2026年6月に入り、診療報酬の改定が施行されるなど、私たちの生活に関わる経済環境は変化を続けています。依然として物価上昇の動きも続くなか、特に年金生活を送る高齢者世帯にとって、老後資金の管理はより切実な課題となっています。

いわゆる「老後2000万円問題」をきっかけに、年金収入だけでは生活が難しいという認識は広まりました。しかし、実際の70歳代夫婦の家計は一様ではなく、資産状況には大きな格差が存在します。

十分な金融資産を持つ世帯もあれば、ほとんど保有していない世帯も少なくありません。多くの世帯では、年金収入で生活費をまかないきれず、貯蓄を取り崩して補っているのが実情です。

この記事では、公的なデータを基に、70歳代・二人以上世帯の貯蓄額の分布や家計収支の実態を詳しく見ていきます。あわせて、公的年金の受給水準についても具体的に解説します。

1. 70歳代・二人以上世帯の貯蓄事情|平均2416万円と中央値1178万円の格差とは

金融経済教育推進機構(J-FLEC)が公表した「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」を参考に、70歳代・二人以上世帯の金融資産保有状況を見ていきましょう。

※ここでいう金融資産は、預貯金のほかに株式、投資信託、保険商品などを含み、日常的な支払いに用いる普通預金残高は対象外です。

同調査によると、70歳代・二人以上世帯が保有する金融資産の平均額は2416万円です。ただし、平均値は一部の高額資産保有者に引き上げられる傾向があるため、より実態に近いとされる中央値の確認も重要です。

中央値は1178万円であり、多くの世帯がこの水準に近い資産状況にあると推測できます。

世帯ごとの貯蓄額の詳しい分布は以下の通りです。

  • 金融資産非保有:10.9%
  • 100万円未満:4.5%
  • 100~200万円未満:5.1%
  • 200~300万円未満:3.7%
  • 300~400万円未満:3.9%
  • 400~500万円未満:2.9%
  • 500~700万円未満:6.4%
  • 700~1000万円未満:6.7%
  • 1000~1500万円未満:11.1%
  • 1500~2000万円未満:6.7%
  • 2000~3000万円未満:12.3%
  • 3000万円以上:25.2%
  • 無回答:0.6%

貯蓄額の分布を見ると、金融資産が200万円に満たない世帯が合計で20.5%存在する一方で、3000万円以上を保有する世帯も25.2%にのぼり、老後の資産状況には明確な格差が見られます。

また、100万円未満から300万円未満といった比較的少額の層が一定数いる一方で、1000万円以上の資産を持つ世帯も広く分布しており、資産状況のばらつきが大きいことがうかがえます。

貯蓄水準は、退職金の有無、現役時代の収入、相続経験、健康状態など、多様な要因に影響されます。さらに、公的年金の受給額も加入期間や働き方によって個人差があるため、同年代であっても家計のゆとりは大きく異なります。

このような状況のなか、金融資産が限られている世帯では、年金収入だけで日々の生活費をまかなうのが困難なケースも少なくありません。

そのため、安定した老後を送るためには、個々の状況に合わせた計画的な家計管理が不可欠です。体力的に余裕があるうちにパートなどで収入を補ったり、不動産や金融商品を活用して副収入を得たりといった選択肢を早期に検討することが、将来の安心につながるでしょう。

2. 老後の収入源『厚生年金』の受給額はいくら?平均月額と分布を解説

次に、老後の収入の柱となる公的年金の受給額について確認します。

厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、民間企業の会社員などが受け取る厚生年金(第1号)の平均月額は以下の通りです。

厚生年金の受給状況2/7

厚生年金の受給状況

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

厚生年金の被保険者は第1号から第4号まで区分されていますが、ここでは民間企業などに勤務していた方が対象の「厚生年金保険(第1号)」(以下、記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。

※記事内で紹介する厚生年金保険(第1号)の年金月額には、基礎年金である国民年金部分も含まれています。

2.1 厚生年金の平均受給月額

  • 〈全体〉平均年金月額:15万289円
  • 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
  • 〈女性〉平均年金月額:11万1413円

厚生年金の平均受給月額は、全体で15万289円です。

受給額の分布を見ると、15万円から19万円台に多くの受給者が集中しており、10万円台後半から18万円台が最も多い層となっています。その一方で、10万円未満の層も一定数おり、受給額には個人差が大きいことがわかります。

