近年、政府の異次元金融緩和策による低金利にも後押しされ、多くの人々に浸透した不動産投資。定期的に賃料収入が得られるうえ、景気や需給の変動による資産価値の上昇も見込めることもあり、安定的な資産運用の手段として注目されている。ただ、不動産の活用効果は、目に見えやすい「収益」だけに限らない。企業経営者や富裕層など多くの資産を持つ人にとっては、もっと大きな効果をもたらすケースがあるのだ。
折しも、2015年の税制改正に伴う「遺産にかかる基礎控除の引き下げ」「相続税の税率構造の多段化」により相続税課税対象者が増えたため、事業承継や相続対策に大きな関心が寄せられるようになった。そうした相続税課税対象者の資産の内訳を見てみると、土地・家屋などに対して有価証券・預貯金の比率が非常に高く、2人以上世帯の貯蓄のうち『預貯金がその約3分の2を占める』といったデータもある。すなわち、金融資産、特に現金をそのまま保持し、何ら対策を講じていない資産家が数多くいるのが現状だ。
事業承継や相続発生時にスムーズに資産を次世代に引き継ぐ方法として、特に投資用収益不動産の活用が注目を集めている。
家賃収入など以外でのメリットは?
たとえば、株式会社をはじめとする法人の事業承継に不動産を活用する場合がある。通常、設備や不動産といった事業用の資産は法人名義で所有しているが、その法人の株式を保有しているオーナーは、将来その株式は子息などの事業後継者に相続させたいと考える。
このとき株式は、相続対象資産として、国税庁が定める「財産評価基本通達」によってその額を評価することになるが、ポイントは「法人が保有する財産を相続税法上の評価額で算定して株式の評価に反映させる」点だ。
不動産の相続税評価額は実勢価格より低くなる傾向があり、賃貸用収益不動産であれば、土地は「貸家建付地」、建物は「貸家」として評価され、さらに評価額が下がる可能性が高い。つまり、法人保有の資産も、有価証券や現預金にしておくよりは、不動産に換えておいたほうが株式の評価額を低く抑えることができ、相続税納税額の負担軽減が実現しやすいといえる。
ただし、注意点がいくつかある。まず、法人で不動産を取得すると取得から3年以内は相続税評価額でなく、通常の時価(売買取引価額)で評価されてしまう。つまり、この期間内に株式を相続しても、負担軽減効果にはつながらない。また、取得した不動産の地価が高騰すると相続税評価額も上がり、自社株が高く評価されることもある。こういった点は留意したほうがよさそうだ。
個人の相続の場合の利点とは
不動産の活用法は、個人事業主の事業承継にも適用される。一定の要件(2018年の税制改正で適用に事業用賃貸物件の3年貸付等の制限あり)を満たすと「小規模宅地等の特例」により不動産の相続で評価額が低減され、事業で使用している土地は「特定事業用宅地等」として400平米までなら80%減、賃貸用の土地は「貸付事業用宅地等」として200平米までが50%減になる。仮に相続税評価額が1億円で400平米の事業用地なら、2,000万円まで評価額が圧縮できるというわけだ。やはり、有価証券や現預金で保有するより不動産にしておいたほうが、相続税の圧縮効果が期待できるといえる。
個人の相続においても、基本的な考え方は同じだ。現状の相続税において、基礎控除の金額は「3,000万円+(600万円×法定相続人)」とされていて、控除額より相続する金額が少ないと課税されないが、これを超えると相続税の申告が必要だ。法定相続人の取得金額が1,000万円以下なら課税率は10%だが、金額が上がると段階的に課税率も上昇し、1億円超~2億円以下で40%、6億円を超えると実に55%もの課税率となる。
このように、保有資産を不動産にしておくことで、相続税の評価額が下がり、相続税を抑えられる可能性が高い。小規模宅地等の特例も認められ、一定の要件を満たした自宅を相続するなら、不動産の相続税評価を80%も引き下げられる。
もちろん、納税は国民の義務であり、法の順守は当たり前のこと。とはいえ、不動産を活用することで形ある資産を次代に引き継ぐことができ、資産の圧縮効果により相続税の低減も期待できるというなら、一考の余地があるのではないか。さらに、それが収益不動産であれば、受け取る相続人は安定的な賃料収入が得られるので、相続人も被相続人も安心というものだ。
「争続」はどういうときに発生するのか?
