マーケットサマリー

インド株式市場は2019年2月下旬から上昇傾向にある。債券市場は4月に下落(利回りは上昇)したもののも5月には上昇(利回りは低下)に転じた。4月から5月に実施された総選挙では、モディ政権続投への期待感が高まり、5月23日の一斉開票の結果、与党インド人民党(BJP)が圧勝し、モディ首相の再選が決定した。市場はこの選挙結果を好感している。

トピックス

与党圧勝でモディ政権の基盤強化、不透明感後退

インドの下院総選挙は、ナレンドラ・モディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)の独り勝ちで終わり、モディ政権2期目(2024年までの5年間)の政権基盤は一層強固になった。BJPは前回2014年総選挙で30年ぶりとなる単独過半数を獲得したが、今回はそれを上回る歴史的な勝利を収めた。BJPの2期連続勝利は、政策の継続、5年前のモディ政権発足以降に打ち出された数々の改革推進への期待を高めている。

インド下院総選挙の投票は、4月11日から5月19日まで6週間にわたり7回に分けて行われた。最後の投票後に発表された出口調査は、ほぼ例外なく与党インド人民党(BJP)の優勢を伝えていた。それでも与党の圧勝を示唆するものではなかった。

インド株式市場では、出口調査によってBJPに有利な状況が判明すると株価が上昇した。株価は、選挙結果の発表後に一時的に高騰したものの、その後は冷静さを取り戻し、落ち着いた展開となった。

BJPが地滑り的勝利を収めた要因としては、①強いリーダーを求める傾向、②野党の足並みの乱れ、③パキスタンとの軍事的緊張による国防への関心、 ④ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)、ヘルスケア、衛生、インフラ整備等の分野における政策推進への期待、などが考えられる。

選挙前には、農村部の困窮、雇用の低迷、高額紙幣廃止および物品サービス税(GST)の導入に伴う短期的な混乱が選挙結果に影響をもたらすと指摘されていたが、実際には有権者の投票行動には影響を及ぼさなかった模様である。

今回の総選挙では、約9億人の有権者のうち6億人以上が投票した。投票結果からは、BJPが支持基盤を拡大・深化させたことがうかがえる。例えば支持基盤の地域的広がりは、伝統的な牙城であるインドの中央部・西部から東部にまで及んでいる。

モディ政権の10年:2期目(2024年までの5年間)に期待すべきことは何か

ここ数ヶ月間、景気指標の一部が軟調となり、景気減速への懸念が出ている。2018年に起きたノンバンク金融事業会社(NBFC)の経営破綻が引き金となった流動性収縮などを背景に、足元の消費は鈍化している。

政府には景気刺激策を打ち出す財政的余裕はあるだろうか。これについては、税収が政府見通しを大きく下回っているため、疑問が持たれている。

また、インド準備銀行(中央銀行)は4月の金融政策委員会で2会合連続となる利下げを行った。2月の利下げに続くものだが、金融政策の効果波及は引き続き遅い。原油価格上昇と平年を下回る恐れのあるモンスーン期(6月~9月)の降雨量も景況感にマイナスの影響を及ぼす懸念がある。

しかしながら、総選挙で与党が圧勝したことで、モディ政権は強力な支持基盤をテコに、インド経済が抱える様々な問題に積極的に取り組むことが可能となった。

モディ政権は、7月に発表予定の2019/2020年度(2019年4月-2020年3月)本予算では、財政規律を堅持し、財政健全化に引き続き取り組む方針を明らかにすると予想される。しかし、インド経済の現況を考えると、政府は景気のてこ入れと需要回復を優先すべきと思われる。

政府がなすべきことは、農業従事者の所得向上、投資・景気循環の回復の後押し、貸出状況の改善、物品サービス税の微調整、直接税の簡素化、輸出促進、インフラ投資の拡大と多岐にわたる。

金融セクターの改革では、企業の破綻処理手続きの円滑化による銀行の不良債権削減の促進、国営銀行の統合や民営化が主要課題となるだろう。

さらに、中央銀行による超過準備金の国庫納付が考えられる。これが実現すると、政府はこの資金を国営銀行の資本再編とインフラプロジェクトに充てることができる。これに関しては、中央銀行が維持する準備金の適正水準を検討する委員会(座長はビマル・ジャラン元インド準備銀行総裁)が6月までに報告書をまとめることになっている。

