60歳代は、老後のお金の「現在地」を確かめたくなる年代です。J-FLECの2025年調査によると、60歳代の金融資産保有額は、単身世帯で平均1364万円、二人以上世帯で平均2683万円でした。
ただし平均値は一部の高額資産保有世帯に引き上げられやすいため、実感に近い中央値もあわせて見る必要があります。後半では、貯蓄額の不安を解消する考え方として注目される「WPP理論」を紹介します。
厚生労働省や社会保障政策を長年見つめてきた立場から申し上げると、高齢期の家計防衛において『貯蓄総額の多寡』だけを心配するのは本質的ではありません。真に重要なのは、資産を一方的に切り崩すのではなく、細く長く得られる収入と年金の手取り額をいかに連動させるかという仕組みづくりです。本記事で解説するWPP理論という新しいリレー継投の考え方を、これからの毎月のキャッシュフロー設計に役立ててください。
※本記事は、編集部が金融経済教育推進機構などが公表する公式資料を確認の上、執筆・検証しています。
1. この記事の3つのポイント
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60代における金融資産の保有状況には顕著な偏りがあり、中央値を基準としながらご自身の立ち位置を冷静に見極めることが求められる。
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長期的な老後の安心を得るためには、貯蓄を単に取り崩す思考から、長く働くことと年金の繰り下げ受給を連動させる仕組みへ切り替える必要がある。
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給与や年金からは一律に社会保険料や税金が差し引かれるため、すべての収支計画は額面ではなく「実際の口座振込額」を基盤に編成しなければならない。
2. 【60歳代・単身世帯】平均1364万円、中央値300万円
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の調査によると、60歳代単身世帯の金融資産保有額は平均1364万円、中央値は300万円でした。
- 金融資産非保有:30.4%
- 100万円未満:9.1%
- 2000万円~3000万円未満:5.5%
- 3000万円以上:15.6%
平均と中央値の差は1000万円超に及びます。約3割が貯蓄ゼロの一方で、3000万円以上を持つ人も15%を超えており、資産の二極化がはっきり表れています。
3. 【60歳代・二人以上世帯】平均2683万円、中央値1400万円
同じ調査によると、60歳代二人以上世帯の金融資産保有額は平均2683万円、中央値は1400万円でした。
- 金融資産非保有:12.8%
- 1000万円~1500万円未満:8.9%
- 2000万円~3000万円未満:12.4%
- 3000万円以上:27.2%
単身世帯より水準は高いものの、二人以上世帯には夫婦世帯以外も含まれます。世帯人数や住居費、年金額によって必要額は変わるため、中央値である1400万円だけで安心とは判断できません。
公的年金をベースにしつつ、計画的な資産の取り崩しを考える必要があります。
4. 【WPP理論】「働く・私的年金・公的年金」の継投で乗り切る
結論として、貯蓄額だけで老後を判断する必要はありません。近年、厚生労働省の審議会資料でも紹介された「WPP理論」は、老後資金を考えるうえで参考になる考え方です。
WPPとは、以下の頭文字を取ったものです。
- Work longer(できるだけ長く働く)
- Private pensions(私的年金や資産)
- Public pensions(公的年金)
野球の継投にたとえて、老後のお金を3人の投手でつなぐ発想をとります。
先発は「就労」です。60歳代のうちはできるだけ長く働き、収入で生活を支えます。中継ぎは「私的年金や貯蓄」で、退職から公的年金の受給までのつなぎ役を担います。そして抑えは、繰下げで増額した「公的年金」です。
公的年金は何歳まで生きても支給が続く終身給付のため、できるだけ受給額を増やせると安心です。65歳からの受給開始を1カ月繰り下げるごとに年金額は0.7%増え、70歳開始なら42%増額されます。なお、繰下げで増える一方、税金や社会保険料、加給年金などへの影響も確認が必要です。