2.2 厚生年金の月額別受給者数

  • ~1万円:4万3399人
  • 1万円以上~2万円未満:1万4137人
  • 2万円以上~3万円未満:3万5397人
  • 3万円以上~4万円未満:6万8210人
  • 4万円以上~5万円未満:7万6692人
  • 5万円以上~6万円未満:10万8447人
  • 6万円以上~7万円未満:31万5106人
  • 7万円以上~8万円未満:57万8950人
  • 8万円以上~9万円未満:80万2179人
  • 9万円以上~10万円未満:101万1457人
  • 10万円以上~11万円未満:111万2828人
  • 11万円以上~12万円未満:107万1485人
  • 12万円以上~13万円未満:97万9155人
  • 13万円以上~14万円未満:92万3506人
  • 14万円以上~15万円未満:92万9264人
  • 15万円以上~16万円未満:96万5035人
  • 16万円以上~17万円未満:100万1322人
  • 17万円以上~18万円未満:103万1951人
  • 18万円以上~19万円未満:102万6888人
  • 19万円以上~20万円未満:96万2615人
  • 20万円以上~21万円未満:85万3591人
  • 21万円以上~22万円未満:70万4633人
  • 22万円以上~23万円未満:52万3958人
  • 23万円以上~24万円未満:35万4人
  • 24万円以上~25万円未満:23万211人
  • 25万円以上~26万円未満:15万796人
  • 26万円以上~27万円未満:9万4667人
  • 27万円以上~28万円未満:5万5083人
  • 28万円以上~29万円未満:3万289人
  • 29万円以上~30万円未満:1万5158人
  • 30万円以上~:1万9283人

3. 国民年金(老齢基礎年金)の受給額はいくら?平均月額と分布

厚生年金への加入経験がなく、国民年金(老齢基礎年金)のみを受給する場合の平均月額はどのくらいなのでしょうか。厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」を基に見ていきます。

国民年金の受給状況3/7

国民年金の受給状況

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

3.1 国民年金の平均受給月額

  • 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
  • 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
  • 〈女性〉平均年金月額:5万7582円

3.2 国民年金の月額別受給者数

  • 1万円未満:5万1828人
  • 1万円以上~2万円未満:21万3583人
  • 2万円以上~3万円未満:68万4559人
  • 3万円以上~4万円未満:206万1539人
  • 4万円以上~5万円未満:388万83人
  • 5万円以上~6万円未満:641万228人
  • 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
  • 7万円以上~:299万7738人

国民年金の平均月額は全体で5万9310円、男女別では男性が6万1595円、女性が5万7582円です。

受給額の分布を見ると、5万円台から6万円台が中心となっており、満額に近い水準で受給している人が多いことがわかります。一方で、保険料の納付期間が短い場合は、受給額がさらに低くなることもあります。

仮に、夫が「厚生年金の男性平均月額」を受給し、妻が「国民年金の女性平均月額」を受給する夫婦世帯の場合、世帯の年金収入は月額でおよそ22万7000円がひとつの目安となります。

ただし、実際には夫婦ともに厚生年金を受給する世帯や、双方が国民年金のみの世帯など、その組み合わせは多岐にわたります。

この年金収入で、実際の生活費をどの程度まかなえるのでしょうか。次に家計収支の実態を見ていきます。

4. 高齢夫婦世帯のリアルな生活費|収入と支出・税金の内訳を公開

総務省統計局が公表した「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、65歳以上の夫婦のみで構成される無職世帯の標準的な家計収支を詳しく見ていきましょう。

4.1 収入の内訳:月額25万4395円

■うち社会保障給付(主に年金):22万8614円

4.2 支出の内訳:月額29万6829円

■うち消費支出:26万3979円

  • 食料:7万8964円
  • 住居:1万7739円
  • 光熱・水道:2万3540円
  • 家具・家事用品:1万1237円
  • 被服及び履物:5354円
  • 保健医療:1万7941円
  • 交通・通信:3万1325円
  • 教育:0円
  • 教養娯楽:2万6538円
  • その他の消費支出:5万1341円
    • うち諸雑費:2万2047円
    • うち交際費:2万3257円
    • うち仕送り金:1135円

