2. 株価を支える「フィジカルAI」への熱狂と景気敏感型の特徴
では、市場が安川電機に抱いている「期待」の正体とは何でしょうか。その大きな要因となっているのが、「フィジカルAI」という新しい概念への注目です。
近年、AIが自ら考えて判断し、それを現実世界で物理的に実行する「フィジカルAI」の分野が急速に盛り上がっています。安川電機は、AI処理に不可欠な半導体を手掛けるNVIDIA(エヌビディア)や、ソフトバンクとの協業を発表しており、これが「フィジカルAI元年」の幕開けとして投資家の関心を集めているのです。
しかし、泉田氏はこの期待感だけで安川電機を評価することに注意を促します。かつて証券アナリストとして安川電機を担当していた経験を持つ泉田氏は、同社の株価のボラティリティ(変動幅)の高さに手こずったと振り返ります。
「その時その時で設備投資を一生懸命やってる企業、産業にこの安川の製品が売れるっていうことになるので、結構ボラティリティも高いというか、上げ下げは大きくなってますね」
安川電機の主力製品であるモーターやインバーター、産業用ロボットは、自動車工場や半導体製造工場などで広く使われています。
そのため、顧客となる企業の設備投資が活発になれば業績は伸びますが、逆に設備投資が冷え込めばダイレクトに悪影響を受けます。このような景気の波に業績が左右されやすい特徴を持つ企業を「景気敏感型」と呼びます。
2016年以降、安川電機の株価は何度か垂直に上昇するような局面を見せてきました。これは、新しい機械やロボットが必要とされる産業の盛り上がり(設備投資の波)にうまく乗った結果です。
現在のフィジカルAIに対する期待も、この新たな波の予兆として捉えられているのです。
3. 機関投資家が警戒する「テーマ投資」の光と影
このように、世の中の新しいトレンドや話題性に沿って関連銘柄に投資する手法を「テーマ投資」と呼びます。今回のフィジカルAIも、まさにテーマ投資の典型例です。
インタビュワーが「期待が集まっているタイミングなら、乗った方が良いのではないか」と尋ねると、泉田氏はテーマ投資の持つ二面性について解説しました。
「期待されてないとこから期待されるっていうフェーズが一番株価が上がるわけよ。(中略)だけどテーマ投資のすごく難しいところは、いつ降りたらいいか分かんないってところだね」
株価は期待値で形成されるため、テーマが盛り上がり始めた初期段階に投資できれば、個人投資家でも大きな利益を得るチャンスがあります。
しかし、期待がどこまで膨らむのか、そしていつ弾けるのかを見極めるのは至難の業です。
泉田氏は過去の例として、一時期熱狂的なブームとなった「VR(仮想現実)」や、コロナ禍でオンライン会議システムが注目された「ブイキューブ」などのコロナ銘柄を挙げます。
これらのテーマは一時的に株価を急騰させましたが、ブームが去ったり、社会環境が変化したりすると、膨らんでいた期待が一気に剥落し、株価も急落してしまいました。
そのため、プロである機関投資家は、原則としてテーマ投資を嫌う傾向にあると泉田氏は指摘します。機関投資家は、企業のファンダメンタルズに基づき、継続的に成長していく銘柄を長期で保有することを重視します。
実態の業績を伴わずに期待だけで株価が割高になるテーマ投資は、いつ終わるか分からない「賞味期限」があるため、投資対象として扱いづらいのです。
【動画で解説】安川電機「減益でも株価が下がらない」理由
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日