香港反政府運動の現状。長期化や経済面での影響に懸念強まる

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逃亡犯条例改正案に反対して6月から始まった香港のデモは、依然として収束の兆しが見えず、これで3カ月を超えようとしています。

反対運動と取締り側、双方への懸念と不信感

デモは「五大要求」を掲げて運動を続けています。もともとの発端となった、「逃亡犯条例改定案の正式な撤回」と「抗議やデモ活動を暴乱と定義することの撤回」や「こうした行動を理由とする拘束者に対する不起訴」に加え、「独立調査委員会」を設けて今回の一連の抗議が違法行為に当たるのかを判断させることを求めています。そして「普通選挙の実施」です。

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「逃亡犯条例改定案の正式な撤回」については、香港政府の面子にこだわった行為が、ここまで香港を混乱に陥れたわけですから、当然の要求と言えるでしょう。また、これまでの抗議やデモ活動の大半が、穏健に、平和的に行われていたことも事実で、それらまで違法だとする政府の取り締まり方に強い違和感を感じることも確かです。

問題は、反対運動の中でも、このところ暴力的な手段に訴えることが増えてきていることです。8月31日から9月1日にかけては、香港の地下鉄の30あまりの駅で事務室や自動改札機などが破壊行為の対象となり、一部の区間で運行停止を余儀なくされました。

また、中心部と空港を結ぶ鉄道の線路には、鉄パイプや石などが投げ込まれ、取締り中の警察の部隊にも火炎瓶による攻撃が行われたとの報道がありました。香港警察は、この2日間だけで、160人あまりを武器の不法所持や公務執行妨害の疑いで逮捕したと発表しています。

新学期が始まり、学校生活に復帰する学生が増えればデモは落ち着くという説もありましたが、そうした兆しは見えません。さらに残念なことに、反対派の一部は一線を越え、一般人や旅行客の不利益を顧みない行動に出ています。落とし所の見えないまま、暴力に訴えて公の秩序や治安を脅かす行為が果たして正当化されるのか、「五大要求」が正当な要求に聞こえなくなるほど、変質しようとしている反対運動に疑問を感じる人も増えているのが現状でしょう。

そんな中、上記の大規模なデモを主催した民陣(民間人権陣線)は、中聯弁(中国の香港における出先機関)に向けてデモ行進することを警察に申請しましたが、警察はこれを却下しました。また、警察は、これまでのデモを扇動した、ないしは違法な活動に関わったとして、民主派の活動家らを逮捕しました。活動家らは、起訴された後、裁判所の決定により保釈されましたが、こうした取締りが強化されたことで、民主派勢力は、許可がなくとも無届けでデモを断固実行する意向を示しています。

香港では、9月2日から新学期が始まりました。学生が学校に戻れば、抗議活動も沈静化に向かうという見通しもありましたが、2日には多くの学校で授業のボイコットや抗議集会も開かれ、落ち着く兆しはありません。

過激化したデモに対する香港市民の違和感は大変強いものがあります。地下鉄の運行を止めるデモ隊に対し、職場に向かう人たちが抗議している様が報道されているのを見ると、ともすればデモへの支持低下につながりかねないことが懸念されます。

一方で、取締りを厳しく実施するようになった警察への不信感も、強まるばかりです。一般市民に向けての催涙弾発射や暴力的な連行が行われたことは、香港人ならずとも大変遺憾なことです。自由や人権という、民主主義の根幹に関わることであり、その点ではここで頑張らなければならないということは理解できますが、香港人同士が対立しあい、市民の間でも溝が深まるばかりに感じます。

自由で平和だった香港の街が、移動をするにも抗議活動の状況を確認しなければならない場所になってしまったという現実を見ると、大変悲しい思いがします。

経済面で顕在化しつつある影響

一方で、香港政府の動きは鈍いという他ありません。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、混乱を解決する策を何も示さないでいます。この態度が、香港での今回の一連の抗議活動を煽る結果になり、事態を収束させる糸口を見えなくしています。

会見でも、対話を呼びかけたポーズは取りますが、これだけの世論の批判と要請に耳を傾けたというそぶりは見えません。これでは、反対運動をする人たちが対話の席につくとは思えません。また、混乱が長期化すれば、経済・金融都市として発展を遂げてきた香港は、ダメージを受けることになりかねません。

さて、香港の経済面では、影響が色濃く出始めています。香港の域内総生産(GDP)の第2四半期(4-6月)改定値は、前期比0.4%減と速報値0.3%減から一段と下方修正されました。前年同期比では0.5%の増加でしたが、これも速報値の0.6%増からは下方修正された数字です。