■うち非消費支出:3万2850円

  • 直接税:1万2547円
  • 社会保険料:2万296円

4.3 家計収支の状況

  • ひと月の赤字:4万2434円
  • エンゲル係数(※消費支出に占める食料費の割合):29.9%
  • 平均消費性向(※可処分所得に対する消費支出の割合):119.2%

このモデル世帯の平均的な月収は25万4395円で、その大半を公的年金などの社会保障給付が占めています。

それに対して、支出の合計は29万6829円にのぼります。食費や光熱費、医療費などの消費支出だけでなく、税金や社会保険料といった非消費支出も月々3万2850円と、一定の負担となっています。

結果として、毎月4万2434円の赤字が発生しており、この不足分は貯蓄を取り崩して補填する必要があることがわかります。

現役時代のように収入を大きく増やすことが難しい高齢世帯にとって、この赤字状態が継続することは、貯蓄残高に決して小さくない影響をおよぼします。次の章で詳しくシミュレーションしてみましょう。

5. 月約4万2000円の赤字が続く現実と貯蓄取り崩しのシミュレーション

公的年金を主な収入源とする65歳以上の無職・夫婦世帯では、毎月の生活費を完全にまかなうことができず、平均して約4万2000円の赤字が発生している状況です。

この不足分は貯蓄を取り崩して補うことになりますが、この状態が長期間続いた場合、資産にはどのような影響が出るのでしょうか。

ここでは、統計データに基づき、老後の家計の実態をより具体的に見ていきます。

5.1 高齢無職世帯の家計は毎月約4万2000円の赤字

先ほどのデータから、平均的な世帯では毎月4万2434円の資金不足が生じていることが明らかになりました。
食費や光熱費、医療費といった消費支出に加え、税金や社会保険料などの負担もかかるため、年金収入だけで収支をプラスにすることは容易ではありません。
月4万2434円という赤字額は、一見すると大きな金額ではないように感じるかもしれませんが、長期化すると家計に深刻な影響をおよぼします。

  • 1年間:約51万円の赤字
  • 10年間:約509万円の取り崩し
  • 20年間:約1018万円の取り崩し

人生100年時代といわれる現代において、老後生活が長期化するなかでこの赤字構造が続けば、資産は着実に目減りしていくことになります。

5.2 貯蓄中央値1178万円はいつまで持つのか

冒頭で確認した通り、金融広報中央委員会の調査によれば、70歳代・二人以上世帯の貯蓄額の中央値は約1178万円です。

もし同程度の赤字が毎月続いた場合、単純計算では20年を待たずに貯蓄の多くを使い切ってしまう可能性があります。もちろん、実際には支出の見直しや就労による収入確保などで調整を図る世帯も多いと考えられますが、数値上は決して余裕があるとはいえません。

5.3 月数万円の赤字が老後資金に与える影響

収入を大幅に増やすことが難しいシニア世帯にとって、たとえ月数万円の赤字であっても軽視はできません。物価上昇が続けば、赤字幅がさらに拡大するリスクも考えられます。

老後資金を計画する際には、現在の貯蓄額だけでなく、毎月どのくらいのペースで資産を取り崩しているのか、そしてその状態が今後どのくらいの期間続く見込みなのかを把握する視点が不可欠です。

6. 物価上昇が年金生活に与える影響とは

物価の上昇は、特に収入が固定されがちな高齢者世帯の家計に直接的な打撃を与えます。

年金収入を生活の柱としている場合、物価高によって支出が増加し、生活費を十分にカバーできなくなるリスクが高まります。ここでは、インフレが家計に与える具体的な影響を確認していきましょう。

6.1 消費者物価指数から見る生活費の増加

以下は、総務省が公表した消費者物価指数(2025年度平均)のデータです。

  • 総合指数は2020年を100として112.3…前年度比は2.6%の上昇
  • 生鮮食品を除く総合指数は111.7…前年度比は2.7%の上昇
  • 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は111.0…前年度比は3.0%の上昇

食料品や日用品といった生活必需品の値上がりによって、高齢世帯の支出は増加傾向にあります。特に食費や医療費の上昇は、年金生活を送る世帯にとって大きな負担となります。

6.2 年金収入だけでは物価上昇に追いつけない現実

前述の通り、厚生年金の平均月額は約15万円、国民年金は約6万円がひとつの目安です。

しかし、生活費が上昇し続ける環境下では、年金収入だけでは必要な支出をまかなえないケースが増加しています。支出が収入を上回る状況が続けば、貯蓄の取り崩しや短時間での就労を検討せざるを得ない世帯も少なくありません。

