立春を迎え、暦の上では春となりましたが、まだ寒さの残る日が続いています。新年度を前に、これからの暮らしや働き方を見直そうと考えている方も多いのではないでしょうか。一方で、外からは分かりにくい心身の不調や、将来への不安を抱えながら日々を過ごしている方も少なくありません。
厚生労働省の最新調査では、精神障害者保健福祉手帳の所持者が154万人を超え、年々増加していることが明らかになりました。今回は、制度の目的や対象となる精神疾患、そして雇用の広がりについて、最新の調査結果をもとに解説します。
1. 精神障害者保健福祉手帳、「各種福祉サービスや支援につなげる」どんな障がいが対象?
精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患により日常生活や社会生活に一定の制限が生じている方を対象とした制度です。障がいの状態や程度に応じて交付され、各種福祉サービスや支援につなげることを目的としています。
対象となる精神疾患には、統合失調症、気分障害(うつ病・双極性障害)、てんかん、発達障害、高次脳機能障害を含む器質性精神障害、中毒性精神障害などが含まれます。いずれも、症状の現れ方や生活への影響には個人差があり、診断名だけで判断されるものではありません。
1.1 うつ病・統合失調症など「対象となる精神疾患」の特性
それぞれの疾患の特性については、厚生労働省の資料をもとに、以下で詳しく見ていきます。
統合失調症
主な特性
- 発症の原因はよくわかっていないが、100人に1人弱かかる、比較的一般的な病気である。
- 「幻覚」や「妄想」が特徴的な症状だが、その他にも様々な生活のしづらさが障害として表れることが知られている。
出所:厚生労働省「精神障害(精神疾患)の特性(代表例)」より引用
気分障害
主な特性
- 気分の波が主な症状として表れる病気。うつ状態のみを認める時はうつ病と呼び、うつ状態と躁状態を繰り返す場合には、双極性障害(躁うつ病)と呼ぶ。
- うつ状態では気持ちが強く落ち込み、何事にもやる気が出ない、疲れやすい、考えが働かない、自分が価値のない人間のように思える、死ぬことばかり考えてしまい実行に移そうとするなどの症状がでる。
- 躁状態では気持ちが過剰に高揚し、普段ならあり得ないような浪費をしたり、ほとんど眠らずに働き続けたりする。その一方で、ちょっとした事にも敏感に反応し、他人に対して怒りっぽくなったり、自分は何でもできると思い込んで人の話を聞かなくなったりする。
出所:厚生労働省「精神障害(精神疾患)の特性(代表例)」より引用
てんかん
主な特性
- 何らかの原因で、一時的に脳の一部が過剰に興奮することにより、発作が起きる。
- 発作には、けいれんを伴うもの、突然意識を失うもの、意識はあるが認知の変化を伴うものなど、様々なタイプのものがある。
出所:厚生労働省「精神障害(精神疾患)の特性(代表例)」より引用
ここに挙げたのは代表的な例であり、同じ診断名であっても症状の現れ方や、直面する生活のしづらさは人によって大きく異なります。 こうした外見からは分かりにくい困難を抱える方を、社会的に支えるための仕組みが精神障害者保健福祉手帳です。
では、実際にどのくらいの方がこの制度を利用しているのでしょうか。次は、所持者数のデータについて詳しく見ていきましょう。
2. 精神障害者保健福祉手帳、所持者は154万人超「5年連続の増加」1年間で10万人増えている
精神障害者保健福祉手帳の交付状況は、各自治体が管理する「交付台帳」に基づいて把握されています。厚生労働省が公表した「令和6(2024)年度 衛生行政報告例」によると、精神障害者保健福祉手帳の所持者数は2020年度以降、5年連続で増加が続いています。
2024年度末時点の所持者数は154万7433人となり、前年度からは10万9340人増加しました。この人数は、有効期限内の手帳を保有している人を対象に集計されたもので、2年ごとの更新制度を踏まえた実数となっています。
2.1 等級別の状況も確認
精神障害者保健福祉手帳は、障がいの程度に応じて1級から3級までに区分されています。2024年度末時点では、2級の所持者が最も多く、89万7292人と全体の半数以上を占めています。一方、前年と比べた増加率でみると、3級が10.0%増と最も高い伸びを示しました。
2.2 等級はどのように決まる?
等級の判定は、精神疾患の症状そのものだけでなく、日常生活や社会生活にどの程度の支障が生じているかを総合的に考慮して行われます。
- 1級:日常生活のほぼすべてにおいて自立が難しく、常時の介助や支援を必要とする状態
- 2級:日常生活に大きな制限があり、継続的な支援や配慮が求められる状態
- 3級:日常生活や社会生活に一定の困難があり、場面に応じた支援が必要な状態
この等級制度は、支援の内容や範囲を適切に設計するための目安となる仕組みです。制度を正しく理解することが、必要な支援につながる第一歩といえるでしょう。
3. 障がい者の雇用も「過去最高」へ。前年比15.7%増の背景
厚生労働省が公表した「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業で働く障がいのある人の数は、雇用人数・実雇用率ともに過去最高となりました。法定雇用率2.5%のもと、企業側の雇用への取り組みが着実に広がっていることがうかがえます。
また、実雇用率とは、企業の全労働者数(原則として週20時間以上働く常用労働者)に対し、実際に雇用している障がい者の割合を示したものです。
3.1 障がい種別ごとの雇用状況
2024年時点の雇用者数を障がいの種類別に見ると、
- 身体障がい者は36万8949人(前年から2.4%増)
- 知的障がい者は15万7795人(同4.0%増)
- 精神障がい者は15万717人(同15.7%増)
となっており、精神障がい者の雇用者数は、前年からの伸び率が最も高い結果となりました。
3.2 なぜ増えている?手帳活用による「就職・定着支援」の広がり
精神障がい者の雇用が大きく伸びている背景には、精神障害者保健福祉手帳を活用した障害者雇用枠での就職や、就労移行支援事業所などによる就職・定着支援の広がりがあると考えられます。働く前後を通じたサポート体制が整ってきたことで、企業側にとっても受け入れやすい環境が少しずつ整ってきました。
福祉制度と雇用の仕組みが連動することで、精神障害のある方が社会の中で働く選択肢は確実に広がっています。今回の結果は、雇用を通じた社会参加の機会が着実に増えていることを示す一つの指標といえるでしょう。
4. まとめにかえて
今回は、精神障害者保健福祉手帳の制度概要と所持者数の動向、雇用の広がりについて解説しました。手帳を取得することで、税制上の控除や公共料金の割引など、全国共通の支援を受けられます。
また、精神障がい者の雇用は前年比15.7%増と大きく伸び、就労支援や職場環境の整備が進んでいることも分かりました。制度や支援を知ることは、自分に合った働き方や生活の選択肢を広げる第一歩になります。不安を抱え込まず、情報をきっかけに支援や相談につなげていくことが、将来の安心につながっていくでしょう。



