この記事の読みどころ
2016年に入っての金融市場の波乱は過去のどのショックに匹敵するのでしょうか。それを確かめるために過去の恐怖指数の推移を見てみると、年に1回くらいはショックがあるようです。
恐怖指数が50を超える大きなショックをファンドマネージャーとして味わった経験から、個人投資家の方がショックに対応しやすいと考えられる点がいくつかあります。
資産運用にストレスマネジメントの観点を取れ入れることは、特にショックと言えるような大きな変動があった場合に役立つかもしれません。そのコツをご紹介します。
2016年の波乱相場は「〇〇ショックに匹敵する」?
2016年に入ってから、金融市場は波乱の展開が続いています。2015年末に19,000円台だった日経平均は、2月12日には15,000円を割り込みました。ドル円レートも、2015年末に1ドル120円台だったものが、一時期111円台をつけるまで円高が進みました。
このように大きな変動があると、「過去の〇〇ショックに匹敵する」とか、「過去の〇〇ショックが連想される」などという言われ方をすることがあります。これらは、値動きの変動幅または変動率などを単純に比較した表現であることが多いようです。
しかし、投資家がリアルタイムで体感している雰囲気は「過去の〇〇ショック」と同じなのでしょうか。
恐怖指数(ボラティリティ・インデックス)を見てみる
そこで、「ボラティリティ・インデックス」という、オプション価格の変動をもとに作られている指数を見てみることにします。
一般的に「恐怖指数」と呼ばれるこの指数は、数値が高いほど、投資家が相場の先行きに不透明感(恐怖感)を持っているとされています。日本では、日本経済新聞社から「日経平均ボラティリティ・インデックス」が公表されています。
このインデックスは、今回の波乱相場では、今のところ、2月12日に50近くまで上昇し、その後40を下回る水準まで低下しました。これは2015年8月の「中国ショック」、2013年5月の「バーナンキショック」の時とほぼ同じ水準です。
一時的にでも40を超えてくると「〇〇ショック」と呼ばれるほどの波乱となっているようです。40を超えて50近くまで接近したことがある年は、2006年以降の過去10年のうち、8回あります。40を超えることがなかったのは2006年と2014年だけです。
わざわざ「〇〇ショック」と名前がつくと、ごくまれにしか起きないことのように感じるかもしれません。しかし、株式市場にたずさわっていると、「〇〇ショック」なるものには毎年1回くらい遭遇するということになります。けっこうな頻度です。
その意味では、2016年に入ってからの波乱は、恐怖指数が50を超えていないことを考えると、今のところは年中行事の範囲内と言えるかもしれません。
ショック時は個人投資家の方が対応しやすい?
過去10年で恐怖指数が50を突き抜けたのは、2008年のリーマンショックの時と、2011年の東日本大震災の時の2回です。
日本株のアクティブ運用のファンドマネージャーとして運用の現場にいた経験からすると、恐怖指数が50を超えるような大きなショックが起きる時は、機関投資家のファンドマネージャーよりも、次のような理由から個人投資家の方が対応しやすい面があるのではないかと感じます。
その1. 王様(キャッシュ)を持ちづらい
相場が大きく下落する時、”Cash is King”という言葉が身に染みます。キャッシュなら、資産を下落から守ることができます。また、相場下落時にキャッシュがあれば、保有したかったけれど株価が高くて手を出せなかった銘柄の「バーゲンセール」に参加することもできます。
ところが、多くのファンドの場合、「キャッシュは〇〇%まで(しか持てない)」と決まっています(投資信託であれば10%程度、年金ファンドであれば数%のことが多いです)。
一応、「非常時はその限りではない」ことにはなっていますが、「今が非常時なのかどうか」は運用部門または会社全体で決めることなので、一担当者としては迅速には判断しづらいところです。したがって、たいていの場合、株式の組み入れ率が高いままで暴風域に突入することになります。
