大手広告会社の新入社員が、過労の末に自殺してしまった痛ましい事件などを境に、「パワハラ」という言葉がより一般的なりました。社会がこうしたことにより敏感になっていることもあってか、部下を追い込む上司の暴言や、教師から生徒への「指導」という名の体罰、ボクシングやアメフトなどスポーツ競技団体や部活での特定の選手への嫌がらせや理不尽な決定・判定など、パワハラ関連のニュースは相変わらずよく見られます。
そうした背景もあり、企業や学校はパワハラの撲滅を試みていますが、最近では、この状況を逆手に取った「逆パワハラ」というものも増えているようなのです。
「逆パワハラ」とは?
通常、職務における地位や人間関係上での優位を背景に、「上の人」から「下の人」へイジメや嫌がらせなどで精神的な苦痛を与えることがパワハラ(パワーハラスメント)と呼ばれます。「逆パワハラ」とはその逆で、「部下」から「上司」などへこうしたハラスメント行為が行われることです。
たとえば、
・上司のささいな言動に対して、「それ、パワハラですよね」「人事部に報告します」「訴えますよ」といった脅しをちらつかせる
・部署の同僚なども引き入れて、上司に対して集団で無視したり職務命令へのボイコットを煽ったりする
・同じく集団で上司の罪をでっち上げて人事部や上役に告げ口する
といったことで、正直なところ「これ、犯罪じゃないの……?」と思うようなことさえありますよね。
こういったことは、今までなかったわけではないのですが、パワハラで訴えられることを恐れて、上司などが強く出ることができない状況や、社員の度を越えた権利意識が、「逆パワハラ」を増加させているようです。
被害者が死に追い込まれることも
少し古いのですが、社会に大きな反響を与えた事例があります。
1998年に、ある飲食店の料理長が、部下からの「逆パワハラ」が原因でうつ病を発症し、自殺してしまいました。この料理長は、「金銭の着服やセクハラをしている」という中傷ビラを会社の上層部に送られるなどの「逆パワハラ」を受けていました。
こうしたことを行っている側からすれば、ただの遊び・ゲームなのかもしれませんが、時として、被害者を死に追い込むことさえあるのです。
生徒から教師への暴言
先日、大きな話題を呼んだ、東京都立町田総合高校での事件も、「逆パワハラ」と呼んでいいのではないでしょうか。
この事件では、校則を破ってピアスをしてきた生徒が、それを注意する教師に対して、「病気って言ってんだろ、てめえはよ!」「その小さい脳みそでよく考えろ!」などと暴言を吐き、結果的に教師が生徒に暴力をふるってしまいました。
この事件に関しては、
・何があっても、暴力は絶対にダメ。それが人の命を奪うこともある
といった意見も強くありますが、
・確かに暴力はいけないことだけど、生徒にも間違いなく非があるし、罰を受けるべき
・教師が手を上げられないだろうとたかをくくって、なめた態度をとっている
・この一件で、教師を目指す人が減りそう。なにか対策をしないと
など、暴力はいけないこととしながらも、生徒を批判する意見もまた多くありました。
消防本部で集団パワハラ
この事件ほどは話題となりませんでしたが、ほかにも逆パワハラの事例は枚挙にいとまがありません。
2017年に、福岡県の糸島市消防本部で、集団パワハラが横行していたことが明らかとなりました。部下への暴行などの「一般的な」パワハラも行われていた一方、人事への不満から上司の自宅に押しかけるなど「逆パワハラ」もあったといいます。これにはネット上で、
・大人になって集団パワハラとか終わってる
・市民の命を守るのが仕事の消防士が、こんなことしているのは悲しい
・男ばかりの職場だとこういうことが起こりやすいのかもしれない
といった意見が集まりました。
「逆パワハラ」を助長しているのは?
このように、「逆パワハラ」は、意外なほど多く行われています。そして、近年のパワハラへの批判的な風潮や、企業・組織のコンプライアンス意識の過剰なまでの高まりが、こうした「逆パワハラ」を助長してしまっているという側面もあります。
もちろん、そもそもの話として、パワハラは絶対にあってはならないことですが、上司が「これってパワハラになるのかな……?」と必要以上におびえるのではなく、「指導」と「パワハラ」の違いを見極めつつ、部下と接していくことが重要といえます。
とはいえ、個人としてできることには限界があります。会社・組織としても、当事者である「上司・部下」以外の第三者によるヒアリングなども実施した上で、適切な対処を行う必要があります。
「逆パワハラ」は組織の秩序を乱し、職務の正常な執行を妨げるだけではなく、上でも述べたように犯罪に近いものさえあるのです。ゲーム感覚で上司を陥れる社員、あるいは限度を越えて権利だけを振りかざし、本来の義務を果たさず秩序を乱すような社員に対しては、組織全体の意思として毅然とした対処を行うことが、「逆パワハラ」の抑制につながるのではないでしょうか。
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