日本の公的年金制度は、すべての国民の老後や万が一のリスクを支える重要な基盤です。その中でも、会社員や公務員が加入する「厚生年金」は、加入者数も多く、私たちの生涯設計に直結する制度です。
しかし、毎月の給与から天引きされているため、「いつから、いくらもらえるのか」「どのような仕組みなのか」を正確に把握している人は多くありません。
実は、制度の基本ルールを知らないばかりに、「残業したせいで手取りが減る」「退職時の手続き漏れで財産を差し押さえられる」「税金が過剰に引かれる」といった実務上のトラブルに巻き込まれるケースが後を絶ちません。
本記事では、厚生年金と国民年金の違いといった基礎知識から、最新の年金額改定モデルケース、「月15万円以上」もらっている人の割合、そして2026年を見据えた私的年金の改正動向まで、全世代が知っておくべき「年金の辞書」として徹底解説します。
1. この記事の3つのポイント
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国民年金と厚生年金の違いを比較 -
国民年金+厚生年金「月15万円以上」もらっている人は約半数 -
働きながら受け取る注意点(在職老齢年金)とは
2. 日本の公的年金制度の仕組みをおさらい
日本の公的年金は、よく「建物の階層」に例えられます。働き方によって加入する年金が変わり、将来受け取れる年金額にも大きな差が生まれます。
2.1 【第1階部分:国民年金(基礎年金)】
日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入を義務付けられているのが国民年金です。
自営業者、フリーランス、学生、無職の人などが「第1号被保険者」として加入し、全員が一律の保険料を納めます。会社員に扶養されている配偶者(年収130万円未満など)は「第3号被保険者」となり、個別の保険料負担はありません。
2.2 【第2階部分:厚生年金】
厚生年金保険の適用事業所に勤務する会社員や公務員が加入するのが厚生年金です(第2号被保険者)。国民年金に上乗せされる形で加入するため、将来は「基礎年金+厚生年金(報酬比例部分)」の2階建てで年金を受け取ることができます。保険料は給与額に応じて変動し、会社と従業員が半分ずつ負担する「労使折半」が大きな特徴です。
2.3 国民年金と厚生年金の違い比較
| 比較項目 | 国民年金(第1号・第3号など) | 厚生年金(第2号被保険者) |
|---|---|---|
| 保険料の金額 | 定額(毎年度改定)※第3号は負担なし | 給与や賞与の額(標準報酬月額)に応じて変動 |
| 保険料の負担 | 全額自己負担 | 労使折半(会社と半分ずつ負担) |
| 保障の範囲 | 老齢・障害(1,2級)・遺族(子のいる配偶者等) | 老齢・障害(1〜3級,手当金)・遺族(範囲が広い) |
2.4 監修者からコメント
日本の年金制度は「2階建て」が基本ですが、現役世代・退職時における代表的なトラブルの一つが、退職時の「国民年金への切り替え手続き漏れ」です。
会社員(第2号)から外れた際、自分で役所に行き第1号への変更手続きをしないと未納期間が発生します。これを放置すると、日本年金機構からの「特別催告状」が届き、さらに督促状を経て、最終的には預貯金や給与などの財産差し押さえに発展します。退職や扶養から外れる際は速やかな手続きが必要です。
3. 【最新の年金額改定】基礎年金と厚生年金のモデルケースは月額いくら?
公的年金の支給額は、物価や賃金の変動に合わせて毎年度改定されます。これを「マクロ経済スライド」等の調整機能と呼びます。
厚生労働省が公表する最新の年金額改定に基づく「新規裁定者(新たに年金をもらい始める人)」のモデルケースは以下の通りです。
- 国民年金(老齢基礎年金)の満額:月額7万608円(1人分)
- 厚生年金の夫婦モデルケース:月額23万7279円
※厚生年金のモデルケースは、「平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)約43.9万円)で40年間就業した夫」と「専業主婦の妻」の2人分の老齢基礎年金を含む金額として設定されています。
年金は「雑所得」として課税対象になります。額面通りに振り込まれるわけではなく、税金や社会保険料が天引きされるため、手取り額は減少します。
3.1 監修者からコメント
国が示す「夫婦で約23万円」というモデルケースはあくまで理想的な標準世帯であり、共働き世帯や単身世帯、加入期間が短い人には当てはまりません。
さらに、年金見込額から天引きされる住民税や介護保険料は年々上昇傾向にあります。日本年金機構から毎年届く『扶養親族等申告書』の提出を忘れると配偶者控除などの各種控除が一切適用されず、源泉徴収額が増えて手取りが激減する実務の罠があることにも注意が必要です。
4. 国民年金+厚生年金「月15万円以上」もらっている人はどのくらいいる?
