「定年退職を迎えて年金生活に入ったものの、毎月の引き落とし額を見ると不安」――。60代・70代の多くが直面するこの不安に対し、手元の「老齢年金」だけで耐えしのごうとするのは、実は社会保障の仕組み上、大きな間違いです。

日本の行政が敷いている鉄則は、徹底した「申請主義」。自ら要件を調べ、期限内に窓口へ書類を提出した人にのみ現金を支給します。

本記事では、60歳・65歳の大きな節目に発生する「年金・雇用保険にまつわる5つの公的支援制度」を徹底整理。

まずはご自身の現状と照らし合わせ、回収漏れがないかを総点検してください。

※LIMOでは、個別の相談・お問い合わせにはお答えできません。

齊藤 慧
本記事は、編集部が、厚生労働省、日本年金機構などが公表する「公的年金・雇用保険」に関する最新の一次資料、および年金制度改正の公式資料を確認の上、執筆・検証しています。

1. 手続きしなければ受け取れない「高齢者向け」の公的支援制度

老齢年金や障害年金、遺族年金といった公的年金は、老後や万一の際の生活を支える重要な制度です。

ただし、受給資格を満たしていても、自動的に支給が始まるわけではありません。

年金を受け取るには、年金請求書を提出し、所定の手続きを行う必要があります。

同様に、国や自治体が実施する給付金や補助金、各種手当も、多くの場合は申請が必要です。

申請期限を過ぎたり、必要書類が不足したりすると、本来受け取れるはずだった給付を受けられない場合もあります。

公的支援制度を活用するためには、自身が対象となる制度を把握し、必要な手続きを忘れずに行うことが重要です。

2. 老齢年金に加えて受け取れる可能性がある制度

老齢年金を受給している人のうち、一定の条件を満たした場合に年金へ上乗せされる制度を2つ紹介します。

2.1 加給年金

加給年金は、老齢厚生年金を受給する人に対して支給される家族手当のような制度です。

年下の配偶者や子どもを扶養している場合に、年金へ加算される仕組みとなっています。

加給年金《支給要件》

  • 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
  • 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)

(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

上記の要件を満たした時点で、65歳未満の配偶者や、18歳到達年度末までの子、あるいは1級・2級の障害がある20歳未満の子を扶養している場合には、加給年金額が年金に加算されます。

一方で、配偶者が被保険者期間20年以上の老齢厚生年金や組合員期間20年以上の退職共済年金を受け取る権利を持っている場合、または障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合には、配偶者に対する加給年金額は支給停止となります。

加給年金《2026年度の年金額》

「加給年金」の年金額(2026年度の年額)は以下のとおりです。

  • 配偶者:24万3800円
  • 1人目・2人目の子:各24万3800円
  • 3人目以降の子:各8万1300円

なお、老齢厚生年金を受給中の人の生年月日により、配偶者の加給年金額に特別加算額が支払われます。

また、加給年金は対象となる配偶者が65歳になると支給は終わりますが、その配偶者が老齢基礎年金を受け取る場合、一定の要件を満たせば「振替加算」が支給されます。

2.2 老齢年金生活者支援給付金

年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給している人のうち、所得が一定基準以下の人を対象に支給される制度です。

給付金には「老齢」「障害」「遺族」の3種類があり、それぞれ異なる支給条件が定められています。

ここでは、老齢年金生活者支援給付金について見ていきましょう。

老齢年金生活者支援給付金の支給要件

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である

※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額4/7

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額

出所:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」をもとにLIMO編集部作成

2026年度の老齢年金生活者支援給付金の基準額は月額5620円で、前年度から3.2%引き上げられました。

実際の給付額は、この基準額をもとに保険料の納付状況などを反映して計算されます。

老齢年金生活者支援給付金の給付額の計算式

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1551円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月

たとえば、国民年金保険料を40年間すべて納付していた場合、2026年度の給付額は月額5620円、年額では6万7440円となります。

なお、保険料免除期間の計算に用いる金額は、老齢基礎年金の改定にあわせて毎年度見直されます。

3. シニア世代が利用できる雇用保険の給付制度

高齢になってからも働き続ける人や再就職を目指す人に向けて、雇用保険にはさまざまな給付制度が用意されています。

近年は高齢者の就労支援が進んでいますが、一般的には60歳以降に収入が減少する傾向があります()。

また、再就職や継続雇用が思うように進まないケースもあるでしょう。

ここでは、シニア世代が知っておきたい雇用保険関連の給付制度を3つ紹介します。

※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円

3.1 65歳未満がもらえる「再就職手当」

再就職手当は、失業後に早期の再就職や事業開始をした場合に支給される制度です。

再就職までの期間が短いほど、受け取れる金額は大きくなります。

再就職手当【支給要件】

  • 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
  • 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給

再就職手当【給付率】

  • 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
    • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
    • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」

再就職手当の額5/7

再就職手当の額

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

なお、再就職手当を受給後、再就職先で6カ月以上勤務し、その間の賃金が離職前より低い場合は、就業促進定着手当の対象となります。

3.2 60歳以上65歳未満が対象「高年齢雇用継続給付」

高年齢雇用継続給付は、60歳以降も働き続ける人の収入減少を補うための制度です。

高年齢雇用継続給付【支給要件】

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳時到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合

高年齢雇用継続給付【支給率】

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%

【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)6/7

【早見表】高年齢雇用継続給付

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

なお、老齢年金を受給しながら厚生年金に加入し、この給付を受ける場合は、在職による年金支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)相当額が支給停止となります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%

3.3 65歳以上が対象「高年齢求職者給付金」

高年齢求職者給付金は、65歳以上で離職した人を対象とした給付制度です。

高年齢求職者給付金【支給要件】

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
  • 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
    1. 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
    2. 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す

高年齢求職者給付金【いくらもらえる?】給付金額

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
    • 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額

なお、65歳未満が受給する失業手当は失業認定を受けながら支給されますが、高年齢求職者給付金は一時金としてまとめて支給されます。

4. シニア世帯の家計を支える「申請型給付」をチェックしておこう

制度というものは「知っているか、知らないか」だけの差で、手元に残る現金が数十万円単位で変わる残酷な側面を持っています。

今回ご紹介した5つの制度は、どれも「あなたが長年、給料から毎月天引きされ続けてきた社会保険料の正当な対価」です。

「自分には関係ないだろう」「役所の書類はややこしいから」という心理的ブレーキを外すこと。それが、物価高の老後を生き抜くための最初の自衛策になります。

5. 【監修者のコメント】この記事の総括とこれからの実務上の注意点

齊藤 慧

定年前後の手続きの落とし穴は、『年金(日本年金機構)』と『雇用保険(ハローワーク)』の管轄の断絶です。縦割り構造ゆえに、年金事務所で失業給付の案内がされることは原則ありません。

さらに留意すべきは制度間の『調整(相殺)ルール』です。例えば65歳未満でハローワークの基本手当を受けると、その間は老齢厚生年金が全額停止します。単体の給付額だけに目を奪われると、全体の受給総額を目減りさせてしまうリスクがあるのです。

だからこそ、退職前に『雇用保険の離職票』と『ねんきん定期便』を机に並べ、全体のパズルを自ら設計する視点が不可欠です。窓口の担当者は個別の計算には応じますが、複数機関をまたいだ最適解までは提示できません。

まずは管轄の異なる2つの書類をまとめて確認ること。それがご自身の正当な権利を守り抜く第一歩となります。

参考資料