この記事の読みどころ
「外食」は2017年4月から導入される軽減税率の対象から外れたため、業界には強い危機感があると考えられます。
ファストフードでは、利幅の小さい“持ち帰り“を選択する人が大幅に増えそうですが、簡単に値上げなどできません。
イートイン(店内飲食)が加工食品扱いとなったコンビニが有利に見えますが、10%に引き上げた後の消費停滞に目を向ける必要があります。
「酒類と外食を除く食品全般」が軽減税率の対象に
少し前になりますが、12月12日、軽減税率の対象品目について与党間協議で続いていた議論が大枠合意に達しました。
その結果を受けて、12月16日に決定された2016年度税制改正大綱では、「酒類と外食を除く食品全般」で、2017年4月に予定されている消費再増税(8%→10%へ引き上げ)後も、現行の8%が継続されることが正式決定しました。
「酒類と外食を除く食品全般」とは、言い換えると、「生鮮食品と加工食品の全般」となります。
今回の軽減税率対象から外れた外食産業が持つ危機感は、非常に強いと推測できます。特に、低中所得層や若年層が多く利用していると考えられるファストフードは、大きな影響を受ける可能性が高いと言えます。
加工食品扱いとなる“持ち帰り(テイクアウト)”が大幅増加へ
消費再増税後にファストフードが苦戦すると考える理由は、“持ち帰り(テイクアウト)”が増えると予想されるからです。
ファストフードの店内で飲食する場合は「外食」となり消費税10%が課せられますが、“持ち帰り“の場合は「加工食品」扱いとされるため、消費税は8%のままになります。
ファストフードユーザーにとって、この2%の差は非常に大きく、”持ち帰り“を選択する消費者が大幅増加すると考えらえます。
ファストフード店にとって“持ち帰り(テイクアウト)”は利幅が小さい
ところで、この“持ち帰り”は、ファストフード店にとってはどうなのでしょうか。冒頭の写真は、吉野家の牛丼(並盛)をテイクアウトしたものです。
吉野家の場合、牛丼に関しては全てのサイズで、店内飲食とテイクアウトは同じ値段です。しかし、テイクアウトでは、使い捨て容器、割り箸、レジ袋などの店内飲食にないコストが発生します。また、店員さんの作業も、テイクアウトの方がやや手間がかかります。
店内飲食とテイクアウトの量を正確に測った訳ではありませんが、テイクアウトはコスト高、つまり、ファストフード店にとっては利幅が小さくなると考えてよさそうです。
このロジックは、牛丼のみならず、ハンバーガー、コーヒー、ドーナツ、寿司(回転寿司)など全てに該当します。しかし仮に、テイクアウトを値上げした場合、来店客数そのものが大きく減ってしまう懸念が高まると考えられます。
コンビニでのイートイン(店内飲食)は加工食品扱い
今回の軽減税率対象品目の議論において、最後まで揉めたのは、外食と加工食品との線引きだったようです。しかし、最終的には、コンビニでのイートイン(店内飲食)は加工食品という扱いになりました。つまり、消費税は8%のままです。
これはコンビニ業界にとって大きなアドバンテージです。しかも、ふと気が付くと、ほとんど全てのファストフードがコンビニで売られている時代です。
コンビニがイートインのスペースを拡充すれば、ファストフードの客層を取り込むことも十分可能ではないでしょうか。
コンビニがファストフードの前に大きく立ちはだかる
もちろん、コンビニがファストフードの味や雰囲気を完全に再現することはできませんし、全ての消費者が低価格志向というわけではありません。ファストフードには固定客も大勢います。
しかし、既に一部のファストフードでは過当競争が蔓延した結果、業界再編や店舗縮小となっているところもあります。軽減税率の導入を機に、コンビニがファストフードの前に、今以上に大きく立ちはだかる気がしてなりません。
コンビニの一人勝ちではない、相対的に有利なだけ
それでは、コンビニの一人勝ちとなるのでしょうか。実は、今回の軽減税率導入のきっかけとなる消費再増税に目を向ける必要があります。消費税が10%に引き上げられた後、消費全般が落ち込むことは明らかです。
まさか、「5%→8%に上げた時は大きな影響が出たが、8%→10%への引き上げ時の影響は軽微に止まる」と主張する人が出てくるのでしょうか。消費税が10%に上がった時、どのような影響が出てくるのか、今から様々なシミュレーションを行う必要がありそうです。
LIMO編集部