この記事の読みどころ
日本証券取引所のデータに基づいて、投資信託による日本株の買い越し金額を第2次安倍政権開始から累計し、TOPIXの推移と比較してみました。
投資信託全体として見ると、日本株の上昇と調整をうまく捉えて機動的に売買しています。
高い手腕を示す投資信託の担い手は、個人が主だと思われます。今後は投資家層のすそ野が広がるか、預貯金からリスク資産にさらに資金シフトが進むのか注目です。
アベノミクスのもとで投資信託は日本株をどう売買したか
「貯蓄から投資へ」という掛け声がよく聞かれるようになりました。脱デフレを目標に経済が運営されています。将来の物価上昇の備えとして、現預金や債券中心で資産価値を保てるのかと、多くの方が考え始めていることでしょう。
では、日本取引所グループのデータをもとに、投資信託による日本株(現物)の売買動向を追ってみましょう。
図表1では、投資信託の毎月の現物株のネット買い越し額(買い越し額-売り越し額)を、実質的にアベノミクスが始まった2012年11月から累積しています。赤の折れ線グラフ(左軸、単位 億円)がその金額です。
参考にグレーの棒グラフで各月末のTOPIXの水準を示しました。投資信託の売買は、アベノミクスの開始以降、どれだけうまくいっているのか検証してみましょう。
高い手腕を示す投資信託の売買動向
4つの丸で局面を分けてみました。
第1の青い丸の局面では、赤い折れ線グラフは下に向かいました。株価は外国人主導で上昇を始めますが、投資信託はこれに対して売り上がりました。
第2の緑の丸の局面では、赤い折れ線グラフが力強く上昇を描いています。日本銀行が2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入してから投資信託は買いに回ります。2014年春先まで約1年間着実に買い越しを続け、大幅な買い越しになります。
第3の紫の丸の局面になると、一転して売り越しに転じます。特に2014年10月のハロウィーン緩和以降の株価急騰局面では、買い上がる外国人投資家に対して投資信託はきっちり売り上がって利益を確定しました。
そして第4のオレンジの丸の局面では、上海株の下落を契機とする調整局面で投資信託は買い下がり、反発局面ではすばやく利益確定の売りを出しています。
こうして見ると、投資信託は全体として、なかなかしたたかに売買をし、手堅く利益を出していることが分かります。
個人の預貯金は株式などのリスク資産に向かうのか
このような高い売買手腕を持つ投資信託の主体は個人投資家の方々です。素晴らしいですね。
ただ、ここでひとつ気になる点があります。赤の折れ線グラフの最新値(2015年10月)が約2,000億円のプラスになっていることです。
話を簡単にするために日本の人口を1億人とすると、1人当たり約2,000円分の投資信託を通じて日本株を買い越したということを意味しています。これは少ない金額ではないでしょうか。
個人投資家の方は、海外の債券・株式などに資金を優先的に回しているのかもしれませんし、日本株の現物を投資信託ではなく直接お持ちになっていることもあるでしょうから、短絡的な結論はできません。
しかし、投資信託は本来投資経験の少ない方から投資のベテランまで幅広い投資家層のニーズに応えるべき投資商品です。
「預貯金から投資へ」という掛け声は過去何度となく挙がりましたが、結果的には、これまで個人の金融資産構成が預貯金中心の構造から変わるまでには至りませんでした。現在のアベノミクスにおいても、「預貯金から投資へ」の兆候は十分ではありません。
今後、投資信託が幅広い投資家層の支持を集めて個人の資産形成の中核商品になっていくのか、その推移が大いに注目されます。
LIMO編集部