3. 40年間勤務、平均給与30万円の場合「基本額」はいくらもらえる?
遺族厚生年金の基本額は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3で算出されます。報酬比例部分は、加入期間と平均給与によって決まる仕組みです。
平均給与30万円で40年間加入していた場合
- 報酬比例部分:約80万円
- 遺族厚生年金の基本額:約60万円
が目安となります。
【加入期間が短い場合の「みなし300月」特例】
在職中の死亡など一定の要件(受給要件の1〜3)を満たす場合は、厚生年金の加入期間が25年未満(300月未満)であっても、一律で300月加入していたものとみなして計算されます。
これにより、若くして亡くなられた場合でも一定水準の年金額が確保される設計になっています。
4. 遺族厚生年金受給額が変わる3つのポイント
遺族厚生年金は基本額が同じでも、実際の受給額は次の要素で変わります。
- ① 遺族の年齢
- ② 子どもの有無
- ③ 自身の老齢年金の有無
5. 遺族厚生年金の受給額の比較
5.1 遺族が65歳未満の場合:子どもの有無と年齢で差が出る
遺族が65歳未満の場合、子供の有無とご自身の年齢によって受給額が異なります。子どもがいる場合は、遺族厚生年金に加えて遺族基礎年金も加算されます。
例えば、子どもが2人いて配偶者が30代前半の場合、84万7300円 + 24万3800円 × 2 = 133万4900円が基礎年金の額になります。
子どもがいない場合は遺族基礎年金は支給されません。ただし、残された遺族が「40歳以上65歳未満の妻(女性)」である場合は、年額63万5500円(令和6年度ベース)が基本額に加算されます。これを「中高齢寡婦加算」と呼びます。
※この中高齢寡婦加算は「妻(女性)」に限定された制度です。残された遺族が夫(男性)である場合は、子どもがいない受給においてこの加算は適用されませんのでご注意ください。
5.2 遺族が65歳以上の場合:老齢厚生年金の支給額で差が出る
65歳になると、遺族自身が納めてきた年金をもとに「老齢年金」の受給が始まります。ここから支給のルールが少し複雑になります。
65歳以上で、自身の老齢厚生年金を受け取る権利がある配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合、まずは以下の2つの計算式を比較して「高い方の額」が遺族厚生年金の額として設定されます。
65歳以上の遺族厚生年金の計算ルート(どちらか高い方)
① 亡くなった方の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3 (=基本額の60万円)
② 亡くなった方の老齢厚生年金の2分の1 + 自身の老齢厚生年金の2分の1
そして実際の支給にあたっては、「自身の老齢厚生年金が全額支給」され、遺族厚生年金からは自身の老齢厚生年金に相当する額が差し引かれます(支給停止)。
実際の遺族厚生年金支給額 = (①または②の高い方の額) - 自身の老齢厚生年金額
具体的な2つのパターンで見てみましょう。
パターンA:ご自身も働いていて、老齢厚生年金が「20万円」ある場合
亡くなった方の報酬比例部分が80万円(基本額60万円)、ご自身の老齢厚生年金が20万円の場合で計算します。
2つの式を比較
① 80万円 × 3/4 = 60万円
②(80万円 × 1/2)+(20万円 × 1/2)= 40万円 + 10万円 = 50万円
◆高い方である「① 60万円」が基準に選ばれます。
実際の支給額を計算
60万円(基準額)- 20万円(自身の老齢厚生年金)= 20万円
結果として、遺族厚生年金からは20万円が支給されます。ご自身の老齢厚生年金(20万円)と合わせると、厚生年金部分のトータル受給額は60万円となります。
パターンB:遺族が専業主婦(夫)で、自身の老齢厚生年金が「0円」の場合
ご自身の老齢厚生年金の受給がない(0円)場合は以下のようになります。
2つの式を比較
① 80万円 × 3/4 = 60万円
②(80万円 × 1/2)+(0円 × 1/2)= 40万円
◆高い方である「① 60万円」が基準に選ばれます。
実際の支給額を計算
60万円(基準額)- 0円(自身の老齢厚生年金)= 60万円
自身の老齢厚生年金による差し引きがないため、遺族厚生年金の基本額(60万円)の全額をそのまま受け取ることができます。
※なお、ご自身の老齢厚生年金が非常に高く、①や②の基準額を上回る場合は、遺族厚生年金側の支給は「0円」となり、ご自身の老齢厚生年金のみを受け取る形になります。また、いずれのパターンでも「老齢基礎年金(国民年金)」は減額されずに全額受給できます。
6. まとめ:遺族厚生年金は年齢と条件で受給額が異なる
遺族厚生年金は、「亡くなった方の給与や加入期間」だけでなく、「受け取る遺族の年齢」「子どもの有無」「自分自身の年金実績」という3つの要素が絡み合って最終的な受給額が決まります。
特に対象者が65歳になったタイミングで、自身の老齢厚生年金との「もらい方の調整(併給調整)」が入る点は大きなポイントです。
なお、社会情勢や働き方の変化に合わせ、2028年4月から遺族年金制度の大幅な見直しが順次施行されることが決まっています。
男女差の解消や就労促進の観点から、「子どもがいない配偶者」への給付が見直されますが、対象となる年齢条件は男女で異なります。
- 男性(夫)の場合:18歳年度末までの子どもがいない「60歳未満」の方が、新たに5年間の有期給付の対象になります。
- 女性(妻)の場合:18歳年度末までの子どもがいない、「2028年度末時点で40歳未満」の方が原則5年間の有期給付の対象になります。
妻(女性)の場合、2028年度末時点で40歳以上であれば現行の制度が適用されるため、この見直しの影響は受けません。また、既に受給している方も対象外です。有期給付の対象者には、期間中の年金額が約1.3倍になるなどの負担軽減措置も用意されています。
これから現役世代としてライフプランを立てる際には、こうした最新の法改正の動向もあわせて押さえておくことが大切です。制度の全体像や今後の動きを正しく把握し、万が一のときに備えた生活設計や保障のシミュレーションに役立ててください。
万が一の事態は誰もが考えたくないものですが、遺族年金はのこされた家族の暮らしを支える非常に心強い公的サポートになります。
もしもの時にも大切な家族が今の生活を維持できるよう、制度の仕組みをあらかじめ正しく理解し、将来の暮らしを想定しておくことが大切です。
また2028年度からは遺族厚生年金の見直しが行われます。新たに対象となる男性は4月から、女性は20年かけて段階的に実施されます。「5年の有期給付」「5年で打ち切り」というところだけ切り取ると不利になるのでは?と思ってしまうかもしれません。
しかし、子どもがいる場合は増額、老後には死亡分割で増額など全体でバランスがとられています。ライフスタイル、ワークスタイルが多様化するなか、私たちを取り巻く環境や制度もどんどん変わっていきます。制度やルールなどを確認しておきましょう。
参考資料
苛原 寛



