この10年で大きく拡大した確定拠出年金制度

資産形成手段として非課税のメリットを最も享受できる確定拠出年金(DC)は、掛け金の上限引き上げや対象者の拡大などの改善が進んできたことから、過去10年で大きく拡大しています。

企業型の加入者は約2倍の690万人弱、個人型(iDeCo)では10倍以上の115万人が加入する制度になりました。特にiDeCoはその加入対象が第3号被保険者や公務員に拡大されたことが大きな一歩となりました。

ただ、国民年金の加入者6,700万人強が対象者となったことを考えると、まだまだ使っていない人が多くいることもわかります。そのため、掛け金上限のさらなる引き上げや加入上限年齢の引き上げなど、改善の余地は多くあるように思えます。

もう一段の改善で投資マインドの醸成も

もう一つの制度の改善方向は投資マインドの醸成だと思います。DCを資産形成の力とするためには元本確保型の資産だけでなく、投資信託などの有価証券を使った投資にも一歩踏みだす投資マインドを醸成することが大切です。

その一つとして、所得税の還付方法の見直しに注目しています。たとえば、5万円をiDeCoに拠出した場合、所得税率20%のサラリーマンなら課税所得が5万円少なくなることで所得税1万円が還付されます。

現在、この所得税の還付は指定した銀行口座に振り込まれるため、そのまま生活費に消えてしまいがちです。せっかくiDeCoを使って投資をしたのだから、この還付金もぜひ投資に回したいものです。

税還付をDC口座に

これを自動的に行う方法が英国にあります。政府が税の還付金を銀行口座ではなく、DC口座に振り込むことです。英国の場合、4万円を拠出するとグロスアップ計算した課税所得(税率20%とすると5万円)との差額である1万円を政府がDC口座に振り込んでくれます。

日英ともに、結果的にはDC口座に5万円が拠出されることになりますが、加入者の負担は日本が5万円に対し、英国は4万円です。もちろん日本は1万円分の還付金が銀行口座に振り込まれますから、最終的には同じなのですが、投資家目線としてみるとかなり違うはずです。英国では4万円を投資した時点で25%の投資収益率の上乗せがあったと感じられます。

日本でもマイナンバーを使えば、所得税還付先を銀行口座からDC口座に変えることは可能なはずです。その仕組みができれば5万円の拠出に対して1万円の還付、投資家目線で20%の投資収益率の上乗せが実感できるようになります。

「税優遇が貯蓄や消費」に回るのではなく、「税優遇が投資」に回る仕組みができれば、「貯蓄から資産形成へ」という政策にも合致しますし、DC加入者の投資家マインドの醸成にもつながるはずです。政府の負担を増やさず、DC制度の「税優遇」の魅力に磨きをかける“政府拠出”という考え方も有効だと思います。

もちろんこうした制度が導入されるまでは、それぞれの加入者が税還付を自ら資産形成に再投資することでできます。ちょっとした工夫が資産形成の心構えを変えることにつながりそうです。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史