厳しい財政状況、景気減速がさほど深刻ではないこと(国際通貨基金 [IMF]、アジア開発銀行、インド準備銀行の2019/2020年度 [2019年4月-2020年3月] 成長率予測はいずれも7%台)を考えると、直接的な景気刺激策が打ち出される可能性は低い。経済成長率は、総選挙に伴う不透明感が払拭され、しかも銀行セクターの流動性改善が期待される2019/2020年度下半期(2019年10月-2020年3月)に緩やかに上昇する可能性が高い。

インドは多くの社会改革の課題を抱えている。モディ政権は今回の総選挙で、複雑で困難な構造改革に弾みをもたらす政権基盤を確立した。とりわけ改革が急がれる土地取得や労働規制などが議題に上がる可能性が出てきた。

株式市場

株式市場は2月下旬から上昇続く

インド株式市場は2月下旬から上昇傾向にある(2019年5月29日現在)。4月から5月にかけて実施された総選挙では、モディ政権続投への期待感が高まり、実際に5月23日の一斉開票の結果、モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)が単独過半数の議席を確保し、モディ首相が再選された。市場は選挙結果を歓迎。

当社の株式運用戦略

当社ではインド株式市場に対する強気な見方を維持している。インド経済は着実に成長しており、構造改革の進展から、成長率はさらに加速すると見られている。また、景気拡大に伴い企業収益が改善するなど、株式市場を取り巻く環境は良好と考えられる。総選挙でモディ政権続投が決まり、政治の不透明感が払拭されたことも好材料。

インド株式の運用では、持続的な収益成長性を有しながらバリュエーションに割安感のある銘柄を選別。業種別には金融、一般消費財をオーバーウェイトとし、エネルギー、生活必需品、ヘルスケアをアンダーウェイトとしている。また、モディ首相は第2次モディ政権の公約として、100兆ルピー(約160兆円)のインフラ投資計画(高速道路建設、都市住宅建設、水供給システム、地下鉄建設など)を発表しており、インフラ関連銘柄が恩恵を受けることが見込まれる。

債券市場

5月以降は上昇(利回りは低下)

インド国債市場は、4月には下落(利回りは上昇)したものの、5月には上昇(利回りは低下)に転じた(2019年5月29日現在)。モディ政権の続投で構造改革路線継続が見込めることは、債券市場にもプラスに働いている。

インド準備銀行(中央銀行)は金融政策のスタンスを「中立」としており、当面は経済指標をにらみながら様子見姿勢を続けることが見込まれる。中央銀行は本年2月および4月に政策金利を各々0.25%引き下げたが、2019/2020年度上半期(2019年4月-9月)中に追加利下げが行われると当社では見ている。早ければ6月の利下げの可能性もある。

当面は、本年7月に発表される2019/2020年度(2019年4月-2020年3月)予算案が注目される。

当社の債券運用戦略

インド債券市場は、グローバル投資家にとり良好な投資機会を提供していると見ている。インド経済はインフレ率を歴史的低水準に抑えながら高い成長を続けており、ファンダメンタルズは良好である。また、インド国債は投資適格級ながら、利回りは7%台の高水準にある点も注目される。

インド債券の運用においては、引き続きインドルピー建国債に重点を置いて投資している。また、この他、短中期のインドルピー建社債を選好している。一方、米ドル建債券には慎重な姿勢を維持する。

為替市場

インドルピーは4月以降弱含みで推移

インドルピーは2月から対米ドル、対円で上昇していたが、4月以降は弱含みで推移している(2019年5月29日現在)。

ルピー相場は、相対的に良好な経済ファンダメンタルズや潤沢な外貨準備高が支援材料になり、中長期的に堅調な展開が予想される。総選挙が終了し、政治の不透明感が払拭され、第2次モディ政権下で構造改革路線が継続する見通しとなったこともプラス要因。