2026年も折り返し地点を迎え、いよいよ夏の足音が近づいてきました。

「定年=完全なリタイア」というかつての常識は薄れ、今や60歳代、70歳代になってもご自身のペースで働き続けることがごく自然な選択肢となっています。

昨年の「年金制度改正法」の成立をきっかけに、これからのセカンドキャリアや老後の資金計画を改めて見つめ直した方も多いのではないでしょうか。

長く現役で活躍するシニア世代にとって、「公的年金」と「就労による収入」は生活を支える大切な両輪です。

しかし、国が用意している支援策の中には、「自ら申請しなければ受け取れない手当や給付金」が数多く存在することをご存知でしょうか。

本記事では、60代・65歳以上のシニアを対象とした「公的年金の上乗せ」と「雇用保険関連」に関する5つの給付制度を解説します。

知らずに損をしてしまうことがないよう、ご自身が対象になっていないかこの機会にチェックしてみましょう。

※LIMOでは、個別の相談・お問い合わせにはお答えできません。

1. 「長く働く」が当たり前の時代へ。シニアの生活を支える年金と就労

内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、65~69歳の男性の6割以上、女性の4割以上が就労中です。70歳代前半でも、男性の4割弱、女性の2割以上が仕事を続けています。

年齢を重ねるにつれて働く人の割合は少しずつ減少するものの、シニア全体で見ると就業率は徐々に高まっています。

一方で、60歳以降は給料が下がるケースが多く見られます。また、現役時代のように希望通りの仕事に就けなかったり、健康上の理由で働き続けることが難しくなったりすることもあるでしょう。

厚生労働省「令和6年簡易生命表の概況」によると、日本人の平均寿命は、男性81.09年、女性87.13年。老齢年金世代である65歳以上のシニアにとって、「公的年金」と並んで「就労」は、長くなる老後の暮らしを支える重要な柱となっています。

次の章以降では、シニアを対象とする給付金や手当などのうち申請しないと受け取れない、「雇用保険関連のお金」と「公的年金に上乗せされるお金」について、整理してお伝えしていきます。

2. 【老齢年金】もらい忘れに注意!要件満たせば「老齢年金に上乗せ」される2つの給付

老齢年金を受給している方が一定の要件を満たす場合に、本来の年金にプラスして受け取れる2つの制度について解説します。

2.1 1. 年金版の家族手当「加給年金」

「加給年金」は、厚生年金に20年以上加入していた方が65歳になった際、生計を維持している「年下の配偶者」や「子ども」がいる場合に加算される制度です。

いわば、年金版の「家族手当」のような役割を持っています。

以下の条件を満たしており、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合、年金に上乗せされます。

加給年金の支給要件とは

  • 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
  • 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)

(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

それぞれ、上記で示したタイミングで、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合、年金に上乗せされます。

ただし、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)、退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利がある場合、または障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合、配偶者加給年金額は支給停止されます。

2026年度の加給年金の金額

加給年金の加給年金額1/7

加給年金の加給年金額

出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

「加給年金」の年金額(2026年度の年額)は以下のとおりです。

  • 配偶者:24万3800円
  • 1人目・2人目の子:各24万3800円
  • 3人目以降の子:各8万1300円

なお、老齢厚生年金を受給中の人の生年月日により、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が支払われます。

配偶者の年金に加算される「振替加算」

配偶者が65歳になると加給年金は終了しますが、一定の要件を満たせば、今度は配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一定額が引き継がれます。

2.2 2. 所得が一定基準以下の場合の「老齢年金生活者支援給付金」

「老齢年金生活者支援給付金」は、老齢基礎年金を受給している方のうち、所得や世帯収入が一定基準以下の場合に、生活の底上げを目的として支給されるものです。

年金本体とは別の法律に基づいて支給される「給付金」という位置づけになります。

老齢年金生活者支援給付金の対象者

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である

※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される

給付基準額について

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額3/7

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」をもとにLIMO編集部作成

2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。

この基準額をもとにして、保険料納付状況等により給付金額が算出されます(下記①と②の合計額)。

給付額の計算方法

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480カ月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480カ月