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、国民年金+厚生年金で月額15万円以上受け取っている人の割合をみてみましょう。
4.1 【厚生年金の平均月額と受給額ごとの受給権者数】
【平均年金月額】
- 全体 15万289円
- 男性 16万9967円
- 女性 11万1413円
※国民年金部分を含む
【受給額ごとの受給権者数】
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
厚生労働省年金局の資料によると、厚生年金の受給権者のうち、月額15万円以上を受け取っている人は全体の約49.8%にのぼります。
つまり、受給者のほぼ半数が「月15万円以上」の年金を受け取っている計算です。
ただし、この金額はあくまで支給額(額面)ベースであり、実際に振り込まれる金額とは異なります。
年金からは、所得税・住民税・介護保険料・後期高齢者医療保険料などが自動的に天引きされるため、手取り額は額面より数千円から1万円以上少なくなるのが一般的です。
自分の正確な受取額を把握するには、毎年日本年金機構から届く「年金振込通知書」を確認しましょう。
また、オンラインで確認できる「ねんきんネット」を利用すれば、支給額や控除額、受取額をいつでもチェックできます。
4.2 【監修者からコメント】
平均受給額のデータを見ると「自分も14万〜16万円もらえる」と錯覚しがちですが、ボリュームゾーンは大きくバラついています。特に注意したいのが、厚生年金の給付の一つである「障害厚生年金」の実態です。障害年金は老齢年金に比べて手厚いですが、受給の壁となるのが「初診日の証明」です。精神疾患などで数年経過してから申請しようとした際、医療機関のカルテ保存義務(5年)を過ぎてカルテが廃棄されているケースはあります。
ただし、カルテがない場合でも、診察券や領収書、お薬手帳、他院の紹介状などの客観資料や申立書を活用して初診日を証明・推定する救済手段が用意されています。老後の金額だけでなく、万が一の保障の仕組みや証明のハードルについても正しく知っておくべきです。
5. 厚生年金保険料の計算方法と「標準報酬月額」の罠
毎月給与から引かれる厚生年金保険料は、基本給だけで決まるわけではありません。残業代や通勤手当、住宅手当などを含めた総支給額を、1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの等級表(標準報酬月額)に当てはめて計算されます。
現在の保険料率は「18.3%」で固定されており、これを労使折半で負担します。
5.1 4〜6月の残業代が1年間を左右する「定時決定」
官公庁のルール上、毎年4月・5月・6月の3ヶ月間に支払われた給与の平均で、その年9月から翌年8月までの1年間の標準報酬月額が決定されます。これを「定時決定」と呼びます。
5.2 監修者からコメント
厚生年金保険料で絶対に知っておくべき注意点が、この「定時決定」です。春先に繁忙期を迎えて多額の残業代をもらうと、秋以降に残業がゼロになっても高い社会保険料が天引きされ続けます。「頑張って残業したせいで、逆に年間の手取りが減る」という現象が起き得るため、企業の人事労務担当者はもちろん、働く個人としても4〜6月の働き方は慎重にコントロールする必要があります。
ただし、社会保険料の増額以上に自身の残業代収入が増えているため、年間の総収入・手取りが絶対に減るわけではありません。また、将来の年金や各種手当が手厚くなるメリットもあるため、目先の負担増だけでなくトータルで考えることが大切です。
6. 自分の年金はいくらになる?将来もらえる年金額の計算方法
公的年金は「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金」の2階建て構造になっており、それぞれ計算方法が全く異なります。ここでは、受給額のベースとなる基本的な計算式を解説します。
6.1 「国民年金」の受給金額を計算する
国民年金(基礎年金)の計算式はシンプルで、「満額の年金額 × 納付した月数 ÷ 480ヶ月(40年)」が基本です。
