シャープがここまで追い込まれたのはなぜか

シャープ(6753)は、なぜ台湾のEMS(電子機器製造受託サービス)企業である鴻海(ホンハイ)精密工業の買収提案を受けるに至ったのでしょうか。

読者のみなさんの中には、「シャープは吉永小百合をCMで採用し、液晶テレビは亀山モデルと称して販売に成功していた企業ではないのか」という印象をお持ちの方も多いかと思います。

それがなぜ、現在報道されているように台湾企業に買収されなければならないのかについて、すんなり理解できないかもしれません。今回は過去にさかのぼって見ていくことにしましょう。

ブラウン管時代は負け組だったシャープ

ブラウン管全盛時代の市場の覇者といえば、ブラウン管およびそれに必要な電子銃などの生産設備を持っているソニー(6758)、現在のパナソニック(6752)、東芝(6502)でした。一方、シャープは自社でブラウン管を生産していなかったため、テレビの品質は低いままでした。

ただ、国内の競合企業にブラウン管を売ってくれと頼んでも簡単に売ってくれるような競争環境でなかったことは容易に想像がつきます。結果、シャープは家電メーカーであるのに、花形商品のブラウン管テレビのシェアは低いままでした。

ついに来た液晶テレビ時代

ところが液晶パネルの大型化にめどがつき、液晶テレビが実現できるというその瞬間、シャープは経営のかじを大きく切ることになります。液晶テレビを戦略商品として大きく掲げたのです。

シャープは電卓などの小型液晶では実績があったものの、大型の液晶で本当に戦えるのかという懸念もあったと思います。しかし、ブラウン管テレビに必要なブラウン管工場を持たないことで辛酸をなめ続けてきたシャープは、全力で液晶テレビの生産へまい進するだけでした。

一時、国内では液晶テレビといえばアクオスとまで言われたが

液晶テレビの登場と同時期に、テレビのパネルにふさわしいのは液晶(パネル)とプラズマ(パネル)のどちらなのか、という議論が巻き起こっていました。時代を俯瞰して見れば液晶テレビの圧勝ということになるのですが、その当時はまだ優劣がはっきりしませんでした。

液晶テレビが出始めたころは、大型の液晶パネルを製造できる、もしくは調達することができるテレビメーカーがそのままシェアを獲得するのには有利な状況でした。全社で経営資源を集中したシャープは、パネルを自社生産することに成功したため、その恩恵を十分に受けることができたのです。

この時、シャープの国内での液晶テレビの地位が確立したと言えるでしょう。

液晶テレビの調達と生産の流れが変わった

ところが、日本だけではなく、韓国や台湾でも大型の液晶パネルが作れるようになり、パネルを外部から調達できるという前提で生産を受託するような企業も現れました。それが鴻海の生業であるEMS(電子機器製造受託サービス)の仕事です。

新興テレビメーカーの中には、生産設備を全く持たずにテレビを生産し、米国で市場シェアを拡大するメーカーも出てきました。そうした事業を展開するのに必要なのは、パネル調達やEMSの生産キャパシティーを確保するための資金だけ、とは言いませんが、資金が競争優位を決定するのに大きな影響を与える条件となってきました。

また、ブラウン管時代は、ブラウン管そのものがガラスを多く使用したため重く、長距離輸送には向いていませんでした。したがって、テレビ工場とガラス工場は隣接していました。ところが、液晶パネルの時代になってからは、その輸送もブラウン管時代ほどの制約がなくなり、より自由にEMSといった製造サービス企業を活用できるようになりました。

いわゆるテレビ生産の水平分業が可能になったというわけです。

成功体験にしがみつく

シャープは、製造プロセスにおいてグローバルの流れが1社で完結する垂直統合から水平分業に切り替わるのが見えていなかったのか、と言いたくなりますが、実際は、成功体験にしがみついたというところでしょうか。シャープは亀山工場に続き堺工場を建設し、液晶パネルの巨大化、垂直統合にこだわり続けます。

そうした中、堺工場では、これまで消極的だったパネルの外販などをしなければ自家消費できないくらいのパネルが生産されてしまうなど、新たな事業に挑戦せざるを得なくなります。こうした、従来は経験のない事業への取り組みに加え、価格下落が厳しく、競争の激しい液晶テレビの垂直統合にこだわり続けることで採算が大きく悪化していきます。

シャープの事業は液晶パネルだけで語ることはできませんが、以上、重要な部分をハイライトして解説してみました。

【2016年3月13日 投信1編集部】

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LIMO編集部