2024年秋の衆議院選挙以降、盛んに聞かれた「年収の壁」というフレーズ。2026年度からは、国民民主党が掲げた「178万円」への引き上げが見込まれています。

この引き上げは、パートやアルバイトをする人だけにメリットがあるわけではなく、多くの働く人にメリットがある改正です。実質的な「大規模減税」となっており、国民の負担緩和効果が期待できます。

この記事では、年収の壁の引き上げによるメリットや実際に増える手取り額を解説します。

1. 年収の壁「178万円」への引き上げをおさらい

まずは、国民民主党が「年収の壁を178万円まで引き上げる」ことを主張してきた理由や背景を振り返りましょう。

私たちが働いて収入を得ると、その所得額に応じて所得税が発生します。しかし、一定額以下であれば、所得税はかかりません。2024年まで、所得税がかからない基準となる金額が103万円となっていました。内訳は以下のとおりです。

  • 基礎控除:48万円
  • 給与所得控除(最低保障額):55万円

これが、いわゆる「103万円の壁」と呼ばれていたラインです。

上記の仕組みがつくられたのは、30年前の1995年です。国民民主党は「30年で最低賃金は1.73倍に上昇しているのだから、年収の壁も同じ比率で引き上げるべき」との根拠から、103万円を1.73倍した178万円までの引き上げを提案していました。

2025年、103万円の壁は以下のように改正されました。

  • 基礎控除:58万円〜95万円(所得金額に応じて段階的に適用)
  • 給与所得控除(最低保障額):65万円

壁は最高で160万円まで引き上げられました。しかし、収入額ごとに基礎控除額を区分するという複雑な仕組みとなったことや、中間層に恩恵が少ないことから、国民民主党は引き続き178万円までの引き上げを与党と協議してきたのです。

そして今回、次年度の税制改正に向けた協議において、自民党と国民民主党は年収の壁を178万円まで引き上げることで合意しました。この引き上げは、正社員にも恩恵があります。その理由を次章で解説します。

2. 178万円までの引き上げの内訳と正社員も得する理由

年収の壁の引き上げでは、基礎控除のあり方が大幅に変更される見込みです。

今回の基礎控除からは、直近の控除額に今後直近2年間の消費者物価指数(総合)を掛けて、適宜見直す仕組みとなる予定です。現行の基礎控除58万円に対し、直近の消費者物価指数は6.0%の上昇率となっていることから、次年度の基礎控除額は62万円となります。

給与所得控除の最低保障額についても、基礎控除と同様、物価に応じて変動する形に変わります。現行は65万円ですが、次年度は69万円となる予定です。

そして「基礎控除の特例」についても引き上げられます。現在、基礎控除の特例として、収入額ごとに控除額の上乗せがされています。現在は最高で35万円の上乗せがされていますが、今回の壁の引き上げでは上乗せ額を原則37万円とする方針です。

また、今後2年間については、物価高への支援として控除額を42万円まで拡大し、その控除額を給与収入665万円までの人に適用します。

これに加え、給与所得控除についても、2年間の最低保障額がさらに5万円引き上げられます。よって、年収の壁は以下のように178万円となるのです。

  • (基礎控除62万円)+(基礎控除特例額42万円)+(給与所得控除最低保障額74万円)=178万円

今回の改正がパートやアルバイトだけでなく、正社員にも恩恵がある理由は、上記の「基礎控除の特例」が大幅に拡大されるためです。多くの働く人の基礎控除が実質的に104万円まで引き上げられるため、課税所得が大幅に減り、所得税負担が少なくなります。大規模な減税措置ともいえ、手取り増加が期待できるのです。

次章では、実際にどれくらいの恩恵があるのか、シミュレーションしてみましょう。

3. 【シミュレーション】中間層にどれくらい恩恵がある?

年収の壁の引き上げで、中間層にどれくらいの恩恵があるのか、シミュレーションしていきます。今回は、年収500万円の会社員を例に計算してみましょう。

年収500万円・単身の会社員について、現行の控除後所得額・税額と、改正後の控除後所得額・税額を比較すると、以下のようになります。

現行制度

  • 給与所得控除:144万円
  • 基礎控除:58万円
  • 基礎控除の特例:10万円
  • 社会保険料控除(年収の15%で計算):75万円
  • 所得額:213万円
  • 税率:10%(控除額9万7500円)
  • 所得税額:11万5500円

改正後

  • 給与所得控除:144万円
  • 基礎控除:62万円
  • 基礎控除の特例:42万円
  • 社会保険料控除(年収の15%で計算):75万円
  • 所得額:177万円
  • 税率:5%
  • 所得税額:8万8500円

税額の差は年間で約3万円です。月あたり2500円手取りが増える計算になります。収入によってはさらに税額の差が開き、減税額が大きくなります。

とはいえ、年収の壁の引き上げでは注意しなければならない点もあります。次章では、注意点である「社会保険の壁」について解説します。

4. 「社会保険の壁」は変わらない

今回引き上げられるのは所得税の年収の壁です。社会保険の壁については、変更はありません。社会保険の壁と呼ばれる基準点には、以下の2つがあります。

  • 106万円の壁:従業員51人以上の企業で働く場合、厚生年金・健康保険への加入が必要になるライン。
  • 130万円の壁:夫の扶養(社会保険)から外れ、自分で保険料を払う必要が出るライン。

178万円まで収入を増やせたとしても、106万円や130万円到達時に、社会保険への加入が必要になります。社会保険料による手取り減少の可能性は否めません。とくに、パートやアルバイトの人は注意が必要です。

加えて、106万円の壁については、要件のひとつである「賃金月額8万8000円以上」が3年以内に撤廃される見込みで、従業員51人以上という「企業規模要件」についても、段階的な撤廃を予定しています。そのため、106万円の壁に該当する人は今後さらに増えると考えられます。

とはいえ、今回の壁の引き上げは比較的大きいため、収入が178万円になるまで働いたほうが、結果的に毎月の収入を増やせる場合もあります。現時点での税額や保険料をあらためてチェックし、どの働き方が手取りを最大化できるのか確認しておきましょう。

5. まとめ

年収の壁は103万円から123〜160万円を経て、178万円まで引き上げられました。今回の改正から基礎控除は都度変動する仕組みとなったため、今後年収の壁は毎年のように動くことが想定されます。

また、基礎控除が拡充されることで、中間層にも恩恵が生まれます。増えた手取りを生活費や資産形成などに充てて、家計への負担を和らげましょう。

参考資料

石上 ユウキ