イェール大学エンダウメント(大学財団)の年次報告書(2018年度)が閲覧できるようになりました。同大学の運用戦略はイェール・モデルともいわれ、世界中の機関投資家がお手本とするものとなっています。

そこで今回は、2018年度の資産配分とそれを可能にする運用戦略を見ていきましょう。

2018年度の資産配分

イェール大学のエンダウメントは上場株式や債券といった伝統的資産への配分を少なくし、ヘッジファンドをはじめとするオルタナティブ資産に多く配分しています。全米エンダウメントの平均的な資産配分と比べると、同大学の資産配分はかなりオルタナティブ資産に重きを置いているのが分かります。

図表1.イェール大学エンダウメントの資産配分

同校の資産配分比率は、伝統的資産に23%、オルタナティブ資産に77%となっており、あたかもイェール大学自体が一つのヘッジファンド運用会社のようです。

その中でも、オルタナティブ資産の中で前年度比資産配分を増やした資産クラスは絶対リターン型ヘッジファンドとベンチャーキャピタル(VC)のみで、他資産への配分を減らしています。両資産への配分を増やすということは、流動性を犠牲にしてでも他資産と比べ、より高いパフォーマンスを得られる可能性があると見ているからでしょう。

これにより、イェール大学エンダウメントはその資産のほぼ5分の1をVCに配分していることになります。年次報告書によれば、VCの過去20年間の年平均リターンは24.6%ということで、これは20年前に投資した資金が約81倍になったことを意味しています。

VC投資への強み

他大学と比べ、イェール大学エンダウメントはVC投資に強みを持っているわけですが、それをサポートしているのが同大学内にある Office of Cooperative Research(共同調査事務局)とYale Entrepreneurial Institute(イェール起業大学)です。

前者はイェール大学発の起業家を輩出するため1982年に設立され、後者は2007年に設立されました。イェール起業大学は実際にスタートアップする前の段階で、対象となる学生に10万ドルを支給し、学内外の企業家を紹介したり、エンジェル投資家やVCからの出資をアレンジしたりします。

図表2.イェール起業大学:開業までの流れ

出所:Yale Univercity Office of Cooperative Reseachより筆者作成

資金導入に関しては、エンジェル投資家やVCだけではなく、政府補助金、銀行、クラウドファンディングなどの利用も検討されます。

その結果、これらベンチャー投資家にとってのベストな出口戦略はIPO(新規上場)ですが、スタートアップがダメになる事例も学生に教えています。たとえば、経営失敗、資金不足、提供商品にニーズなし、過剰なニッチ商品、不運・・・などです。もっとも、イェール起業大学は、「失敗もシリコン・バレーの強み」と教えているのがさすがです。

このように、VC投資家としてのイェール大学エンダウメントは、VC側、またスタートアップ育成側の両面で将来性のある新興企業をサポートしているため、VCへの配分を増やすことができるのでしょう。

ということで、イェール大学はVCのみならず、今年も引き続き新しい運用戦略を公募しています。連絡先は以下の通り。

prospective.managers@invest.yale.edu

太田 創(一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事)