3. なぜ一律の現金給付ではない?「給付付き税額控除」が選ばれる3つの理由
物価高に対して「迅速な対策」が求められる中、手続きが比較的容易とされる「一律の現金給付」は行われません。
(※注:経済対策では、子ども1人あたり2万円の児童手当への上乗せ給付は決定しています。)
その一方で、制度の設計に時間を要すると見られる「給付付き税額控除」の導入を、高市総理は強く推し進めています。
なぜ「現金給付」ではなく、「給付付き税額控除」という手法が選ばれたのでしょうか。その背景にある理由を解説します。
3.1 理由1:現金給付は一時的な対策に留まるため
現金給付には、スピーディーに実施でき、支援を受けた実感が得やすいという利点があります。
しかし、その多くは一度限りの一時的な措置で終わってしまいます。
さらに、所得が高く必ずしも支援を必要としない層にも一律で支給されるため、財源を効率的に使うという観点や、制度の持続可能性において課題が残ると指摘されています。
3.2 理由2:所得の低い層へも着実に支援を届けられるため
従来の所得税減税策には、「所得税を納めている人でなければ恩恵を受けられない」という構造的な問題がありました。
減税はあくまで「納めるべき税額を減らす」制度であるため、所得が低く非課税となっている世帯は、そのメリットを享受できませんでした。その結果、最も支援を必要とする人々が制度の対象から外れてしまうという課題があったのです。
前述の通り、「給付付き税額控除」は、税額控除で引ききれなかった分を現金で補う仕組みです。
この仕組みによって、所得税の納税額がゼロの非課税世帯にも、設定された支援額が満額、自動的に支給されるようになります。
従来の減税策では困難だった低所得世帯への支援を実現しつつ、所得がある層にも減税という形で恩恵をもたらす、より幅広い層を対象とした制度と言えるでしょう。
3.3 理由3:消費税が持つ「逆進性」の緩和効果が期待できるため
一律の現金給付は、一時的に家計を助ける効果はありますが、消費税が持つ「逆進性」という構造的な課題を解決するものではありません。
「逆進性」とは、所得の大小にかかわらず同じ税率が課される消費税の特性上、低所得者層ほど収入に占める税負担の割合が重くなる現象のことです。
例として、次のようなケースを考えてみましょう。
- 年収1000万円の人が生活必需品に100万円を使い、10万円の消費税を支払った場合、税負担は年収の1%です。
- 一方で、年収300万円の人が同じく100万円を使い10万円の消費税を支払った場合、税負担は年収の約3.3%となり、負担の割合が大きくなります。
このように、支出する金額が同じでも、所得の水準によって税負担の重さが変わってきます。
この「逆進性」という課題を和らげるために考えられたのが、給付付き税額控除という手法です。
この制度を通じて低所得者層に現金を給付することは、実質的に消費税として支払った金額の一部を国が返す効果を持ちます。これにより、手取り収入(可処分所得)が増え、生活の安定につながることが期待されています。
言い換えれば、給付付き税額控除は税の再分配機能を強化するものであり、特に所得税が非課税となる世帯に対して手厚い支援を届けることができる仕組みなのです。
4. まとめ:一時的な給付から、持続可能な生活支援への転換
2025年11月に入り、値上げのペースは少し落ち着きを見せ始めましたが、食料品や日用品の価格は依然として高止まりしており、多くの家庭で家計のやりくりが厳しい状況は続いています。
このような経済情勢の中で、高市総理が「一律の現金給付」ではなく「給付付き税額控除」の導入を目指す背景には、その場しのぎの対策ではなく、所得格差の是正という根本的な問題に取り組む意図があると考えられます。
物価高騰が家計を直撃している今だからこそ、一度きりの現金給付のような短期的な施策ではなく、国民の生活基盤を「持続的」に支えるための、より本質的な政策への転換が求められているのかもしれません。
参考資料
- 立憲民主党「本庄政調会長、自民・小林政調会長と会談 立憲提案の「子ども1人2万円給付」を政府経済対策に反映へ」
- 首相官邸「第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説」
- 首相官邸「公式X」
- LIMO「全員「現金給付」ではダメなの?高市総理が「給付付き税額控除」にこだわる理由《恩恵の受け方3パターン》」
和田 直子