高齢者の金融リテラシーの課題は経験値ではなく判断能力の低下

金融リテラシーをお金に関する「生活力」と考えると、年齢を重ねるにしたがってその経験も増えることになり、金融リテラシーは向上するといえます。この点は、金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査」(2016年)が報告している「年代が高いほど金融リテラシークイズの得点が上がる」ことでも裏付けられています(『金利に対する理解力の弱さが目立つ高齢者~金融リテラシークイズの結果から』を参照)。

ただ高齢者だけを念頭におくと、「年齢が高いから金融リテラシーが高い」と言い切れない点も出てきます。判断能力の低下といった高齢者特有の課題が出てくるためです。こうした課題に関して、金融庁の金融審議会市場ワーキンググループでも議論されました。

金融リテラシーに関する自信過剰は金融詐欺被害の可能性を高める

フィデリティ退職・投資教育研究所が2018年12月に実施した65-79歳1万1,960人に対するアンケート調査では、金融詐欺にあったかどうかに関する設問も用意しました。結果は、全体で金融詐欺にあったと回答した人は4.6%に上りました。かなり高い水準ではないかと思っています。

しかし、実態はもう少し懸念すべき状況でした。同様に「知人が金融詐欺にあったと聞いたことがあるか」と尋ねたところ10.6%の方があると答えています。「自分は金融詐欺にあっていないが、友人はあっている」と答えているわけで、実際にはもっと被害率は高いのかもしれません。

保有金融資産が多いと金融詐欺に狙われやすいのではないかとも思い、クロス分析をしてみました。金融資産が7,000万円を超えると若干被害率は上がっていますが、全体を通じて金融資産が多くなるほど金融詐欺被害率が高まるという関係は見出せませんでした。

それよりも注目すべきは、自分自身では「金融知識が高い」と判断しているものの、実際の金融リテラシークイズの点数が低い人、すなわち金融リテラシーに対して自信過剰な人は金融詐欺被害率が高かったという点です(下の表を参照)。

「同世代の人と比べて自分は金融知識が高い」と判断しているのに、金融リテラシークイズの得点が0-40点と全体平均の56.3点よりも低かった人を「金融リテラシーの自信過剰な人」と定義しました。今回のアンケートでは、こうした人が1,633人、全体の13.7%にも達しており、「65歳の7人に1人は金融リテラシーに自信過剰」ということができます。

そうした自信過剰な人の金融詐欺被害率は他のセグメントと比べて6.7%と非常に高いこともわかりました。単純に金融リテラシーが高いか低いかという点ではなく、その水準を理解しているかどうかの方が、高齢者にとって実際には大切なように思われます。

高齢者の金融リテラシーと金融詐欺被害(単位:%)

出所:フィデリティ退職・投資教育研究所、高齢者の金融リテラシー調査(2018年12月実施)
注:金融リテラシークイズの得点は、金融広報中央委員会 金融リテラシー調査2016の金融リテラシークイズをそのまま活用して設問とし正解の点数を算出している。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史