6.3 家計の赤字を防ぐために検討したい対策

支出の増加に備えるためには、早期からの資金計画が重要です。

短時間の就労で収入を補う、投資や不動産などを活用して副収入を確保する、さらには年金の繰上げ・繰下げ受給を検討するなど、各世帯の状況に応じた対策を講じることが、老後の生活の安定につながります。

7. 変化する高齢者の家計と働き方

これまで見てきたように、年金収入だけでは家計の収支を均衡させることが難しい状況が続くなか、収入を補うための動きも広がっています。老後の収入源は公的年金が中心であることに変わりはありませんが、それに加えて別の収入源を持つ世帯も増えています。

近年では、定年後に再雇用や再就職で働き続ける人に加え、自営業や業務委託といった柔軟な働き方を選ぶシニアも増加傾向にあります。

実際に、多くの高齢者がどのように対応しているのか、データで見ていきましょう。

7.1 増加する65歳以上の就業者

内閣府が公表した「令和7年版高齢社会白書」によると、65歳以上の就業者は年々増加傾向にあります。

シニア世代の就業率の推移を確認すると、この傾向はより一層明確になります。

体力面への配慮は必要ですが、これまでの経験や専門知識を活かせる分野では、70歳前後、あるいはそれ以上の年齢でも現役で働き続けることは珍しくありません。

また、働き方もフルタイムだけでなく、短時間勤務や期間限定の仕事など、多様化が進んでいます。

7.2 月数万円の追加収入がもたらす家計への好影響

必ずしもフルタイムで働く必要はなく、老後の家計を支える方法はさまざまです。

パート収入や不動産収入、株式の配当金など、たとえ金額が大きくなくても年金に上乗せされる収入があれば、毎月の赤字を抑制できる可能性があります。

生活費のすべてをまかなうほどの収入でなくても、月数万円の追加収入があるかどうかで、家計の安定感は大きく変わってくるでしょう。

8. 働きながら年金をもらう人必見|2026年4月からの在職老齢年金制度の変更点

2025年6月に成立した年金制度改革関連法に基づき、2026年4月から在職老齢年金制度が見直されました。

今回の改正は、多様な働き方やライフスタイルに対応することを目的としており、パートなどで働く人の社会保険加入対象の拡大(いわゆる「106万円の壁」の見直し)や、遺族年金制度の変更なども盛り込まれています。

ここでは、特に高齢期の就労者に影響が大きい在職老齢年金制度の変更点について確認します。

8.1 在職老齢年金制度の基準額が引き上げ

在職老齢年金制度とは、60歳以降に老齢厚生年金を受給しながら就労する場合、年金の月額と給与・賞与の合計額が一定の基準を超えると、年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。
(※老齢基礎年金は対象外で、全額が支給されます)

この支給停止の基準となる金額は、毎年度見直されています。

  • 2022年度:47万円
  • 2023年度:48万円
  • 2024年度:50万円
  • 2025年度:51万円
  • 2026年度:65万円

2026年4月からは、この基準額が従来の51万円から65万円へと大幅に引き上げられました。

この基準引き上げにより、これまで年金の減額を気にして就労時間を調整していた高齢者も、より柔軟に働き方を選択しやすい環境が整ったといえるでしょう。

9. まとめ:老後資金計画で重要な家計のバランス感覚

物価上昇が続く現在、老後の家計管理はますます重要になっています。本記事で見てきたように、70歳代の二人以上世帯の貯蓄状況には大きなばらつきがあり、公的年金だけで生活費をまかなうのは難しい世帯も少なくありません。毎月の赤字を貯蓄で補うという家計構造は、多くの高齢者世帯が直面する現実です。

一方で、2026年4月からは在職老齢年金の支給停止基準額が引き上げられ、働きながら年金を満額近く受け取れる可能性が広がりました。これは、収入を補いたいと考える高齢者にとって追い風となるでしょう。

こうした制度の変更も視野に入れつつ、ご自身の貯蓄額や収入の見通しを定期的に確認し、家計のバランスを最適化していくことが、変化の時代における安定した老後生活の鍵となります。

※この記事は再編集記事です。

参考資料