※保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。

3. 【雇用保険】働き続けるシニアを支援!申請必須の「3つの給付金・手当」

働き続けるシニアが気になる、就労に関連する給付金や手当についても見ていきます。

シニアの就労を支援する制度は整いつつありますが、一般的には60歳を境に収入が下がる傾向があります(※)。また、就職活動や就労継続が、若い頃のようにスムーズに進む人ばかりではないでしょう。

そこで、シニアが知っておきたい雇用保険に関連する手当や給付金についても「3種類」紹介します。

※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円

3.1 1. 65歳未満の早期再就職を支援する「再就職手当」

再就職手当は、早期の再就職を促進するための手当で、「失業~再就職」「失業~事業開始」までの期間が短いほど、支給額が多くなります。

再就職手当の支給要件

  • 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
  • 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給

再就職手当の給付率

  • 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
    • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
    • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」

再就職手当の額4/7

再就職手当の額

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

なお、再就職手当を受け取り再就職先で6カ月以上雇用され、かつ再就職先での6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも少ない場合は「就業促進定着手当」の対象となります。

3.2 2. 60歳から65歳未満の賃金減少を補う「高年齢雇用継続給付」

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の人が就労を続ける際、賃金が60歳到達時よりも減少した場合に支給される給付金です。

高年齢雇用継続給付の支給要件

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合

高年齢雇用継続給付の支給率

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%

【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)5/7

【早見表】高年齢雇用継続給付

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

老齢年金を受給しながら、厚生年金に加入して「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる点に留意しておく必要があります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%

3.3 3. 65歳以上で失業した際の「高年齢求職者給付金」

高年齢求職者給付金は、65歳以上の人が失業した際に支給される給付金です。

高年齢求職者給付金の支給要件

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
  • 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
    1. 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
    2. 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す

高年齢求職者給付金の給付額

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
    • 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額

なお、65歳未満が受け取る「失業手当」は4週間に一度ずつ失業認定を受けてから給付されるのに対し、この高年齢求職者給付金は一括で支給されます。

4. 【最新動向】2025年に成立した「年金制度改正法」押さえておきたいポイント

2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が衆議院で修正のうえ可決され、年金制度改正法が成立しました。

働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成等の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、私的年金制度の拡充や所得再分配機能の強化などによって、老後の暮らしの安定や、所得保障機能の強化に繋げていくことが主な狙いです。

今回の改正の主な見直しポイントを整理していきましょう。

4.1 年金制度改正における主な見直し点

社会保険の適用拡大

  • 短時間労働者の加入要件(賃金要件・企業規模要件)の見直し(年収「106万円の壁」撤廃へ)

在職老齢年金制度の変更点

  • 支給停止調整額「月65万円」へ大幅緩和(2025年度は月51万円)

遺族年金制度の変更点

  • 遺族厚生年金の男女差を解消
  • 子どもが遺族基礎年金を受給しやすくする

標準報酬月額の上限引き上げ

  • 標準報酬月額の上限を、月65万円→75万円へ段階的に引き上げ

私的年金制度の拡充

  • iDeCo加入年齢の上限引き上げ(3年以内に実施)
  • 企業型DCの拠出限度額の拡充(3年以内に実施)
  • 企業年金の運用の見える化(5年以内に実施)

基礎年金の給付水準維持に向けた措置

  • 今後の社会経済情勢を見極めた上で、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を講じる

こうした内容からも、公的年金制度は現役世代の働き方やライフプランと深い関わりを持っていることが分かります。

5. まとめ

本記事では、60歳・65歳以上のシニア世代に向けた「申請必須の5つの公的給付」について解説しました。

年金にプラスされる「加給年金」や「老齢年金生活者支援給付金」、そして就労をサポートする「再就職手当」をはじめとする雇用保険関連の給付金は、要件を満たしていても待っているだけで自動的に振り込まれることはありません。

すべて、制度の存在を知り、ご自身で手続きを行う必要があります。

公的な制度は要件が細かく、「自分に関係があるのか分からない」「手続きが難しそう」と敬遠してしまいがちです。しかし、この申請の有無が受け取れる金額を大きく左右します。

もし、ご自身の状況が少しでも要件に当てはまる可能性があるなら、まずはお近くの年金事務所やハローワークへ積極的に問い合わせてみましょう。

参考資料

LIMO編集部社会保障解説班