3. グリーンスパン時代の「ITバブル」との歴史的同型性
「AIによって生産性が上がるから、金利を下げても大丈夫」というウォーシュ氏の主張。一見すると画期的に聞こえますが、泉田氏はこの論理に対して冷静な視点を投げかけます。
「昔を知ってる人間からすると、同じ議論をしている感じはあると思います」
実は、1990年代後半のアラン・グリーンスパンFRB議長時代にも、全く同じような議論がありました。当時は「IT革命(ニューエコノミー)」と呼ばれ、インターネットやEメールの普及によって企業の生産性が飛躍的に向上するため、インフレなき経済成長が可能だと言われていました。
その結果、FRBは利上げを見送り、低金利環境の中でインターネット関連企業の株価が異常な高騰を見せる「ITバブル(ドットコムバブル)」が発生しました。
しかし結局のところ、期待されたほど利益を出せる企業は少なく、バブルは弾け飛ぶことになります。
泉田氏の分析によれば、現在のウォーシュ氏が唱えるAI生産性論は、当時のグリーンスパン氏のIT革命論と歴史的に同じ構造を持っています。
AIが本当に企業の利益に直結すればバブルではありませんが、実態が伴わなければ過去と同じ歴史を繰り返すリスクを孕んでいるのです。
4. トランプ政権の思惑と合致する「2軸ロジック」
では、なぜウォーシュ氏はこのタイミングで、過去のバブルと同じ轍を踏みかねない「AI生産性論」を持ち出してきたのでしょうか。そこには、トランプ大統領との複雑な政治的力学が絡んでいると泉田氏は分析します。
トランプ大統領は不動産実業家としての背景もあり、一貫してFRBに「利下げ」を求めてきました。
「金融資産にとって低金利って、資産価格が上がる絶対的な条件なんですよ」
金利が下がれば、企業や個人はお金を借りやすくなり、株式や不動産に資金が流れ込んで資産価格が上昇します。トランプ大統領としては、経済を良く見せるために是が非でも金利を下げさせたい思惑があります。
一方で、ウォーシュ氏の最優先課題は、コロナ禍で膨れ上がった中央銀行のバランスシートを縮小すること(QT)です。FRBのバランスシートは2025年12月にQTをいったん正式停止したものの、依然としてコロナ前を大きく上回る約6.7兆ドルの規模が残されています。
そこでウォーシュ氏は、トランプ大統領の求める「利下げ」を受け入れる代わりに、自身の悲願であるバランスシートの一段の縮小(QTの再開)を進めるという着地点を見出したと推測されます。
つまり、「AIのおかげでインフレは起きないから金利は下げます(大統領への配慮)。ただし、市場の歪みを正すためにバランスシートの縮小は続けます(自身の信念)」という2軸のロジックを構築したのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日