景気は絶好調なのに実感できない理由

景気は絶好調なのに、実感できない人が多いのは、賃金が上がらないこと、デフレマインドが染み付いていること、等が要因だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

景気は絶好調と言えるレベル

景気拡大期間が戦後最長を更新した模様です。「景気の回復スピードが緩やかであるがゆえに景気が過熱せず、回復・拡大が長持ちするのだ」ということのようですが、そうは言ってもこれだけ回復・拡大が持続していると、景気の水準も自ずと高まってきます。

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「景気」という統計はありませんが、今の景気は絶好調と言っても良いと筆者は考えています。何より重要なのは、失業者が少なく、働きたい人が誰でも仕事にありつける状態だ、ということです。インフレも失業もない状況が経済政策の目的だとすれば、現状は理想的だと言えるでしょう。

企業の利益も史上最高水準です。海外子会社からの配当等が貢献している部分は国内の景気とは関係なさそうですが、それを除いて考えても高水準です。

労働力の需給が非常に引き締まっていて、企業が大いに儲かっていて、人員も設備も足りないと感じているわけですから、景気は絶好調だと言って良いでしょう。

しかし、デフレマインドによって人々の景況感は冴えない

しかし、消費者態度指数、日銀短観の業況判断DIなどを見ても、各種報道を見ても、人々の景況感は冴えません。景気の回復が実感できていないのです。その理由を考えてみましょう。

おそらく最大の理由は、人々のデフレマインドでしょう。「労働力不足だ、といった景気が良さそうな話も聞こえてくるけれども、どうせ一時的なもので、遠からず景気は悪化するのだろう」と人々が思っていれば、景気の回復が実感できず、景況感も改善しないのです。

ちなみにデフレマインドというのは、デフレ(物価が持続的に下落すること)とは異なったニュアンスで用いられる場合が多く、「どうせ遠からず事態は悪化するだろう」という人々の考え方を指す言葉のようなので、本稿でもその意味で用いることとします。

バブル崩壊後の長期低迷期、事態が好転しても長続きせず、期待が裏切られ続けたことから人々の心にデフレマインドが染み付いているのだ、と言われています。

しかし、それ以外にも理由はあります。その最大のものは、賃金が上がらないことでしょう。

賃金が上がっていない

非正規労働者の時給は、労働力需給が逼迫していることを反映して、上昇しています。時給を上げないと人が集まらず、今いる人も他社に引き抜かれてしまうからです。

もっとも、猛烈に労働力不足となっているわりには、非正規労働者の時給の上がり方は緩やかです。飲食店などが「値上げをするとライバルに客を奪われるので、値上げはできない。したがってアルバイトに高い時給は払えない。人手不足だが、我慢するしかない」と考えているからです。

その背景には「遠からず景気が悪化して労働力不足も解消するだろうから、一時的な労働力不足は我慢しよう」というデフレマインドがあるのだと思われます。

さらに問題なのは、正社員の給料です。日本的雇用は終身雇用で年功序列賃金ですから、賃金を上げなくても労働者が辞めないので、経営者は賃上げをする必要性を感じないのです。

かつての日本企業は「従業員の共同体」でしたから、儲かったら従業員に分配するのが当然だ、と考えていましたが、最近の日本企業は「グローバルスタンダード」に基づいた「株主が金儲けのために作った組織」ですから、儲かったら配当するのが当然で、従業員の賃上げは必要最小限にとどめるところが多いのです。

景気の恩恵を受けても気づかない人が多い

人生90年時代、100年時代を迎えようとしている今、定年後も長く働いて老後に備えることの重要性は増しつつあります。主婦にとっても、大いに働いて老後に備えることの重要性は増しつつあります。

そうした中で、高齢者も子育て中の主婦も簡単に仕事が見つかるというのは、素晴らしいことです。まさに景気回復の恩恵と言えるでしょう。しかし、当の本人は景気回復の恩恵だと感じていない可能性が高いのです。

特に、「景気が悪ければ定年後は引退せざるを得なかった人が、景気が良いがゆえに仕事を見つけることができ、現役時代よりは安いけれども給料がもらえている」という場合には、「景気が良くてありがたい」と思う人よりも「現役時代より所得が減って苦しい」と思う人の方が多いでしょう。

人間は想像力が乏しいので、「もしも景気が回復していなかったら、今よりさらに困った事態に陥っていたはずだ」といったことに思いが至らないのです。あるいは、「景気が回復していなくても、自分は優秀だからどこかの企業に雇ってもらえたに違いない」という「自己評価の高い人」も多いかもしれませんし(笑)。

世の中には悲観論が溢れている

世の中には、悲観論が溢れています。「儲かっている会社は労組の賃上げ要求が怖くて黙っている」「経済評論家は問題点やリスクの指摘に熱心である」「マスコミは困っている話を書きたがる」というわけですね。

日々そうした悲観的な情報に接していると、どうしても悪い方に物事を考える人が増えてしまいます。それが景気回復を実感できない理由なのかもしれません。そのあたりの事情については拙稿『日本人を悲観的にさせているのは誰だ?』をご参照いただければ幸いです。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

参考記事

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
なんだ、そうなのか! 経済入門
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