この背景としては、もちろん、『ボヘミアン・ラプソディ』を始めとする人気作品が多く登場したことに加え、リピート客を増やそうとする業界の努力が見逃せません。現在、映画館では様々な割引サービスを実施しています。レディース・デーやレイトショーの割引はすっかり定着しました。また、ポイントカードシステムも広く普及しており、無料観劇など様々な特典を受けることができます。

さらに、IMAXデジタルシアター(注:日本は2009年から導入)に代表される映画館の“ハイテク化”も一因と言えそうです。こうした高性能上映による鑑賞は、家庭でのDVD鑑賞では決して味わえない臨場感があります。高性能上映の料金はやや高めに設定されていますが、それでも人気は衰えないのが実情のようです。

一昔前まで斜陽産業の代名詞だった映画産業

振り返ってみると、戦後の日本では、映画は庶民の娯楽として人気を博し、1950年代に黄金期を迎えました。ところが、カラーテレビの普及とともに客足が遠のき、一時は斜陽産業の代名詞として使われたのも事実です。

しかし、「完全復活」という言葉を使っていいのかわかりませんが、近年の高水準な興行収入実績を見ると、勢いを取り戻したと見てよさそうです。また、結果論になりますが、映画産業はその黄金期の成功体験にどっぷりと浸ってしまい、営業努力を怠ってきた可能性も否めません。

興行収入は既にピークアウトした可能性も

さて、ここまで書くと、映画業界の将来は明るいと思われるかもしれませんが、若干不安な兆候も見え始めています。

まず、前述した高水準の興行収入ですが、実は2016年をピークに減り始めており、2017年は前年比▲2.9%減、そして2018年は同▲2.7%減でした。この減少率は、大幅減少ではありませんが、決して小さくもありません。その理由は様々あると思われますが、相応のヒット作品が出ていることを勘案すると、消費者の節約傾向が一因と考えられます。

TOHOシネマズが26年ぶりの値上げ実施

そして、3月18日、大手の一角であるTOHOシネマズが映画鑑賞料金の値上げを発表しました。

アルバイト人件費などの運営コストの増加を理由に、一般料金を現在の1,800円から1,900円へ+100円値上げされ、その他の割引サービスも概ね+100円高くなります(実施日は6月1日)。なお、今回の一般料金の値上げは約26年ぶりとのことですが、今後はイオンシネマなど他社も追随するのは間違いないと思われます。

見方を変えれば、26年間も料金が据え置きだったことは称賛に値するのかもしれません。しかし、10月から予定されている消費増税により個人消費の落ち込みが懸念される中、今回の値上げの影響は決して皆無ではないでしょう。“たかが100円、されど100円”。映画が庶民の娯楽であるならばなおさら、その影響が気がかりです。

葛西 裕一