個人投資家の場合、キャッシュを持つことに制約はありませんから、「今後のことはよく分からない」という場合は、いったん売却して様子を見るという選択肢が可能です。
その2. 短期的目線になっていく周囲の声が大きくなる
株価の変動が激しくなると、顧客である投資家や投資信託の販売会社、上司や社内のリスクチェック部門から、問い合わせが増えます。また、公募投資信託の場合、基準価額の1日の下落率が5%を超えると、特別レポートを配信する決まりになっていて、その執筆を求められます。にわかに周囲とのコミュニケーションが増えていきます。
そんな時、株価の変動が大きくなるにつれ、周囲の目線はどんどん短期的になります。一喜一憂の周囲の声が大きくなっていきます。
たとえば、「今日のリバウンドでしっかり取れたのか」などと1日に数度聞かれることもあります。これが繰り返されると、売買行動がどうしても投機的になっていく傾向になります。「今のポジションでじっと我慢するのが最良」という投資判断のもと、売買行動をしないで嵐に耐えていると、「さぼっている」と見られてしまうことすらあります。
周囲の声に惑わされることなく、お預かりしている資産を守るのが使命ですので、このような時、ファンドマネージャーにとっていかにストレスをためないかが大切になってきます。
対して個人投資家は、周囲にあれこれ言われることも、他者と比較されることも少ないため、「これからどうするか」に意識を集中しやすいのではないかと思います。
ショック時に大切なストレスマネジメント
気持ちは熱くても良いですが、投資判断をする時は、冷静でいる方が好ましいということは言うまでもありません。冷静な投資判断ができるよう、つまりは慌てることが少なくなるよう、資産運用にストレスマネジメントの観点を取れ入れることは、特にショックと言えるような大きな変動があった場合に役立つかもしれません。
ストレスマネジメントのコツ1. ショックは年中行事と認識する
恐怖指数のところで見た通り、1年に1回くらいは何かしらの「〇〇ショック」が起きます。日ごろより「ショックは年中行事」だと念頭に置くことが大切です。同じショックでも、心構えがあるかないかでストレスの負荷は変わってきます。
ストレスマネジメントのコツ2. 余裕資金ではなく許容資金の範囲で運用する
慌てることを少なくするためには、追い込まれないことが大切です。「投資はあくまで当面の生活に支障のない余裕資金の範囲で」と言われるのもそのためです。
なお、「余裕資金」と「万が一全額失っても我慢できる資金(許容資金)」とは必ずしも一致しません。富裕層の人でたくさんの余裕資金があっても、「びた一文、損がでるのは我慢できない」という方もいらっしゃいます。そのため、「余裕資金」と「許容資金」で金額の小さい方が投資資金と捉えるべきと考えます。
もちろん、運用の経験を積んでいくうちに打たれ強くなっていくものなので、我慢できる金額規模は徐々に上がっていきます。
ストレスマネジメントのコツ3. 深く考えすぎない
実際にはなかなか難しいのは百も承知ですが、大きな下落があった時、深く考えすぎないことです。当然、「これからどう対応するか」は考えなくてはいけません。しかし、考え続けているうちに「・・・しておけば良かった」という後悔の念が思考の大半を占めるようになったあたりで、株価のことはいったん忘れてください。
ストレスマネジメントのコツ4. 外を出歩く
株価のことをいったん忘れる時は、外に出てみてください。金融情報ばかりに接しているとこの世の終わりのように思えていても、外はけっこう平和です。
私はこのような時こそ、意識的に銘柄発掘のために企業訪問を増やすようにしていました。不思議と、その後のファンドの成績に貢献してくれる銘柄に巡りあうものでした。
個人投資家にはなかなか企業訪問の機会はないかもしれませんが、個人投資家も参加できるIRイベントに参加してみるのもよし、気になっている銘柄が運営している店舗に行ってみるのもよし、お出かけすることで、ストレスを溜めこまないだけでなく、今後の投資のヒントが得られるかもしれません。
【2016年2月17日 藤野 敬太】
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