この記事の読みどころ
世界の金融市場が下落する中、金価格の着実な上昇相場が続いています。直近では1年ぶりの高値を付けました。
今回の金価格上昇は、逆相関関係にある米ドルの独歩安によるものと考えられます。これは、追加利上げの見送りを示唆しているのでしょうか。
リーマンショック発生の約3年前から金価格は妙に高騰し始めました。過去の教訓に学ぶことを今一度肝に銘じたいと思います。
米国の利上げを契機に世界の金融市場が大混乱
2016年に入って以降、全世界の株式市場が大きく下落しています。安くなっているのは株式だけでなく、原油価格や米ドルも下落基調が続いています。
こうした資産価格の下落の始まりは、2015年12月16日(現地時間)に実施された米国の利上げに辿り着きます。やはり、米国の利上げ実施は、想定以上に大きな影響をもたらしていると言えましょう。
金価格のみ上昇、利上げ実施から最大+17%高
そのような中、債券を除き、唯一上昇している資産が金(ゴールド)です。海外での金価格(ドル建て)は、米国の利上げ実施以降の上昇率が最大で+17%超となっています。2月11日には約7か月ぶりに1,200ドル(1トロイオンス当たり、以下同)を超え、終値は約1年ぶりの高値となる1,241ドルとなりました。
金価格はその後、株式市場が反発したことなどから、やや下げて足踏み状態にあります。それでも、依然1,200ドルを維持しており、底堅さを示していると言えましょう。なお、国内での金価格(円建て)は、円高の影響により最大+8%に止まっています。
円建て価格は三菱マテリアルの公表する小売価格(消費税抜き)
金には「通貨」と「投資資産」の2つの位置付けがある
ここで、金の特徴を簡単におさらいしておきましょう。金には2つの位置付けがあります。1つは「通貨」、もう1つは「投資資産」です。
古代ローマ時代から1971年に起きた“ニクソンショック”まで、金は名実ともに通貨としての役割を果たしていました。これを「金本位制度」と言います。1971年に金本位制度は終焉を迎えましたが、現在も実質的には通貨の役割を担っています。
投資資産としての金の特徴、メリットとデメリット
“ニクソンショック”以降、投資資産としての価値が注目され今日に至っています。投資資産としての金の特徴は、1)価格は米ドルと逆相関の関係にある、2)世界が暗い時代(戦争、テロ、大不況等)になると上昇、の2点です。
これらの特徴は、常に当てはまるとは限りませんが、概ねこのような動きをします。また、最大のメリットはインフレに強いことであり、最大のデメリットは金利が付かないことです。そして、実物資産の金は、決して“紙屑”にならないということが重要です。
利上げ実施は大きな逆風、それなのに金が上昇しているのはなぜ?
さて、昨年12月に米国で利上げが実施され、なおかつ、2016年も複数回数の利上げが予定されている現在の市場環境は、金にとって大きな逆風です。金価格が上昇する相場環境ではありません。
しかし、実際には堅調に上昇しています。と言うことは、最大のデメリット(金利が付かない)を上回る要因があると考えるのが自然です。
世界の治安情勢悪化が最大要因とは考え難い
世界の治安情勢が悪化しているのでしょうか? 確かに、昨年11月にパリで起きた連続テロ事件を始め、悲惨なテロ事件が相次いでいます。また、シリア情勢の混迷化、北朝鮮のミサイル発射等の国際紛争激化を予感させる事案も少なくありません。
これらが金価格を押し上げている一因であることは否定しません。しかし、いずれも前々からの懸案事項であり、新たに始まったものではありません。
米ドル安が暗示するのは、追加利上げの見送りの可能性か
むしろ、米ドルとの逆相関関係に注目したいと思います。FRBの利上げ実施にもかかわらず、米ドルは独歩安に近い動きを強めています(その結果、円高になっています)。やはり、今回の金価格上昇は、米ドルの独歩安によるものと考えられます。
そして、その米ドル安が米国経済の腰折れ懸念を暗示しているならば、2016年に予定されている追加利上げが見送られる可能性もあるでしょう。今回の金価格の上昇は、それに見事に合致しています。
リーマンショック時の教訓を思い起こす必要性
実は、米国経済が“腰折れ”する程度なら、まだ良いほうかもしれません。振り返って見ると、リーマンショックが起きた2008年秋の3年くらい前から金価格は妙に高騰し始めていました。当時、米国経済を心配する向きは、ごく少数派でした。
そのリーマンショックから早7年以上が経過し、人々の記憶も薄れています。過去の教訓を生かすためにも、金価格の動向に注視したいと思います。
【2016年2月18日 投信1編集部】
■参考記事■
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LIMO編集部