5. 対策①:繰下げ受給で受給額を増やす

繰下げ受給は、本来65歳から受け取れる老齢年金を、66歳から75歳までの間で繰り下げて、増額された年金を受け取る制度です。

5.1 増額率の仕組み

繰下げ増額率早見表4/4

繰下げ増額率早見表

出所:日本年金機構「年金の繰り下げ受給」

中本 智恵

 

「繰下げ=すべての年金を我慢して待つこと」だと誤解されている方が多いですが、老齢厚生年金は65歳から受け取りながら生活費を確保しつつ、老齢基礎年金だけを繰り下げるといった、部分的な組み合わせも可能です。
また、繰下げ待機中は加給年金額や振替加算が受け取れない点も見落とされがちな注意点です。とくに配偶者の年齢差がある世帯では、加給年金額の対象になっているかどうかで損得が変わってくるため、繰下げを検討する際はご自身が加給年金等の対象になっているかを事前に確認しておくことを強くおすすめします。

繰下げによる増額率は、1カ月あたり0.7%です。66歳から請求した場合は8.4%増、70歳から請求した場合は42.0%増、75歳から請求した場合は最大84.0%増となります。

5.2 老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げ可能

繰下げ受給の特徴は、老齢基礎年金(1階部分)と老齢厚生年金(2階部分)を別々に繰り下げられる点です。例えば、老齢厚生年金は65歳から通常通り受給し、老齢基礎年金だけを70歳まで繰り下げるという選択ができます。

5.3 注意点

繰下げ待機中は、加給年金額や振替加算は受け取ることができません。また、これらは繰下げによる増額の対象外です。繰下げ受給を検討する際は、加給年金等の対象になっているかどうかを事前に確認しておくと安心です。

6. 対策②:働き続ける選択(在職老齢年金)

60歳以降も厚生年金に加入して働き続けることで、将来の年金額を増やすことができます。働いている間に納める厚生年金保険料が、将来の老齢厚生年金額に上乗せされる仕組みです。

6.1 働きながら年金額が増える仕組み(在職定時改定)

65歳以降に厚生年金に加入しながら働く場合、納めた保険料は毎年10月に老齢厚生年金額に反映されます。これを「在職定時改定」といい、退職を待たずに年金額が増えていく特徴があります。

6.2 注意点:在職老齢年金制度による支給停止

ただし、賃金(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金(基本月額)の合計額が一定基準を超えた場合、年金の一部または全部が支給停止になる場合があります。これが在職老齢年金制度です。

2026年4月以降の支給停止基準額は65万円に引き上げられました。基本月額と総報酬月額相当額の合計がこの基準を上回ると、上回った額の半額が老齢厚生年金から支給停止されます。

支給停止額の計算式は次の通りです。

支給停止額(月額)=(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 65万円)÷ 2

6.3 多くの方は支給停止にならず満額受給可能

支給停止基準額が65万円と高めの水準に引き上げられたことで、多くの方は支給停止の対象にならず、働きながら老齢厚生年金を満額受給できる仕組みとなっています。

7. 対策③:年金生活者支援給付金

公的年金等の収入が一定基準以下の方には、上乗せ給付として「年金生活者支援給付金」という制度があります。2019年10月に開始されました。

7.1 2026年度の支給金額

老齢年金生活者支援給付金の基準額は、令和8年度時点で月額5,620円です。実際の支給額は、保険料納付済期間に応じて以下の計算式で算出されます。
支給額(月額)=5,620円 × 保険料納付済期間 ÷ 480月(+保険料免除期間に応じた額)

7.2 主な支給要件

老齢年金生活者支援給付金の主な要件を整理します。

  • 65歳以上で老齢基礎年金を受給している
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の公的年金等の収入額とその他の所得との合計額が、令和8年度は昭和31年4月2日以後生まれで80万9,000円以下、昭和31年4月1日以前生まれで80万6,700円以下(基準額を超え909,000円以下/906,700円以下の方には「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます)

7.3 申請には請求書の提出が必要

年金生活者支援給付金は、要件を満たしていても自動的には支給されません。受給するには請求書の提出が必要です。日本年金機構から対象となる可能性のある方にはお知らせが届く場合があります。

8. 自分の年金見込額を確認する方法

将来の年金受給額を増やす選択肢を比較検討するうえで、まず自分の見込額を正確に把握しておくことが第一歩となります。

8.1 ねんきんネット

日本年金機構が提供するオンラインサービスです。マイナポータルと連携することで、これまでの加入記録や将来の年金見込額を試算できます。繰下げ受給を選択した場合のシミュレーション機能も用意されています。

8.2 ねんきん定期便

毎年の誕生月に郵送される書類です。これまでの加入記録、保険料納付額、将来の年金見込額が記載されています。50歳以上の方には、現在の加入条件で60歳まで継続加入した場合の見込額が記載されます。

9. まとめ

これから年金受給を迎える方は、公的年金に加えてiDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなどの私的年金制度を活用し、自助による資産形成を組み合わせる選択肢もあります。

公的年金と自助の二本立てで、老後資金の備えを整えていく考え方が現実的です。

最新の年金額や手続きについては、日本年金機構の窓口や公式サイトで確認のうえ、進めてみてください。

10. 監修者からのコメント:「平均」の一歩先にある、自分に合った対策を

中本 智恵

厚生年金の受給額は、正直に申し上げると本当に個人差が大きいものです。銀行の窓口でシニア世代のお客様の相談を受けていた頃も、「平均は15万円と聞いていたのに、自分はそこまで届いていない」と戸惑われる方にもお会いしてきました。

記事にあるとおり、平均月額15万円というラインを超えている方は全体の約49.8%、つまりほぼ半数です。この数字を見て「自分は平均以下だから」と落ち込む必要はありません。大切なのは、平均との比較よりも、今回紹介されている3つの対策のうち、自分にとって現実的に選べる選択肢がどれかを見極めることです。

また、シニアのあいだでよく話題になるのが繰下げ受給です。健康状態や貯蓄状況によって最適な選択は人それぞれ異なりますが、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げられるという柔軟性を知らないまま、「繰下げは全部か全部やめるかの二択」だと誤解されている方も少なくありません。ご自身の状況に合わせて、部分的に繰り下げるという選択肢があることもぜひ覚えておいてください。

まずはねんきんネットやねんきん定期便で正確な見込額を確認し、そのうえで繰下げ・就労継続・年金生活者支援給付金といった選択肢を、ご自身のライフプランと照らし合わせながら検討してみましょう。

 

参考資料

小西 雅美