平均86.7歳の資産寿命

このところ「資産寿命」という言葉を良く耳にします。資産が枯渇するまでの年数として、自身の寿命と比較して使うわけですが、資産の方が長持ちすれば、金銭的に不安は少なくなって、長生きリスクが少なくなるといった指摘がなされるわけです。

65-79歳1万2000人アンケートでも、自己評価で何歳くらいまで資産が持続するかを聞いています。これを保有資産と合わせて分析しました。平均保有資産は2,232万円で、回答者の自己評価を平均すると、資産寿命は86.7歳となりました。

厚生労働省の平成29年簡易生命表によると、65歳の男性の平均余命が19.57歳、女性が24.43歳ですから、男性が84.57歳、女性が89.43歳まで平均で生きると推計できます。男女の平均をとるとちょうど87歳となりますから、65歳の平均余命とアンケート調査による資産寿命がちょうど同じくらいということになります。

60代は平均余命より資産寿命が短い

資産寿命が平均余命並みでいいのでしょうか? 平均余命は、毎年の死亡率を積み重ねて半数の方が亡くなる年齢といえますから、これは別の見方をすれば「半分の人がまだその先も生活を続ける」という年齢でもあります。そう考えると、余命=資産寿命ではちょっと不安になります。

もう少し細かく分析してみます。アンケート調査の結果を、年齢別に再分類して資産寿命(自己評価)を見たのが下の表です。5歳刻みで年齢区分を設けていますが、どの年齢層でもほぼ平均の資産額は2,000万円強です。

65-69歳の区分ではその資産額で平均17.8年の生活をカバーできると想定しており、60代後半の資産寿命は84.8歳と推計できます。これは先ほど紹介した平均余命よりも短い年数です。

70-74歳の区分では15年強で87.3歳、75-79歳区分で13年弱で89.8歳と、それぞれ実際の年齢が5歳上がるにつれてほぼ2年ずつ資産寿命が短くなる想定でした。

前述の簡易生命表で70歳と75歳の平均余命を男女平均で計算すると、87.9歳と89.0歳ですから、70代後半になってやっと平均余命に追いつくわけで、実際には60代、70代前半の資産寿命(自己評価)は平均余命にも届いていない状況なのです。

その60代後半の資産寿命年数で保有資産額を割ると、年間125万円強ですから、これで公的年金の不足を補おうと考えていることになります。公的年金のほかに月額10万円を資産からの引き出すという想定をどれだけ減らせるかが課題ということになります。意外に厳しい状況で、長生きリスクが取りざたされるのもわかる気がします。

年齢別平均保有資産とその資産の寿命(自己評価) (単位;万円、年齢)

出所:フィデリティ退職・投資教育研究所、高齢者の金融リテラシー調査、2019年2月

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史