そのCMが「がんばるお父さんへのムービー」と銘打たれたところが、育児や家事を一手に担う女性たちの逆りんに触れる結果となりました。

今の子育て世代の多くは、家事・育児・PTA活動やパートを担っていた専業主婦の母親と、仕事だけをしていた父親の後姿を見て育っています。仮に自分が育った家庭が自分の基準となるのだとしたら、多くの男性にとっては、普段家にいない男親の後姿から学んだ「家庭生活術」が乏しいケースもあるでしょう。

前出の炎上CMの中でも「あの頃の親父とは、かけ離れた自分がいる」「親父が与えてくれたものを俺は与えられているのか」という主人公の自問自答が心の声として流れていました。かつての父親たちによって軽んじられていた家庭生活の価値を、周りの声や社会の声を参考にしながらもう一度査定する作業は思いのほか難しいようです。

おわりに

帰り道、コンビニや本屋で立ち読みをして、居酒屋で1杯だけ飲んで帰る男性に対し、「昔と比べればそんなのかわいいものよ。いつも頑張ってるんだからそれぐらい許してあげて」と言う人がいるかもしれません。

とはいえ、夜は子育て中の家庭にとって次から次へと注文やトラブルが降り注ぐ目の回るような忙しさ。もう1人サポートする大人がいることで、ずいぶん負担は軽減し、家族のイライラや子どもの不安が消え、笑顔が増えるケースも多くあるのではないでしょうか。

親と子どもが笑顔でいることの価値と手段をきちんと認識できるようになったとき、そして子を育てる者同士が手を差し伸べあうことの重要性を悟ったとき、「働き方改革」の成果はゆっくりと表れていくのかもしれません。

【参考】
「働き方改革」の実現に向けて( 厚生労働省)
30代・40代の金銭感覚についての意識調査2019(SMBCコンシューマーファイナンス調べ)

北川 和子