マーケットサマリー

インド株式市場は6月以降、売り優勢の展開となっている。米中貿易摩擦を巡る不透明感や国内景気の鈍化などがマイナス要因。一方、債券市場は、5月以降上昇(利回りは低下)基調にあったが、7月半ばからは一進一退となっている。

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政府は支援策を強化するも、全面的な景気刺激策は見送り

モディ政権は、8月末に2019年4-6月期国内総生産(GDP)成長率が発表されるのを前に、景気支援策を相次いで打ち出した。4-6月期の成長率は結局、前年同期比+5.0%と、2013年以来最も低い水準となった。

政府は、この数ヶ月間、成長率を押し下げ、投資家の信認を後退させている諸問題の軽減に取り組む姿勢を強調した。今回発表された政策案には、2019年度(2019年4月-2020年3月)予算案に盛り込まれていた外国人投資家に対する追加課税案の撤回、流動性の拡大、最近の景気減速で特に大きな影響を受けているセクターの支援、景気回復への貢献が期待される産業の後押しなどが含まれている。この政府の支援策に対する市場の反応は分かれている。一部投資家は政府が全面的な景気刺激策を打ち出すことを引き続き期待しているが、他方で、これまで明らかにされた支援策がインドの財政を著しく圧迫する内容ではないことに安堵している向きもある。

インド準備銀行(中央銀行)は8月7日の金融政策会合で、2019年に入り4会合連続の利下げを決定した。利下げ幅は市場の予想(0.25%)を上回る異例ともいうべき0.35%であった。これで、2019年だけですでに政策金利を合計1.10%引き下げたことになる。中央銀行は「緩和的」金融スタンスを維持する一方、物価上昇率は目標の範囲内に収まる見通しであると発表した。同時に、総需要の拡大、特に民間投資の増大が、経済成長への懸念に対応する最優先課題であることを強調した。この声明を受けて、中央銀行のさらなる利下げへの期待が膨らんでいる。

利下げ効果が実体経済に十分に波及していないことは事実であり、政府は声明で「各銀行は貸出金利を政策金利であるレポ金利に連動させることに合意した」と強調したものの、中央銀行による利下げが個人や法人向けの貸出金利に及ぼす影響は限定的にとどまると見られている。

政府は8月23日、低迷する需要の喚起と市場心理の改善を図るため、自動車、中小企業、ノンバンク金融事業会社(NBFC)、銀行、インフラなど特定セクターを対象とする支援策を発表した。すでに支援策が導入されていた住宅及び不動産セクターについても、追加支援策を約束した。

景気支援策で最も注目すべきポイントとしては、外国人投資家(インドでは、FPI=外国ポートフォリオ投資家と呼ばれる)と国内投資家への追加課税案が撤回されたことが挙げられる。追加課税案が盛り込まれた2019年度予算案が7月に発表されて以来、数週間で、外国機関投資家によるインド株売却は相当規模に達していた模様である。

政府と中央銀行は、2018年末以来、景気減速と市場の低迷のもう1つの原因となっているNBFCの流動性不足についても一連の対応策を発表した。

2019年度予算案に盛り込まれていた総額7,000億ルピー(約1兆430億円)に上る国営銀行への資金注入計画は前倒しで実施されることが決まった。同時に、政府は貸し渋り対策として10国営銀行を4行に統合し、銀行システムを強化する案を発表した。

成長促進策は外国直接投資(FDI)にも及び、外資出資比率がデジタル・メディアの場合には26%、石炭採掘、インフラ関連事業、燃料販売については100%にそれぞれ引き上げられた。単一ブランド小売に関する外資規制も緩和されたほか、外国の大手エレクトロニクス・メーカーや製薬会社による国内下請け企業への直接投資を促がすために両セクターの下請け企業への外資による全額出資が可能になった。

ほとんどの場合、実際の効果は対策が実行に移されてみなければ判断のしようがないのが現実であり、効果があるとしても限定的なものになると見られている。しかし他方で、全面的な景気刺激策が見送られたこと自体は、すでに巨額の規模に達している財政赤字の拡大が回避されたという点において評価される。

追加財源を得て、追加支援策?

中央銀行の過剰準備金の国庫納付を検討する特別委員会(ジャラン委員会座長はビマル・ジャラン元インド準備銀行総裁)は8月の会合で、6月30日までの1年分の配当として前年度の倍以上に相当する1兆7,600億ルピー(約2.6兆円)を国庫に納付すべきと勧告した。

中央銀行理事会はジャラン委員会の勧告を受け入れた。中央銀行の過剰準備金の国庫移管の問題は2018年に激しい論争を招き、中央銀行の独立性と信用が問われる事態へと発展した。その後、国庫への納付額を決めるためにジャラン委員会が設置されたのであった。国庫納付総額はGDPの0.8%に相当する。その中に占める過剰準備金からの移管分は5,260億ルピーでGDPの0.3%に相当する。

国庫に移管する中央銀行の配当金総額のうち、2,800億ルピー(GDPの0.1%)は中間配当として納付済みである。残額の1兆4,800億ルピー(GDPの0.7%)だけでも、政府が当初受け取りを予想していた9,000億ルピー(GDPの0.4%)を大幅に上回る規模となっている。

中央銀行からの配当金は、政府にとって喉から手がでるほど欲しかった余剰資金であると同時に、それによって財政赤字の抑制目標を達成するための歳出の大幅削減圧力から解放される可能性が出てきたという意味で、政府にとっては大変重要な臨時収入ということになる。政府の歳出削減が不要になることは、それだけでも成長に貢献するが、政府も優先分野への歳出を継続することが可能になったわけだ。

今回の棚ぼた的な配当金によって、政府が成長を促進するために本格的な景気刺激策を発動するという期待が再燃していることも事実である。但し、中央銀行からの配当金の使途について、政府はこれまでのところ明確な方針を示していない。