本記事の3つのポイント

  •  FA大手のファナックは高収益企業として知られるが、足元の業績は一時の収益力が影を潜めている。米中貿易摩擦に伴う需要の減少に加え、ここ数年の積極投資が影響している
  •  15年度以降、1000億円規模の設備投資が実施されており、直近の18年度も1331億円の設備投資を実施。研究開発費も18年度は14年度の2倍規模
  •  足元の需要は低迷しているものの、中朝的には自動化ニーズに伴うFA需要は拡大するとみられており、将来への種蒔きという意味合いも

 

 景気の先読みを行うための判断材料として、FA(ファクトリーオートメーション)関連企業の業績数字が用いられることが多い。FA関連企業の受注状況が、企業の設備投資動向、ひいては景気変動の変化点を示すことが多いためだ。特に、工作機械用CNC(コンピューター数値制御)で世界シェアトップを有し、産業用ロボットメーカーでも高シェアを有するファナック㈱(山梨県忍野村)の業績への関心が高いのだが、同社は7月末に発表した2019年度(20年3月期)第1四半期決算において、19年度通期の業績見通しを下方修正した。

 そもそもファナックの19年度における業績見通しは、期初時点で売上高が前年度比16%減の5369億円、営業利益が同54%減の757億円と大幅な減収減益を予想しており、それをさらに下方修正し、売上高の見通しを同18%減の5242億円、営業利益を同56%減の713億円に改めた。これにより、米中貿易摩擦に端を発した景気減速が継続するのではないかという印象を与えている。筆者としては、この下方修正ならびに今後の景況感ももちろん気になっているが、それ以上に気になっているのがファナックの営業利益率だ。

15年度以降、積極投資を継続

 ファナックは高収益企業として知られ、営業利益率は毎年20%を超える。FA製品は顧客の要望に沿ってカスタマイズ対応することが基本だが、ファナックの製品にはデファクトスタンダード(事実上の標準)のものが多く、例えば、多くの工作機械がファナックのCNCに合わせて設計が施されている。また、ファナックでは製造現場の自動化・ロボット化を徹底的に進めており、現在、同社の工場にはおよそ4000台のロボットが稼働。従来、人手でしか行えなかった複雑な組立作業についてもロボットが行い、効率的な生産を実現している。

 こういった要素が20%を超える営業利益率を生み出すわけだが、上記の19年度計画では営業利益率は13.6%。他の企業から見ればこれでもかなり高い数字であるが、例えば、ここ数年で今回の19年度見通しと数字が一番近い16年度の業績を見ると、売上高が5369億円で、営業利益は1532億円、営業利益率は28.5%だった。

 この営業利益率の低下の一因として、近年積極的に行ってきたファナックの設備投資がある。グラフが示すようにファナックでは、15年度以降、1000億円規模の設備投資が実施されており、直近の18年度においては1331億円の設備投資を実施した。

 新工場も次々と立ち上がっており、16年6月には栃木県壬生町に「壬生工場」が竣工。約70万㎡という広大な敷地に、電子工場、サーボモーター工場、成形工場などが点在し、CNC、サーボアンプ、サーボモーター、サーボモーター用プレス部品およびダイカスト部品などを製造している。

 18年度には、茨城県筑西市にてロボットの新工場が稼働を開始。山梨県忍野村の本社地区においても将来の需要増に備え、ロボショット(電動射出成形機)およびロボカット(ワイヤーカット放電加工機)工場の増築と、ロボット、ロボショットおよびロボカット用部品の機械加工工場が整備された。19年度も本社地区にてサーボモーターの部品加工用施設の整備が進んでいるほか、精密加工機(ロボナノ)製品の新棟が10月から稼働を開始する見通しである。

 研究開発費も年々増加しており、18年度の数字は14年度の約2倍となった。研究開発のなかには、IoTやAIなどソフトウエアに関する取り組みが増加しており、様々な企業が参加できるIoTプラットフォーム「FIELDシステム」の開発を強化しているほか、18年度には米国西海岸に先端技術研究所を新たに設立し、カリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学などと交流しながら、CNC、ロボットの知能化に取り組んでいる。

中期的には再び成長曲線に

 現状を見ると、米中貿易摩擦による中国景気の低迷や、欧州や中国における自動車市場の減速などにより、FA関連企業が置かれている状況は厳しい。しかし、FA関連企業にヒアリングすると、「人手不足や人件費の高騰などを受けて自動化ニーズは年々高まっており、中長期的にはロボットなどを中心にFA市場は成長曲線を再び描いていくだろう」と口を揃える。また、「こういった経済環境のときに、企業は製造ラインの柔軟性を向上させる取り組みを図るケースも多く、新たなソリューションを提供するチャンスでもある」と前向きに捉える企業も少なくない。

 FA企業は、FA製品にIoTやAIといった先端技術を融合して、商品の受発注の状況などから最適な生産量などをAIで判断し、ロボットが製造現場内を自由に移動して作業するような「自律型工場」の実現に向けた取り組みなども進めていく必要があり、そのための研究開発ならびに人材の拡充などを緩めるわけにはいかない。ファナックについても先述のように生産能力の拡充や研究開発投資を進めている。つまりは19年度における減益のなかには市況の影響だけでなく、将来への種蒔きをした結果による減益も含まれており、この減益の先にある成長曲線についてもしっかりと見据える必要があるだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志

まとめにかえて

 今でこそファナックの名は知れ渡っていますが、少し前までは知る人ぞ知る、隠れた高収益企業でした。ロボットなどのFA機器はマクロ景気に連動する側面が大きく、足元は米中貿易摩擦の影響などにより、同社のほかにも安川電機なども足踏み状態が続いています。19年度は20年度以降の成長曲線の回帰に向けた「助走期間」として、今後の成長を見守りたいところです。

電子デバイス産業新聞