たとえば68歳まで働き、それから2年間は貯蓄でつなぎ、70歳から増額された年金を受け取るケースを考えてみましょう。この継投なら、年金額や生活費、健康状態によっては、貯蓄が中央値程度でも資産寿命を延ばす設計を描きやすくなります。3つの柱でつなぐ発想こそ、資産の寿命を延ばし、安心して老後生活を送るうえで重要です。
著者
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1000記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。合同会社柴田人事労務オフィス代表社員。
監修者
株式会社モニクルリサーチ メディア編集本部
元・厚生労働省担当記者(社会保障専門紙)
中央大学法学部を卒業後、東証プライム上場IT企業での法人営業を経て、厚生労働省記者クラブに所属する行政・自治体向けの社会保障専門紙記者として活動。
現在は「公的社会保障制度(年金・医療・介護)」の仕組みと、「私的資産形成(NISA・iDeCo)」の税制優遇制度を横断的に分析し、生活者のための家計防衛術を提供する編集者として活動している。
各省庁が公表する難解な一次情報(e-Gov法令検索の条文データや、総務省統計局の家計調査など)を読み解き、現役世代からシニア層までを対象に、事実に基づいた実用的な解説記事を継続的に執筆している。
このほか、専門家と実務家が発信する金融経済ニュースサイト『LIMO&ファイナンス』でも情報を発信している。
【経歴・専門性】
前職の専門紙記者時代には、厚生労働省本省および各地方自治体(保険者)を直接取材対象とし、現場の最前線で以下の重要政策の決定プロセスと一次情報に触れてきた。
これらの政策取材を通じ、「制度の複雑化が引き起こす、生活者のサイレントな不利益(申請漏れや制度の不知による経済的損失)」の構造を実務レベルで把握。役所の論理で構築された難解な制度設計を、IT企業時代に培ったデータ分析手法と掛け合わせることで、客観的指標(平均値ではなく中央値を用いた実態把握など)に基づく解説記事を執筆している。
【具体的な実績・保有資格・メディア掲載歴】
公的機関の一次データに依拠した客観的な記事執筆により、Yahoo!ニュース「経済ランキング」において多数の1位を獲得。具体的な執筆・担当領域における実績は以下の通りである。
- 公的年金・給付金領域:日本年金機構の公表資料に基づく「在職老齢年金による支給停止基準」や「年金生活者支援給付金の受給要件」の解説。また、国税庁のガイドラインに沿った定額減税や各種給付金の対象者判定フローの実務的整理。
- 医療・介護保険領域:高額療養費制度などの自己負担限度額の算出方法や、公的保障のセーフティネット範囲の図解解説。
- 資産運用領域:金融庁のNISA特設サイトや、iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)のデータに基づく税制優遇メリットの数値化。特定の金融商品の購入推奨は行わず、公的年金の不足分を補うための長期積立投資の制度整理に特化。
- 貯蓄・家計管理領域:家計調査などの官公庁統計データに基づいた、年代別・世帯年収別の貯蓄実態の論理的解説、およびインフレ時代におけるリスク管理手法の情報提供。
- 保有資格・実務知見:東京商工会議所 ビジネスマネジャー検定試験®合格。上場企業での実務経験と当資格で培った「組織マネジメント」や「コンプライアンス・リスク管理」の視点を個人の家計防衛に転用し、ビジネスパーソンが納得できる論理的な解説の裏付けとしている。
【読者へ提供する価値と発信理念】
「役所の論理ではなく、生活者の視点で制度を翻訳する」ことを発信の基本理念としている。
複雑怪奇な社会保障制度においては、制度を知らないこと自体が直接的な経済的損失に直結する。この情報非対称性を是正し、「知っていれば救われたはずの人が損をする現状をゼロにする」ことが現在の活動における最大のミッションである。
そのため、記事執筆にあたっては個人の主観や推測、投資推奨は避ける。
そのうえで、読者の生活や資産に影響を与える領域であることを自覚し、読者が「国に頼りすぎず、国を賢く利用する」ための正確で安全な判断材料を提供し、生活者とその家族を守るための実用的な知見を届け続けている。
(2026年7月13日更新)