以前のコラムで日本がだんだん貧乏になってきているという話を書きましたが(『日本人が貧しくなったワケ。もうアジアでもトップではない…』)、今回はミクロの視点で日本企業が解決しなければならない点を考えてみます。
友人が経営者含みでヘッドハントされたが・・・
食品メーカーに勤務する旧知の友人(A君)が、同業界の某上場企業(B社)にヘッドハントされました。本人は業界経験も長く、業界では食品流通のプロとして知る人ぞ知る人物です。友人もそろそろ転機と考え、B社との面談に臨みました。
B社はオーナー企業ですが、すでに経営と資本は分離しており、株主もオーナー家族はおらず、その元会長も役員ではありません。しかし、創業家直系の元会長ですので、社内では隠然とした力を持っており、役員人事や経営方針の決定は元会長の承認がないと進まない体質の典型的な日本企業です。
A君の面談相手は元会長と人事部長でした。この状況では、元会長がOKと言えば即決で合格です。面談ではいろいろ聞かれたようですが、元会長が関心を持っていたのは、A君がこれまで行ってきたマーケティング手法です。
A君は、既存メディアやSNSを駆使してかなりアグレッシブな手法で販促に成功し、売り上げを4倍増にした経験を話し、B社でも同じ手法で業容拡大に貢献できると力説したそうです。元会長は腕組みをしたまま、天井を見上げていたらしいですが。
結局、A君は不合格でした。A君によれば、彼のアグレッシブなマーケティング手法が元会長の琴線に触れなかったのではないかとのことでした。他の候補者と比較されたかもしれませんが、80歳近い元会長が2時間近い面談を何回もこなすのは難しいでしょうから、また決め打ちで候補者を探すのかもしれません。
残念な結果ではありましたが、B社に行かなくてよかったと思います。入社しても元会長が活躍中は院政が続きそうですし、経営者含みといっても何の確約もありません。加えて、A君のマーケティング手法が否定されているわけですからA君はB社で活躍することはできなかったでしょう。
結局、B社の元会長は新しい人材や戦略を導入したかったけれども、結果的には結論を先延ばししたにすぎなかったと言えるでしょう。
ほとんどの企業が後継者不足で悩んでいる
上場企業でも非上場企業でも、あらゆる企業は当初個人が設立します。三菱でも三井でも、あらゆる企業はもともとオーナー企業ですね。業容が拡大し、組織が大きくなって業歴が長くなりオーナー企業から脱却を図ったとしても、その企業は必ず後継者問題に直面します。
帝国データバンクの「全国「後継者不在企業」動向調査(2018年)」によれば、全国約27万6千社のうち66.4%の企業が「後継者不在」となっており、企業の存続に大きな影響を与えています。
どんな実力経営者でもいつかは寿命が来ますので、その企業の存続を願うなら、早めに後継者なり後継部隊を作っておかなければなりません。大企業はその準備が綿々と続いて、経営者候補が若いころから選抜される仕組みになっていますし、企業規模が大きければ大きいほど社員数も多いので、将来経営を任せられるような人材が存在する可能性は高いのでしょうね(頭数という意味で)。
一方、B社のようなオーナー企業は上場企業でもいまだに数多く、同族で後継者がいない場合は存続が危うくなってきます。B社の事例でもそうなのですが、ご高齢の元会長さんが“お元気”ですと、周りもどんどん高齢化して気づいた時には、次世代を担う若手が育っていないという現実に直面します。
若手は、「上はオジンばっか」と不平不満でいっぱいです。B社は後継者を外部人材に託すことに切り替えましたが、これは社内に経営者人材がいないと言っているようなものですので、心ある社員はやる気をなくすでしょう。
私見ですが、日本ではこうした“新ゾンビ企業”がどんどん増えていっているのではないかと想像します。従来のゾンビ企業は、本来業績不振で潰れて淘汰されるべき企業が、潰れられては困る金融機関の追い貸し等によって存命している企業です。
一方、“新ゾンビ企業”は、戦後の高度経済成長の波に乗り業容を拡大し、内部留保もそれなりにあるものの、経営陣が高齢で後継者不在、将来性が乏しくなんとなく存続している企業です。二代目、三代目までは同族で何とかきたが、それ以降が白紙・・・そんなイメージです。
なんとなく今まではやれてきたが将来ジリ貧な“新ゾンビ企業”が存続する道は、他社との合併か大手傘下に入るか、はたまた解散かというイバラの道しかありません。