法人・個人事業主の事業承継、個人における相続でも、不動産の活用は大きな効果をもたらすことがわかった。一方、不動産という資産の引き継ぎにおいて、相続人が複数いることでトラブルに発展する「争続」は後を絶たない。持っている不動産がひとつだと、金融資産と不動産をどのように割り振るのか、あるいは長男は売却して現金化を希望しているのに、次男は売りたくないといったことが起こりうる。複数の物件を所有していたら「どれを誰が相続するのか」でもめるケースもあるだろう。
では、不動産にまつわる争族を避けるにはどうすればいいのだろか。そこで最近、注目を集めているのが「共同出資型不動産」のスキームだという。
「これは、運用対象の不動産を複数の投資家で共同所有し、賃料収入を分配する投資運用商品のことを指します。高額な不動産を一定の口数に分割して販売するので投資のハードルが下がるばかりか、複数の口数を持つことで遺産を分割しやすいのが特徴です」
こう話すのは、長年、分譲・投資用マンションの開発や販売、賃貸運営、売買仲介等を手掛けてきた、株式会社コスモスイニシアのソリューション事業部・投資運用商品課の山内崚汰(りょうた)氏だ。
都心の優良不動産を小口に分割
同社はこれまでに分譲マンション事業においては10万戸を超える供給実績を誇っている。2017年からは東京で都心部の一棟の投資用収益不動産の所有権を複数の共有持ち分に分割して投資家へ販売する共同出資型不動産『セレサージュ』シリーズの販売を開始している。
「プロジェクト第1弾の代官山の物件はすでに完売していて、現在は第2弾『ラグラシア表参道(商品名はセレサージュ表参道)』を取り扱っています。この物件では募集総額26.5億円を530口に分け、1口500万円、最低出資額1,000万円の商品とし、現在出資者を募っています」
都心の優良な一棟ビルは高額で、個人が手を出すことは容易ではないが、共同出資型不動産であれば購入のハードルが下がる。もちろん、投資運用商品なので元本・分配金は保証されないが、テナント需要が強く高い稼働率を維持できれば、投資家には口数に応じたリターンが分配されるという仕組みだ。
相続の観点で見てみると
これは一例だが、こうした都心部の共同出資型不動産は、「相続」の観点でとらえてみるとどうなるか。
最大のメリットは、都心の優良不動産は地方の投資用不動産と比較して、相続税評価額と市場価格との乖離が大きくなるため、資産圧縮効果が高いとされているという点だ。都心の優良不動産は高賃料で収益性も良いことから、都心以外の不動産に比べて市場価格は高くなりがちだ。しかし、先述の通り、相続発生時には、不動産の価値は市場価値ではなく相続税評価額で計られるため、高い資産圧縮効果が期待できるというわけだ。さらに、実物不動産と同様に所有権があり、減価償却の対象にもなる。そのうえ小規模宅地等の特例により、さらに高い資産圧縮効果も期待できるというわけだ。
共同出資型不動産であれば、複数口数を取得すればスムーズな遺産分割も実現しやすい。相続人の人数と同じ口数を購入しておけば公平に資産を分割でき、また分割後に売却したり、そのまま持ち続けたり、相続人がそれぞれのニーズによって使い分けることもできる。
高い資産圧縮効果と口数単位でのスムーズな分割。これは共同出資型不動産が相続時に発揮するメリットといえそうだ。事業承継・相続における有効な手立てのひとつとして考えてみてもよいかもしれない。
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