スマートフォンのディスプレーを駆動させるディスプレードライバーICが、新技術・新構造によって、装置・材料業界に大きな事業機会をもたらしている。タッチコントロールICとディスプレードライバーICを統合・集積化したTDDI(Touch Display Driver Integration)が、スマホ向けに出荷数量を大きく伸ばしており、中華圏スマホメーカーを中心に2019年以降も着実な数量増が見込めそうで、関連部材や製造装置投資が活況を呈している。

 また、従来のCOG(Chip on Glass)からCOF(Chip on Film)実装への切り替えも進んでおり、フィルム基板の需要拡大やテスター投資の拡大を演出している。スマホ向け半導体や電子部品は昨今、出荷台数の減少というマイナストレンドを迎えているが、ドライバーIC分野に関しては、TDDI/COFという新技術・新構造の台頭によって、市場の動きは異なる成長曲線を描いている。

インセル型ディスプレー登場が契機

 そもそもTDDIの台頭は、タッチパネル機能をTFT上に組み込んだインセル型ディスプレーの登場が1つの契機となっている。インセル化するとタッチの信号をドライバーICの信号線のなかに組み入れることができ、配線長を短くできるなどのメリットがある。また、1チップ化することでコストダウンも図れ、米シナプティクスが以前から製品コンセプトなどを提案していた。米アップルはタッチ感度の低下などを懸念し、採用に消極的であったが、近年中華圏スマホメーカーを中心に採用が拡大している。

 調査会社IHSマークイットによれば、17年のTDDI出荷数量は3.1億個であったが、18年は4.5億個に拡大。19年以降も数量は拡大し、20年には6.7億個の市場規模を形成する見通しだ。

 近年、これに加えて、スマホのフルスクリーン化が進展しており、従来のCOGからフィルム基板を用いたCOF実装が復活。COFの生産キャパシティーは大半が大型テレビ向けという現状で、急激なCOF基板の需要拡大に対応できていない状況が続いている。IHSの宇野匡氏も「COFの供給は19年いっぱいタイトな状況だ」として、アロケーション状態が続くと予想する。

TDDI/COF化の恩恵受けたアドバンテスト

 COFを用いたことで、パッケージレベルでのファイナルテストが複雑になったほか、テストタイムが従来に比べて3倍近く伸びており、ドライバーIC用テスターの需要拡大につながっている。

 半導体テスター大手のアドバンテストは、まさにこのTDDI/COF市場の活況をフルに享受しており、18年のSoCテスター市場におけるトップシェア獲得の大きな要因となった。同社のドライバーIC用テスターの売上高は2年前の16年時点ではほぼゼロに近かったが、TDDIおよび有機ELドライバーIC用テスター投資の拡大により、18年はドライバーIC用テスターで300億円を上回る売り上げを記録したもようだ。

 ドライバーIC向けの金バンプおよび組立・テスト工程を請け負うチップボンド(ChipBond)、チップモス(ChipMOS)の台湾OSAT2社は、COF組立能力およびテスター投資を17~18年に重点的に進めている。チップモスはCOFベースのTDDI売上高が増加、18年10~12月期におけるドライバーICのうち22%がTDDI、TDDIのうちCOFベースの比率が17.6%まで高まっている。19年に向けてもTDDIのテスト能力およびCOFの組立能力を引き続き増強する予定で、設備投資額の60~65%を同分野に充当する構えだ。

 現状、TDDI供給メーカーの市場シェアはシナプティクスが35%、ノバテックが35%、フォーカルテックが25%を有しており、大手3社の競合状況となっている。とりわけ、近年はノバテックが出荷を大きく伸ばしており、19年はトップシェアをうかがう勢いだ。18年はおよそ1.5億個のTDDIを出荷したとみられ、19年は2.3億個を計画。市場全体の伸びを大きく上回る成長率を見込んでいる。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