いよいよ2019年10月1日から消費税率10%へのアップと、軽減税率制度の導入が開始となります。我々消費者の財布にダイレクトに影響する重要なイベントです。

しかし、その裏で着々と動いているもう一つの改正があります。それが2023年10月1日に行われるインボイス制度の導入です。そのうち世間を賑わせることになりそうなこの制度。今のうちに概要をつかんでおきましょう。

消費者が支払った消費税は全額納税されていない!

インボイス制度は、消費税率アップや軽減税率のように、消費者の財布にダイレクトに影響することはありません。しかし、国全体にとっては、軽減税率の導入よりも、もっと重要な改革になることは間違いありません。

では、インボイス制度とは何なのでしょうか? その正体を紐解く前に、まずは事業者にとっての消費税の仕組みを簡単に見てみましょう。

事業者は原則として、客から預かった消費税から、外部に支払った消費税を引いた金額を納税することになっています。たとえば、A社が税込88円で仕入れたものをB社が税込110円で売れば、B社は10円-8円=2円を国に納税するということになります。

そしてもう一つ消費税の制度で重要なのが、免税事業者という制度です。簡単に言えば、「2年前の売上が1,000万円以下であれば、消費税は納めなくてもいいですよ」という制度です(実際にはもっと複雑ですが)。

たとえば2019年の売上が900万円であれば、2021年は消費税を納税しなくてもよいということです。先ほどの例でいえば、2円を国に納税すべきところ、納税せずにそのままもらってしまってOKということです。

実際には年間の売上が110円ということはないので、手元に残る消費税は数十万円から数百万円になることもあります。これを「益税」といいます。納税されずに事業者の手元に利益として残る税金ということです。

街を歩いていると、新規オープンの飲食店をよく見かけます。オープンしたての飲食店は、通常は2年前の売上はないので、売上で預かった消費税は、実際そのまま手元に残ります。消費者が支払った消費税は、実はすべて納税されているというわけではなく、一定額は支払ったお店などの手元に残ったままになるのです。

ちなみに、よく「消費税を納めないなら客からも預かる必要はないのでは?」といった声も聞こえますが、消費税を納めなくてよい事業者が消費税を客に請求することは、法律上問題ないのです。仕入れなどでは外部に消費税を支払っているので、売り上げたときに消費税をもらえないのは不釣り合いというわけです。

インボイス制度で益税減らし

ここまで、消費税の簡単な仕組みを見てきました。消費者にとっては何かを買うときに消費税を支払うだけですが、消費税の支払いを受けた事業者側では、いろいろと仕組みがあるのです。

税率アップは消費者にとっては大きな改正ですが、消費税の納税側の改正もしばしば行われています。インボイス制度も、そんな消費税の納税側の改正の一つです。このインボイス制度、消費者が意識することはあまりないかもしれませんが、実は事業者にとっては近年にないくらいの大改正なのです。

このインボイス制度を簡単に言うと、消費税を納める義務がない事業者に対して支払った消費税は、納税額の計算時に引くことができないという制度です。

先ほどの例に挙げた、A社が税込88円で仕入れたものをB社が税込110円で売った場合。インボイス制度の導入前は、B社の納税額は2円でした。A社も消費税の納税義務があれば、A社は8円を納税して、B社が2円納税するので、合計納税額は10円です。

しかし、A社の2年前の売上が1,000万円以下であったため、消費税の納税義務がない場合はどうでしょう? この場合、B社は変わらず2円の納税ですが、A社は納税義務がないので納税額0円となります。

しかしインボイス制度の導入後は、消費税を納める義務がない事業者に対して支払った消費税は、納税額の計算時に引くことができなくなります。つまり、B社はA社が消費税を納める義務がなければ8円を引くことができなくなり、10円を納税することになるのです。A社に納税義務があるかどうかに関わらず、全体では10円の納税額になるということです。

こうして、インボイス制度により益税が減るということになります(実際には、数年間は消費税を納める義務がない事業者に支払った消費税の内、一定割合は引くことができる経過措置が設けられています)。

まとめ

消費者の立場では、消費税を支払うだけで、支払った後どのようになっているかということまで深く考えたことがないという人がほとんどかもしれません。まさか自分が支払った消費税が納税されず、支払った先の手元に残るとは思いもしなかったかもしれません。

インボイス制度はこのように、事業者の手元に残る消費税、つまり益税を減らすための制度なのです。事業者にとっては納税額の計算を変える大変革ですが、消費者にとっても、消費税の使われ方を見つめ直す大きな変革と言えるでしょう。

渋田 貴正