性は現行制度でも5年間の有期給付となっています)
  • 60歳未満の男性:新たに受給対象となる可能性あり

一方、基本的に影響を受けないのは、以下のような人です。

  • 現在すでに遺族厚生年金を受給中の人
  • 18歳年度末まで(障害がある場合は20歳未満)の子どもがいる
  • 2028年度末時点で40歳以上の女性
  • 60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する人

このように、原則として影響をほとんど受けない人も存在するため、報道だけを見て過度に不安になる必要はないといえるでしょう。