キャッシュバックのある投資信託が登場! ただし米国の話

マイナス金利については、一度は聞いたことがあるという読者の方は多いと思います。銀行に預金をすると金利がもらえるのではなく、金利を払わなければならないアレです。もっとも、日本においては個人の預金者にはわずかながら金利が付きますので、厳密にはマイナス金利とは言えません。

ところが、各銀行が余った資金を日本銀行に預ける際はマイナス0.1%、つまり元本から0.1%差し引かれるマイナス金利が適用されますので、企業や金融機関の大口資金の預金は、この各銀行のマイナス分を補うためにマイナス金利が適用されています。

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ということで、今の日本は大口預金者であればあるほど損をする、変な国になっています。

一方、米国では、投資信託を買うと信託報酬の一部が運用会社からキャッシュバックされるという、粋なサービスが始まりました。いったいどんな仕組みになっているのでしょう。

信託報酬率がゼロ%の投資信託が出た米国

投資信託は、一般投資家の資金を集めて合同運用する金融商品ですが、この仕組みを維持するために信託報酬という費用がかかります。信託報酬の内訳は、運用会社の運用管理費用、運用資産を分別管理している信託銀行の受託者報酬となり、運用会社は運用管理費用の半分程度を販売会社に支払います。

投資信託の運用報酬の水準は通常年率0.1%台から2.0%程度まで様々ですが、この料率が高ければ高いほど運用会社(または販売会社)の収益は上がりますし、低ければ低いほど儲かりません。

つまり、信託報酬率をゼロ%にするということは、運用会社はその投資信託を運用することにおいてはタダ働きということです。

長々と説明しましたが、昨年8月、米国で初めて信託報酬率がゼロ%の投資信託が設定されました。

米国フィデリティ・インベストメンツ(以下、フィデリティ)が運用する「フィデリティ・ゼロ・トータル・マーケット・インデックス・ファンド」がその投資信託で、文字通り信託報酬率はゼロ%のインデックス・ファンドです。

市場インデックスに運用成績を連動させるインデックス・ファンドは、これまでもなるべく低い信託報酬率で運用されてきましたが、さすがにゼロ%のファンドは存在していませんでした。

フィデリティのこの信託報酬率ゼロ%投資信託は業界初めての設定ながら、運用コスト・ゼロ%が効いたのか、米国では設定以来1年足らずで早くも6000億円くらいの規模になっています※1

※1 ちなみに、日本ではこのファンドは買えません。残念!

信託報酬率がマイナス%の投資信託もデビュー

まず、信託報酬率がマイナス%の意味を整理しましょう。上記の「信託報酬率がゼロ%の投資信託」は、文字通り投資家が運用コストを払わなくてもよい投資信託です。

一方、「信託報酬率がマイナス%の投資信託」は、一言でいうと、運用会社がある一定の信託報酬を投資家に還元してくれる仕組みの投資信託です。

この投資信託を設定したのは、米国のソルト・フィナンシャル(Salt Financial)という運用会社です。実際に設定した投資信託は「ソルト・ロー・トゥルー・米国株ETF」という上場投資信託(ETF)です。上場投信ですので証券口座を保有している投資家であればだれでも購入可能※2です。

※2 前段で紹介したフィデリティ・ゼロは、米国フィデリティ証券に口座を保有する投資家でないと買えません。

具体的には、このソルトETFは運用残高が1億ドル(約110億円)になるまで、投資家には5ベーシス・ポイント(0.05%)を還元されます。もっともこのサービスは2020年5月までの期間限定モノです。

金額で考えると、1万円投資して5円のキャッシュバックがあるイメージですね。

ソルト社は、このETFの純資産総額が100億円に達するまで、総額500万円のキャッシュバックを負担するわけですが、このETFが話題になって設定金額が早々に100億円をこえてくれば、通常通り年0.29%の信託報酬を課す仕組みです。

業界関係者としては話題作りとして成功すれば、2900万円の収益(100億円×0.29%)に対し、500万円の費用(100億円×0.05%)はマーケティングコストとしては割安だという感じなのでしょうね。

信託報酬の引き下げ競争は終わらず

さて、フィデリティ・ゼロにしてもソルトETFにしても話題先行の感はありますが、米国において信託報酬の引き下げ競争は熾烈を極めています。

最も信託報酬率が低いインデックス・ファンドは、シュワブS&P500かフィデリティ500インデックス・ファンドで、双方年0.02%です。ETFだと、期間限定ではこのソルトETF(マイナス0.05%=投資家は買うだけで0.05%もらえる)か、JPモルガン・ベータビルダーの年0.02%となります。

おそく日本でも、投資信託の信託報酬の引き下げがどんどん進んでくるでしょう。資産運用のネット化が進み、預金金利がほとんどつかないかマイナス金利の環境であれば、販売手数料や信託報酬率が割高な投資信託は投資家からそっぽを向かれるのは必至です。

それにしても米国のソルト社、業界ではさほど有名ではないのに、信託報酬率をマイナスにするということで業界の先駆者となりました。このETFを生み出すにあたっては、社内でいろいろ議論があったことでしょう。でも最後はソルト(Salt)だけに、手塩にかけた投資信託を生み出したかったのかと・・・。

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太田 創

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太田 創

関西学院大学卒。1985年、三菱銀行入行。1988年より約10年間、ロンドンおよびサンパウロで資金為替・デリバティブ等の運用、投資信託の管理業務に携わる。
その後、2000年からシティグループ(米)、UBS(スイス)、フィデリティ(米)、GCIアセット・マネジメントにおいて投資信託のマーケティング・商品企画を統括。
主要な著書には、『ETF投資入門 』(日経BP 2008年)、『お金持ち入門』(実業之日本社 2015年 共著)、『毎月3万円で3000万円の「プライベート年金」をつくる 米国つみたて投資』(かんき出版 2019年)などがある。