満額の年金額は毎年度改定されますが、概ね年間84万7300円(月額約7万608円)です。20歳から60歳までの40年間(480ヶ月)、一度も未納や免除がなく全期間の保険料を納めきれば、この満額を受け取ることができます。
ここで注意すべきなのは「学生納付特例」や「納付猶予」の未追納です。過去にこれらの制度を利用し、後から追納をしていない期間がある場合、受給資格の期間には数えられますが、年金額の計算では「納付した月数」に増えないため、65歳以降に受け取る国民年金が少なくなります。
なお、正規の「保険料免除」を受けていた期間であれば、追納していなくても国庫負担分(全額免除なら2分の1など)が反映されます。
6.2 「厚生年金」の受給額を計算する
厚生年金は、現役時代の「給与の高さ」と「加入期間の長さ」に比例して金額が増える仕組み(報酬比例部分)です。基本となる計算式は以下の通りです。
平均標準報酬額 × 5.481 / 1000 × 加入月数
※平成15年(2003年)3月以前の加入期間については、賞与を含まない「平均標準報酬月額」を用いた別の乗率(7.125 / 1000)で計算して合算します。
「平均標準報酬額」とは、厚生年金に加入していた全期間の「月給と賞与(ボーナス)の総額」を、加入月数で割った平均額のことです。つまり、生涯にわたってどれだけ稼いだかがダイレクトに受給額へ反映されます。(上限あり)
6.3 監修者コメント:「ねんきん定期便」の額面をそのまま信じない
「自分の年金がいくらになるか」を把握するために、毎年届く『ねんきん定期便』を見る人は多いでしょう。しかし、50歳未満の人に届く定期便に記載されている金額は「将来もらえる予定の金額」ではなく、「これまでの加入実績に基づく現時点での金額」に過ぎません。
そのため、額面を見て「少なすぎる!」と感じたり、逆に50歳以上の人が「額面通り丸々もらえる」と勘違いして手取りの少なさに後悔するケースが起こりえます。まずはベースとなる計算式の仕組みを知り、現実的な数字を自分で試算するリテラシーが求められます。
7. 働きながら受け取る注意点(在職老齢年金)と増額の罠
老齢厚生年金は原則65歳から受給できますが、65歳以降も働き続ける人が増えています。
7.1 働きながらもらうと年金が減る「在職老齢年金」
厚生年金に加入しながら受給する場合、老齢厚生年金の月額(基本月額)と、給与・賞与をもとに算出した総報酬月額相当額の合計額が一定の基準額(月額65万円)を超えると、超えた分の半額が支給停止(減額)されます。なお、老齢基礎年金は減額されず全額が支給されます。
7.2 「繰り下げ受給」は最大84%増額だが……
年金の受給開始を66歳〜75歳に遅らせることで、1ヶ月につき0.7%増額され、75歳まで遅らせると最大84%増額となります。しかし、繰り下げ待機中は配偶者の「加給年金」が受け取れなくなるデメリットがあります。
7.3 監修者からコメント
国は長く働くことや繰り下げ受給を推奨し「最大84%増額」と発信していますが、これはあくまで「額面」の話です。額面が増えれば、それに連動して税金や社会保険料の負担率も跳ね上がります。自身の健康寿命とキャッシュフローに照らして受給開始時期を検討すべきです。
8. ライフイベント別の年金手続き(転職・退職・住所変更・死亡)
人生の節目には、必ず年金の手続きが伴います。行政の手続きは「自己申告制」が基本であり、怠ると受給権の喪失や未納ペナルティが発生します。
- 転職・退職時:会社員から無職・自営業になる場合は、退職日の翌日から14日以内に国民年金への切り替え手続きが必要。
- 住所変更・氏名変更:日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、原則として住所・氏名変更の手続きは不要(住民票情報から自動反映)。ただし、マイナンバーが未登録の場合、海外転出する場合、または住民票と異なる住所を送付先とする場合は別途届出が必要。
- 死亡時:受給権者が死亡した場合、速やかに「年金受給権者死亡届」の提出と、未支給年金・遺族年金の請求を行います。
8.1 監修者からコメント
