読者に伝えたい3つのポイント

今回のブラジル訪問ではATM事業を展開しているOKI(6703)の連結子会社を取材し、ブラジルでのATM事業の様子を取材しました。

ブラジルの7-9月期のGDPは対前年同期比▲4.5%減となり、企業業績も悪化しています。こうした中、唯一、好調なのが銀行セクターです。高金利政策により利ザヤが改善しているからです。

残念ながら銀行の業績好調にもかかわらず、ATMへの投資は今のところ活発化していないようでした。とはいえ、紙幣還流型ATMの普及はこれからであるため、長期的な視点で注目したいと思います。

ブラジルに進出したOKI

OKIは中国のATM市場で、紙幣の出金だけではなく入金も可能な紙幣還流式ATMを他社に先駆けて投入することで大きな成功を収めてきました。

この成功モデルの再現に期待し、OKIは2014年にブラジルのATM市場において約30%のシェア持つイタウテック社を買収しています。

しかしながら、大幅なレアル安、景気減速、ブラジルコストと呼ばれる複雑な税制等により、業績の改善は買収当初の想定よりも大きく遅れています。

2015年11月5日に発表されたOKIの2016年3月期上期決算(4-9月期)では、ブラジル経済の想定以上の悪化によりOki Brasil(以下、OBR)の苦戦が報告されていましたが、今回の訪問でもこの点が新ためて実感されました。

レアル安の影響は深刻

先に述べたイタウテックの買収交渉が始まった2013年前半の為替レートは1レアル50円程度でしたが、足元では1レアル32円までレアル安が進んでいます。

OBRでは、2014年5月時点では売上高を2015年3月期に300億円(1レアル50円換算で6億レアル)、2017年3月期には400億円(同8億レアル)を目指していました。

しかし、1レアル32円では、仮に現地通貨ベースでの売上を達成できたとしても、円ベースの売上高は36%も目減りしてしまうことになります。

また、日本から輸入調達するキーコンポーネントのコストもレアル安の影響で大幅に上昇することになり、これが採算面に悪影響を与えています。

ブラジルの銀行はATM投資に慎重

ブラジルの景気は大きく悪化していますが、高金利政策による利ザヤの改善で、銀行の収益は大きく好転しています。しかしながら、今のところ、銀行はATM投資を拡大する動きは見せていない模様でした。

また、複数の銀行口座を一括で扱うATMも増加していることから、集約化により設置台数が減少するリスクもあるようです。

困難を乗り越えて巻き返しと残存者利得の享受に期待したい

ブラジルのATM設置台数は約15万台で、日本の約18万台と大きくは変わりません。ところが、現状のブラジルのATMは出金のみのタイプが大半で、入金も可能な紙幣還流式ATMはほとんど普及していません。

還流式は紙幣の交換などの手間が省け、銀行にはメリットが多いため、日本だけではなく中国でも普及が急速に進みました。

このため、還流式への置き換えの可能性を考慮すると、ブラジルでも中長期的には魅力的な市場となる可能性も完全には否定できないため、今後の動向を注視したいと思います。

参考:過去2年間のOKIの株価推移
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和泉 美治