賃金上昇率が高い国は物価上昇率も高い傾向にあります。これは、どちらも原因となり、悪循環となるからです。物価が上がると労働組合が賃上げを要求するので賃金が上がります。賃金が上がると、企業はコストを売値に転嫁するので物価が上がります。その繰り返しとなるわけですね。

好循環も、もちろんあります。失業率が下がると、失業していた人が給料をもらって消費をするので景気が良くなります。そうなると企業が多くの人を雇うので、一層失業率が下がる、というわけですね。

こうした場合には、政府は悪循環を断ち切るように、好循環が途絶えないように、と考えて経済政策を策定することになるわけです。

緊縮財政が経済成長率を高める?

ここからは、少し話が難しくなりますが、財務省の新人研修で筆者が毎回話している内容です。

「財政赤字が減っている国ほど経済成長率が高い」という関係があるとします。筆者の常識からすれば、「経済成長率が高い国は、景気がよくて税収が増えるので、財政赤字が減るのだろう」と解釈されるわけです。

ところが、「緊縮財政で財政赤字を減らすと経済成長が高まるから、日本も緊縮財政をしよう」という人がいるのです。

前半については、筆者の「常識」とは異なりますが、理論的には可能です。「財政赤字が減ると、政府が資金調達を減らすから、金融市場で金利が低下し、民間企業の設備投資が促されるから経済成長率が高まる」というわけですね。もしかすると、これが財務省の「常識」に沿った見解なのかもしれませんが(笑)。

もっとも、論者の後半は明らかな誤りですね。日本の金利は現在でも十分低いので、財政赤字が減っても金利は下がりません。他国のデータを使って自国について主張するときは、状況の違いに留意しましょう。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義