特に家族が亡くなった際の「未支給年金の請求」や「遺族年金の手続き」は、期限を過ぎると権利が消滅したり、死亡後に誤って振り込まれた年金を後から一括返還しなければならなくなったりと、遺族に多大な負担を強いることになります。悲しみの中でも、役所の手続きには厳格なタイムリミットがあることを忘れないでください。
9. 「私的年金」が見直しに?押さえておきたい改正ポイント
公的年金(基礎年金・厚生年金)だけでは老後資金が不足する懸念から、国は自助努力を促す「私的年金」や3階建て部分の制度拡充を進めています。以下のような重要な改正ポイントが議論・実施されています。
9.1 iDeCoの加入可能年齢の上限引き上げ(2026年12月施行)
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、掛金が全額所得控除になるなど強力な節税メリットがあります。現行の加入可能年齢(原則65歳未満)を70歳未満に引き上げられます。
9.2 企業型DCの拠出限度額の拡充(2026年4月より実施)
企業型確定拠出年金(企業型DC)についても、掛金の拠出限度額を引き上げ、より多くの資金を非課税で老後に向けて積み立てられるよう制度の拡充が検討されています。
9.3 企業年金の運用の見える化(制度化・情報開示の推進)
厚生年金基金等の代わりとして普及している企業年金について、加入者が自身の運用状況やリターンを正確に把握できるよう、運用成績の「見える化」を義務付ける方針が打ち出されています。
9.4 私的年金も含めた老後資金の準備を
公的年金制度が維持される一方で、実質的な給付水準(マクロ経済スライドによる調整)は目減りしていく可能性が高いです。NISAやiDeCo、企業年金といった私的年金を組み合わせ、長期的な視野で老後資金を準備することが重要な時代となっています。
9.5 監修者からコメント
2024年の財政検証を経て、2026年の年金制度改正に向けた議論では、短時間労働者に対する厚生年金の「適用拡大の段階的な推進」や、いわゆる専業主婦等を対象とした「第3号被保険者制度の見直し」など、働き方による給付・負担の偏りを和らげる方向へ議論が進んでいます。
公的年金の給付調整(マクロ経済スライド)が続く中で、私的年金の拡充は自身の老後資産を補完する重要な手段となります。まずは自身のねんきん定期便を確認し、公的年金の受給見込額を正確に把握することが、すべての資産計画のスタートラインとなります。
10. よくある質問(FAQ)
10.1 Q. 厚生年金とは簡単に言うと何ですか?
A. 会社員や公務員が加入する公的年金です。基礎年金(国民年金)に上乗せして給付され、保険料は会社と半分ずつ負担(労使折半)します。
10.2 Q. 厚生年金保険料の計算方法は?
A. 毎月の給与(残業代や手当含む)を等級表に当てはめた「標準報酬月額」に、18.3%の保険料率を掛け、それを会社と従業員で半分ずつ負担します。賞与からも同様に引かれます。
10.3 Q. パートで扶養を外れて厚生年金に入るとどうなる?
A. 将来もらえる年金額は増え、傷病手当金などの保障も手厚くなりますが、毎月の給与から社会保険料が天引きされるため、一時的に手取りが減る「年収の壁(106万円・130万円など)」の問題が発生します。
10.4 監修者からコメント
「扶養を外れるべきか」という悩みは、目先の手取り減少だけで判断しないことが大切です。厚生年金に加入すると、将来の老齢厚生年金が増えるだけでなく、万が一の際の障害厚生年金や遺族厚生年金といった手厚い保障(上乗せ給付)が得られます。
制度改正によりパートの適用拡大は順次進んでいますが、「扶養内で働く選択肢」が完全になくなるわけではありません。しかし、適用範囲の拡大に伴い、これまでのように意識せずとも社会保険の対象となるケースが増えている事実を知っておくことが重要です。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「いっしょに検証!公的年金 公的年金の仕組み」
- 厚生労働省「令和8年4月分からの年金額等について」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
加藤 聖人