30日に発表された7月の小売売上高は前年比11.4%減となりました。これは6カ月連続での減少であるうえ、2016年2月以来の大幅な落ち込みです。「逃亡犯条例」の改正案に反対する抗議デモの激化に伴い、6月中旬以降の消費者心理の冷え込みや、観光客の減少が響きました。特に、小売・飲食などの業種では「急激な落ち込み」に見舞われています。

また、デモの影響に加えて、米中間の貿易量が関税措置のエスカレートで縮小する見通しが強まる中、貿易のハブである香港にも逆風が懸念されます。短期的には香港経済がリセッション(景気後退)に向かっていると言わざるを得ません。

香港政府は、2019年通年での域内成長率の見通しを0.0~1.0%と、従来予想の2.0~3.0%から下方修正しました。また、香港政府は財政出動を決め、8月半ばに約191億香港ドル(約2600億円)規模の景気対策も発表しています。子供(幼児~高校生まで)1人あたり2500香港ドル(約33,800円)の子育て支援や1世帯あたり2000香港ドル(約27,000円)の電気代補助などを支給し、企業向けでは公的手続きに関わる費用を1年間減免します。

陳茂波(ポール・チャン)財政長官は、経済の現状を失速状況に備えるべきだと警告、憂慮をあからさまにしています。香港はこれまで、欧米から見ても、もちろん中国にとっても、安全かつ信頼できる商業ハブであり、中国本土と世界を結ぶ自由貿易港として、ビジネス活動においては世界でも有数の自由でフレンドリーな経済体制を築きあげてきました。しかし、現在の状況が長引けば、その地位を脅かし、香港の未来にとって大きな痛手となる可能性が懸念されます。

中国側が抱える問題

さて、香港に関わる当事者として、注目されるのは中国の立ち位置です。8月中頃になって、それまで一切の報道をしていなかった中国メディアが、香港のデモ(デモとは表現していませんが)について、記事を掲載するようになりました。

環球時報も、香港は安定と混沌のどちらかを選ばなければならないとの論説を掲載して、警告を発するなどしています。暴力を伴った抗議活動は「テロリズム」であると断じ、デモによる騒乱は西側が裏で糸を引く「カラー革命」だとの非難をあからさまにしました。新華社通信も、デモ活動を「暴力反対、香港を救おう」集会が開催された、との表現で報道し、中国国内への影響を意識して世論形成に動いているものと見られます。

中国にとっては、香港統治と五大要求のひとつ「普通選挙の実施」は、相容れないものでしょう。「雨傘革命」もそうでしたが、残念ながら、反対派はこの点では出口が見いだせず、どん詰まってしまいます。

また一部には、中国政府系メディアの報道が中国による香港救済のための実力行使の準備との見方も出ています。しかし、人民解放軍を派遣して香港の抗議活動を暴力的に抑え込んだ場合、中国は欧米を含む各国から猛烈な反発を受けるでしょう。経済的にも、米中摩擦を抱えて経済的なリスクに直面する中国が、さらに深刻な打撃を被る可能性が高まる行動に出るとは考えにくい状況です。

また、中国の拡張的な外交政策に警戒的な周辺諸国は、中国と距離を置き、米国とより緊密な関係に傾く可能性が高まります。特に、「統一」を呼びかけられている台湾では、中国に対して防衛的な措置を強化して、米国との協力関係を明確にする政策をとるでしょう。来年1月に予定されている台湾総統選に向けて、世論は中国寄りの政策に耳を傾けなくなり、野党は厳しい戦いを強いられることになります。

いずれにしても、中国を利することはありません。また、中国国内でも、今回の打開策については共産党内の意見集約すら難しい状況が続いているようです。デモの激化などの場合でも、香港に不用意な介入をするよりは、香港政府による非常事態宣言などを選択して、香港政府による、より強権的な取締りを支持する可能性が高いと考えています。ただ、その場合、長期化の可能性が避けられません。

おわりに

過去を振り返れば、香港は、アジア通貨危機や新型肺炎SARSの感染拡大による危機、リーマンショックなど、幾たびもの危機を乗り越えてきました。2014年の「雨傘革命」の時も、最終的には経済的なダメージをそれほど引きずりませんでした。

今のところ、金融機関には表立った動きはなく、金融の機能には影響が出ていません。しかし、このまま、もし抗議活動が続けば、外国人投資家や外国企業にとっては、香港への投資意欲を減退させかねません。香港政府には、口先だけの対話を呼びかけるのではなく、一刻でも早く、問題の根本的な解決に繋がる判断をするよう期待します。

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長谷川 建一
  • 長谷川 建一
  • ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク
  • 取締役兼CIO (Chief Investment Officer)

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。
2004年末、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に移り、リテール部門マーケティング責任者として活躍。2009年からは国際部門でアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク)にてCOOに就き、2017年3月よりCIOを務める。