4. 増え続ける「469兆円」——純金融資産の推移を確認

「富裕層」「超富裕層」の2005年からの保有資産規模と世帯数の推移を見てみると、リーマンショックや東日本大震災の影響による一時的な落ち込みはあるものの、長期的には上昇傾向が続いています。

とくに2011年以降は、一貫して増加が続いている点が特徴です。

富裕層と超富裕層の「純金融資産保有額の合計」の推移を見てみましょう。

  • 2011年:188兆円
  • 2013年:241兆円
  • 2015年:272兆円
  • 2017年:299兆円
  • 2019年:333兆円
  • 2021年:364兆円
  • 2023年:469兆円

直近8年間(2015年⇒2023年)を比較すると、この2つの層が保有する純金融資産の総額は約72%増加しています。

川勝 隆登
富裕層の資産構成は、現金や預金よりも株式や不動産などの比率が高い傾向があります。そのため、株価が上昇する局面では資産全体の増え方も大きくなりやすく、逆に下落局面では資産の目減りも大きくなりやすいという特徴があります。今回の推移データのように資産総額が右肩上がりに見える期間でも、その裏側では相応の価格変動リスクを取っていることになります。資産の中身がどのように分布しているかは、増加のスピードだけでなく、下落時の影響の大きさにも直結する点として意識しておきたいところです。

5. 富裕層が増加している3つの背景

近年、日本で富裕層が増え続けている背景には、いくつかの要因が考えられます。

5.1 【背景1】国内外の株価上昇

1つ目に挙げられるのが「国内外の株価上昇」です。

米国の株式市場は「ダウ工業株30種平均」や「S&P500」といった主要指数が示すように、短期的な変動はありながらも長期的な上昇トレンドを維持してきました。

この株高は米国に限らず、世界的な傾向でもあります。富裕層は一般世帯に比べ、株式の保有額や、株式が総資産に占める割合が高い傾向があるため、こうした世界的な株高が「持てる世帯」の資産を大きく押し上げる要因になってきたと考えられます。

5.2 【背景2】非課税投資制度の拡充による資産形成機会の拡大

2つ目に挙げられるのが、「非課税投資制度が拡充され、資産形成の機会が拡大したこと」です。

具体的には、「NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)」や「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」といった、非課税枠のある税制優遇制度によるものです。

NISA制度は2014年に創設されたのち、2024年からは「新しいNISA(新NISA)」として拡充・展開されています。こうした制度の後押しもあり、個人が資産形成に取り組む機会は年々増えてきました。

かつては投資に無関心だった人でも、NISAをきっかけに運用を始めたケースは多いでしょう。早い段階から運用を開始した人であれば、相応の利益が出ていることも推測できます。

5.3 【背景3】相続や贈与によるもの

富裕層が増加している3つ目の要因は、相続や贈与による資産の承継です。

日本では少子高齢化が進んでいるため、一人あたりの相続額は増加傾向にあります。

これにより、これまで富裕層ではなかった、ごく標準的な家庭の人が、親や祖父母からの遺産を相続したことで富裕層になるケースも増えています。

株価の上昇、資産形成の機会拡大、そして資産の承継といった複数の要因が重なり合うことで、富裕層が増えていると考えられます。本人の意図とは関係なく、こうした環境の変化によって富裕層になった人も少なくないでしょう。

6. まとめ

日本の富裕層・超富裕層は合計165万3000世帯、その純金融資産の総額は469兆円にのぼり、株価上昇やNISA・iDeCoなどの税制優遇、相続・贈与といった複数の要因を背景に、世帯数・資産額ともに増加を続けています。

富裕層に共通する資産運用の考え方を見てみると、リターンの大きさよりも資産保全を優先し、株式・債券以外の資産にも分散しながら、税金や承継まで含めて総合的に管理している点が特徴です。

一方で、資産を増やせたとしても、物価上昇のペースがそれを上回れば、実質的な購買力はむしろ目減りしてしまいます。名目のリターンだけでなく、物価上昇を差し引いた実質的なリターンで資産の増減を捉える視点は、資産規模の大小にかかわらず意識しておきたいポイントです。

川勝 隆登
名目上の資産額が増えても、物価上昇のペースがそれを上回れば、実質的な購買力はむしろ目減りしてしまいます。特に長期的な資産形成を考える際は、「いくら増えたか」という名目のリターンだけでなく、物価上昇を差し引いた実質的なリターンで評価する視点を持っておくことが大切です。資産規模の大小にかかわらず、名目と実質の違いを意識するかどうかが、数十年後の資産の見え方を大きく左右すると考えられます。

富裕層の運用の型をすべて真似する必要はありませんが、「守るべき金額を意識する」「一つの資産に集中させない」「税金や制度変更まで見据えて考える」といった発想は、資産規模にかかわらず取り入れられる視点といえるでしょう。

参考資料

川勝 隆登