リスクがないわけではありませんが、赤字転落は、かなり先のことだと思われます。現在の経常収支黒字は大幅ですから、輸出が2割以上減っても大丈夫だ、ということもありますが、今ひとつ重要なことは、海外での工場建設、すなわち海外直接投資が増えるということです。

これまでの日本は、海外から稼いだ外貨で主に米国債を購入していましたが、最近では直接投資で海外に工場を建てるようになっています。そして、直接投資の方が米国債投資よりも収益率の期待値が高いのです。

直接投資は儲かるか損するか分かりませんから、投資する際には慎重になります。つまり、証券投資と期待値が同じならば、その投資案件は実行されないわけです。これを逆から考えれば、実行された投資案件は、利益率の期待値が証券投資より高いはずだ、ということになります。

実際、近年の国際収支関連統計を見ても、「直接投資収益を直接投資残高で割った値」は「証券投資収益を証券投資残高で割った値」よりも高くなっています。

それに加えて、海外に工場を建てると、海外の子会社から本社に「知的財産権等使用料(特許権使用料等)」が支払われます。これも、金額的には相当大きなものです。

したがって、今後は輸出が減る一方で、直接投資収益と特許料等の収入が増えるので、経常収支は簡単には赤字にならない、と考えて良いでしょう。

経常収支が赤字に転落しても大丈夫

将来、経常収支が赤字に転落して、日本政府の借金が国内でファイナンスできなくなったら、つまり政府が外国から借金をしなければならなくなったら大変です。しかし、そうしたことにはなりそうもありません。

経常収支が赤字になっても、日本は巨額の対外純資産を持っているので、それを取り崩していけば良いのです。

さらには、経常収支が赤字になると為替レートが円安になるため、輸出企業の採算が向上します。そうなると、「高い給料で労働者を雇っても儲かるから、大幅に賃上げをして他の産業から労働力を奪ってこよう」という輸出企業が増えるでしょう。

その結果、輸出企業の生産が増え、輸出が増え、経常収支の赤字は短期間で解消することになるかもしれませんね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから>>

塚崎 公義