米国経済界が「株主第一主義」を見直すそうなので、これを機に日本企業も日本的経営の良さを見直してほしい、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は考えています。

米国経済界が「株主第一主義」を見直す

米国の主要企業の経営者が所属する経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は、株主第一主義を見直し、今後は様々なステークホルダーを重視する、と宣言しました。

経済は冷たい頭と暖かい心で動いていると言われています。冷たい頭で考えれば、株式会社は株主が金儲けのために作った組織なのですから、株主第一主義が正しいということになりますが、暖かい心で考えると、そうでもないのでしょう。

米国では貧富の格差が拡大していて、株主第一主義を貫くと国民経済が疲弊してしまう、という危惧が今回の宣言の背景にあったと言われています。

まあ、世論の批判をかわし、政府の規制強化の矛先を和らげるためのジェスチャーという面もあるでしょうから、米国企業がどこまで変わるのかは、今後しっかり見ていく必要があるでしょうが。

日本企業の回帰には大いに期待

一方で、今次決定が日本企業に与える影響は比較的大きなものになりそうだ、と期待しています。そう考える理由の一つは、そもそも日本的経営は様々なステークホルダーを重視していたわけで、日本企業の経営者はそれを若かった頃の経験として覚えているはずだからです。

日本企業が「グローバル・スタンダード」という言葉の流行に乗って株主第一主義に転換したのは、バブル崩壊後の長期低迷期のことです。「日本的なやり方だから、うまく行かないのだ。米国の真似をすれば良いのだ」と言われて、「そんなものかな」と考えたわけですね。

それが本家の米国で見直されるということになれば、日本企業の多くは日本的経営に回帰しようと考えるはずです。大いに期待しましょう。

そもそも日本的経営は日本人向き

日本企業が日本的経営に回帰してステークホルダーたちを重視するようになると考える今ひとつの理由は、日本的経営が日本に向いているからです。

日本人は、不安を感じる遺伝子が多いそうです。災害の多い国では、不安を感じてリスクを回避する人の方が生き延びた、ということかもしれませんね。そこで日本人労働者の多くは、「終身雇用を保証してくれたら、生涯所得の期待値は低くても良い」と考えるわけです。

それなら企業にとっても好都合です。「終身雇用さえ保証すれば、生涯賃金の期待値は低く抑えても構わない」ということだからです。ウィン-ウィンの関係ですね。

外国で終身雇用だと、「サボってもクビにならないなら、サボろう」という労働者が多いかもしれませんが、日本人はそもそも仕事に対する取り組み姿勢が真面目ですし、恥の文化なので「窓際族になりたくないから、真面目に働く」という人も多いでしょう。したがって、終身雇用が機能するわけです。

日本人はウエットな関係が好きだ、という点も日本的経営に向いています。同じ下請けを使い続けたり、メインバンクが借り手の苦境時に借り手を支援したりするのも、ウエットな関係を重視しているからですね。

米国では銀行が借り手にドライに接するのが当然なので、それで問題ないのですが、メインバンクがドライに借り手を見放したりすると、「あの銀行は冷たい」という悪評が立って、顧客に逃げられてしまいます。だから、邦銀は借り手を見守ることが重要なのです。

日本的経営はマクロ経済にプラス