英国のPension Wiseは企業年金引出時のサービス
投資教育は若いうちから行うべきだとよくいわれます。その通りではありますが、なかなかお金の感覚や資産運用の重要性といったことを理解できてない段階での投資教育は難しい面もあります。一方で、お金に関して最も真剣に考えるときは退職直前ではないでしょうか。その時点で行われる投資教育も、また大切なことだといえます。
英国では2015年からPension Wise(ペンション・ワイズ)と呼ばれる政策がスタートしました。これは確定拠出年金に加入している人が、その資産を引き出す時期になったら、政府が無償で投資ガイダンスを実施するというものです。
英国の企業年金制度はこのところ大きく変化してきました。2012年から2018年にかけてすべての企業が企業年金を導入することを法律で定め、従業員は自動加入が義務づけられました。もちろん希望によって脱会する権利(Opt-out)は認められていますが、想定を大幅に下回る脱会率だったこともあり、ほぼ毎年100万人以上が新たに加入しています。
2012年以降の累計では1,000万人を超える加入者増につながり、非常に多くの従業員が企業年金に加入することになりました。
その一方で英国では確定拠出年金からの引き出しに関する自由化も行われました。55歳になれば引き出すことができるようになり、それまであった細かな引き出し制限が一掃されて、引き出した額がその年の課税所得に組みこまれるという非常にシンプルな形に改められました。
実はこの自由化が退職者の年金資産を一気に消費してしまうのではないかとの懸念を生み、その懸念から前述のPension Wiseはスタートしています。必ずしも理想的なものとは言い切れませんが、退職時点でのお金との向き合い方をしっかりと考えるいい機会を提供していると思います。
年間20万人が利用
この制度はもともと、財務省とThe Pension Advisory Serviceなど複数の組織が別々の担当業務をそれぞれに行っていましたが、2019年になって1つにまとめられて、現在Money & Pensions Service(MAPS)と呼ばれる組織が立ち上がっています。
具体的なガイダンスは、面談によるものが中心ですが、電話によるもの、Webchatによるものも行われており、2020年4月の課税年度では20万人を超える人がそのサービスを受けることになる見込みです。
投資ガイダンスでは具体的なアドバイスまでは踏み込めませんが、サービスを受ければ大切な退職後のお金に関する示唆を得られ、必要な人は投資アドバイザーにアドバイスを求める第一歩にもつながります。日本でも、こうした退職時点でのお金との向き合い方の研修がもっと大々的に行われてもいいのはないでしょうか。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史